第16話 魔王爵

かなり走り、いかにも学園といったような建物が正面に見えてきた時、魔王が僕を止めた。


「いきなり脇道に入れって何?僕急いでるんだけど、」


その場で足踏みしながら僕は、若干怒りをはらんだ声を飛ばす。


『学園の試験の受付に行くのだろう?ならその格好は駄目じゃないか?』


言われて僕は自分の服を見る。


白いワンピースに黒いローブ。指輪が2つにイヤリング。


「ちょっとイタイ?」


なんとなく魔法使いに憧れる痛い子みたいだ。


『魔王のローブをイタイとか言うな!!違くて、君は今女だろ?それもかなり別嬪の。そのまま受けてもいいと思うがそれこそ面倒臭いことになるし、性別を偽っていると不便なことがあるだろ?』


特に学園生活だと。そう付け足した魔王の言葉に僕はたしかにと頷く。


「でも、女顔なのは悲しいことにもとからなんだよな。それが原因でいじめられたりしたし、僕的にはもっと酒場でお酒を飲んでいるハンサムなオジサマみたいな顔が良かったんだけど。素顔を晒すとそれこそ元の世界の奴らにバレるし………。かといって親からもらった顔を変えるのはなんというか、許せない。」


僕の数少ない愛している人達、両親。

彼らに唯一貰ったもの、それがこの体である。

顔が原因でいじめられたとしても、あまりいじりたくはない。


『色々と君も大変だね。じゃあこうするといい、髪の毛の色はいじらないで、前髪を長めにして目を隠す。これでいいんじゃない?』


それなら男で素顔を晒さず顔をいじらないという条件を満たして、そこまで違和感がないな。


まぁ若干厨二っぽいけど、そこはご愛嬌か。


「それにするよ。見た目を変えよう姿は変わる変身チェンジ!」


魔法を唱えるともはや慣れてきた長めの髪の毛が短くなる。


日本では女装に似合うようにショートの女子みたいな髪型にさせられてたし、前髪が長いとしてもここまで短くしたのは久しぶりだ。


日本での負の象徴であった長髪から開放されたのは、嬉しい。


『あとは服装だな。ワンピースはやめた方がいいだろう。』


「だよな、作るかぁ。」


僕は創造クリエイトの魔法で茶色の長ズボン、薄い黄色の長袖の服を生み出す。


今は春だからこれに魔王のローブを羽織れば丁度いいだろう。


「どうかな?」


『うん、普通の男だ。この世界でも浮かないだろう。』


僕はワンピースを魔法でしまい、魔王にありがとうと言い、外に出る。

なんの変哲もない男の姿だ。普通なら普通なのだが、僕としては感慨深い所がある。


空を見上げ、太陽が顔を隠し始めているのを見て僕は走りだした。


 ◇ ◇ ◇


「あっあの、すみません。」


門番さんの怖い視線をうまく躱してやってきたのは学園の校舎の真ん中にあった受付。


そこに座るお姉さんはニコッとしているが終了間際の訪問に隠しきれない疲労が露見していて心配になる。


「はい。試験申し込みでしょうかか?」


「はい。そうです。」


声にも疲れが出ているが、そこはプロだ笑顔を損なわず書類を出してくれた。


「この書類に必要事項を記入の上、ご提出下さい。」


僕は指さされた隣のテーブルで必要事項を書く。


名前………。


「魔王、あの長ったらしいの教えて。」


名前を覚えていないというか、長すぎるのだよ。


『あぁ、レスト・ローズド・サタンヴィッチ・ルシファーだよ。』


何故か自慢げに魔王が言うのを僕は紙に書きうつす。


爵位があれば記入……か。


「あの魔なんとか爵ってここに書いてもいいの?」


『おう!好きなだけ書いて良いよ!』


魔王はやはり嬉しそうに言う。


魔王爵っと。


その後性別などの当たり障りのないことを書いて僕はお姉さんに紙を渡す。


「確認しますね。レスト・ローズド・サタンヴィッチ・ルシファーさん。ですか……。爵位は………ま、魔王爵!?」


お姉さんは驚愕の表情でパラパラと分厚いファイルをめくり始めた。


(魔王爵なんてあったかしら?でも、嘘を書いてるようにも見えないし………でもこの一覧表にもないし………)


パラパラ、パラパラ。速度が速くなっていき、お姉さんはふと最後のページで手を止める。


(やっぱりない………な!!ローズド・ヒル・サタンヴィッチ・ルシファー魔王爵!?爵位階級、四大公爵家に準じるものとする!!?)


