3 学園入学編

第15話 旅立ち

ダンジョン帰還から丁度10日、街に行きたいがどこにどうやって行けばいいかわからないので、魔王と鍛錬する日々。


そんな平穏なある日、


「だっだれか!!」

「ぐわァァァああ!!」

「キャーー!」


いきなりこんな悲鳴が聞こえてきた。


『行くか?』


魔王がニタニタしながら聞いてくる。


「うっさいよ。」


僕は、返事もさながらに声の方へ走り出す。


「ぐへへ、上玉だぜ!!」

「男も金持ちっぽいですぜ!!」


気持ち悪い顔で山賊たちがに近寄る。


「ぐっ、旦那様逃げてください!」

「い、いかん!死ぬなジョハン!!」


ジョハン、ジョハンとな。アメリカにもいそうだな。


僕は、旦那さまの言葉に死ぬ覚悟をした優男と勝つ気満々の山賊の間に歩いて入る。


「すみません、通ります。」


瞬殺しようと思えばできたが、恩を売るため山賊の頭の前で隙きが多めに構える。


「何だテメぇ?」

「兄貴、こいつもなかなか綺麗ですぜ!」


野郎どもは明らかになめた顔で僕を見る。


「………。」


でも僕はあえて何もしない。

奴らが商隊を襲っているのは日の目を見るより明らかなのだが、僕に直接手を出してくるまで我慢しよう。


「死にたいのか?楽にはイかせないぜぇ!」


盗賊の頭が、手に持つ粗雑な剣で斬りかかってくる。


あと数センチで肩が切られる………そこで僕は体を右に少しずらし、鞘から剣を………抜かず、ゴブリン印の短剣の柄で兄貴さんの腹をちょんと突く。


「ぐっ、グハァ!」


ちょうど骨の隙間に入ったらしく、泡を吹き出して地面に倒れる。


「なっ、兄貴に何をした!!!」


山賊たちは頭を倒した僕を少し怯えながら見る。


「これは正当防衛ですよね?」


僕は肩越しに後ろの護衛の人に聞く。


「ーーーはい!そうです!!」


護衛さんから認可がおりたところで、僕は残る5人の山賊皆に等しく飛び蹴りを食らわせてやった。


「ぐはぁ!」


皆さんぐはぁがお好きですね?


僕は山賊を一塊にまとめて護衛の隊長に差し出す。


「あ、有難う御座いました!」


しばらく固まっていたが何かを思い出したかのように護衛達は僕に頭を下げる。


「大丈夫。」


僕は、片手を挙げてカッコつけて離れていく。


「あ、あの!なにかお礼をさせてください!!」


馬車の奥から小太りのおじさんが出てきた。これが旦那様か?旦那様ってよりはおじさまって感じ。


「そうですね………。礼には及びません。そう言いたいところですが、こちらにも事情がありまして。この一行はどこに向かっていますか?」


できれば街まで乗せてくれないかな?

そんな期待を込めて僕は、おじさんに言う。

ちゃんと見た目に合わせて丁寧な口調だろう?


「我々は学園都市まで行きますが?」


学園都市とは何ぞや?


「学園都市とは、王立ツェンリ魔法学園、王立フェリス女学園、王立リェスカ騎士学園の3学園を中心とする都市のことですよ。ここから馬車で2日くらいです。」


へぇー、そんな高度文明が存在するんだ。

てか、僕が不思議そうに思っているのを見て即座に説明してくれるとかコミュ力高くないですか?


「あの、同行させていただくことは可能ですか?」


「はいもちろん!私共の方からお願いしたいです!」


僕はおじさんの後ろのお姉さん方やあんちゃん方を見るが、皆好印象だ。


「じゃあ、少しだけ待ってもらえますか?10分程度で戻ります。」


僕はおじさんのたちから見送られ、広場へ戻る。


『いや、面白いことになったね?』


今まで静かにしていた魔王が言う。


「街には出られそうだね。」


◇ ◇ ◇


広場につくと、ちょうどみんないたので手を叩き注目を集める。


「えーっと、カクカクシカジカだから、ついていこうと思うんだけど。皆はどうかな?」


周りを見渡す。


「我らはレストについていくのみだ。」


「ぶおぅ!」


フローラたちはさも当然といった感じで答えるが、シモは違った。


「ここに残るの?」


「ぶぉ!」


シモさんは僕に向けて頷き、手をシュッシュっと前に出す。


「ここで鍛えるらしいの。」


「そうだね。一度お別れになるけどまた会おうね。」


僕はシモさんと拳を合わせ、抱きしめ合う。


「ブオぅ!!」


 ◇ ◇ ◇


「お待たせしました。」


僕は日本人なので時間は厳格に守る。

早めにつくのは当たり前、遅刻なんてご法度。


「おぉ、いらっしゃいましたか。そちらは従魔ですか?」


おじさんは僕の肩に乗っているスロと、足元にいるただの