お姉さんがそこで固まり、僕を見る。


「ま、魔王爵様ですね。お、お名前のほうが違っておりますが……?こちらにはローズド・ヒル・サタンヴィッチ・ルシファー様とあります。」


疲れから一変、緊張したお姉さんは背筋をぴーんと伸ばし僕に聞いてくる。


「えっと、多分それは先代魔王爵です。私は先代より魔王爵の名を受け賜ったのです。」


魔王が言う通りに返したらお姉さんは納得してくれたのか、書類に印を押してくれた。


「で、ではこちらに血の方を一滴垂らひて………してください。」


噛んじゃって恥ずかしそうにしているお姉さんは可愛かった。


僕は渡された短剣で指先を切り、魔法陣の書かれた紙に血を垂らす。


「えぇっと………あの、魔王爵様。本人確認ができませんのですが?」


お姉さんは書類の下側に書かれたバツの印を僕に見せつける。


どこか緊張が取れ、僕のことを疑う感じがする。


「とうするの?魔王?」


僕は聞こえないように小声で言う。


『あれじゃ、王の持つ指輪にその指輪が反応するはずなのだが………。まぁ、ここは爵位は間違いでしたって言っておこう。』


僕が言われた通りにすると、お姉さんは僕をなんだよって感じの顔で見て、書類の魔王爵のところに二重線を引く。


「じゃあ、これで受付はできました。本試験の内容や日程などの詳細はこちらの紙に書かれておりますので後ほどご確認ください。当日は受験番号J-9999番。この札をお持ちください。」


もはや疲れを隠そうともせずに渡された銀色の板と書類の束を持ち建物から出る。


お姉さんに嫌われたかもしれないが、なにはともあれ僕は受付をすることができたみたいだ。


外に出てみればもう日が完全に落ち、街は夜の装いへと変わっていた。

僕は異世界のお店を見つつ大通りを歩く。


「この街は随分騒がしいな。こんなんじゃ犯罪も多そうだ。」


フローラの小言に僕は苦笑いする。

異世界系のテンプレの一つに、路地裏にたまたま入った主人公が可愛い少女がDQNたちに絡まれているところに出くわし、格好つけて助け出し宿屋が同じとか奴隷とかで惚れられるというのがある。


「まず言いたいけどさ、なんで夜に脇道なんて入るの?危険なことがわからないの?あとDQNたちだって馬鹿じゃないんだ、その場で襲わずに連れて帰るとかしなよ。どうせ魔法の才があって実は強いヒロインなのに何故か抵抗しないし、あれわざとやってるの?マッチポンプなの?主人公も主人公でお人好しかよ!少しぐらい疑ったり、報酬をもらったりしたらどうなの?」


本当に、彼らは主人公達ハイリスク、ノーリターンで人を助け過ぎなんだ。もっと自分の心配をしようぜ?


僕は宿屋の看板を見つけ外見がそこそこいいので、入ろうとする………所で足を止める。


「僕、お金持ってなくね?」


『気づいたのか。入る前に止めようとは思っていたが。』


魔王!知ってたなら教えてくれよ!

どうするかな、このまま宿に入ることはできないし、かといって外で寝るのは………。


いや、今までも野営してたんだこの際変わらないだろ。


幸いなことに春でそこそこ温かいし。


「でも、どこで寝るかだよな。」


街の中心の噴水に腰掛けて考える。

日本だったら駅前で寝てるおじさんとかがいるんだが………。


僕は広場を見渡すと、酔っ払って寝てしまっているおじさんやお兄さん、中にはお姉さんがいるのを見つけて、意外にここで寝るのもいいかなと思う。


「あっ!」


僕の隣に座っていたおじさんが一瞬ですられていた。


周りを見れば孤児のような子供達が多くいた。


「寝床が目的か、はたまた寝てる人達が目的かってね。」


僕はやはり人は信用ならないと思い、噴水から立ち上がる。


「どうするんだ?このままだと寝れないだろ?」


そうだよなぁ。僕は考えるうちに大通りを横にそれ、細い道に入ってしまっていた。


「あれ?これやばくね?僕テンプレ形主人公になっちゃうよ!」


気づくが遅し。寒気がして僕は咄嗟に「反射ミラー」の魔法を使い、壁に張り付く。


「へへへ、お姉ちゃん1人?」

「はい。そうですが?」


キッター!テンプレ展開!


僕の後ろから来た小柄な緑髪の少女が、僕の前方の曲道から現れた髭面のお兄さんに絡まれている。

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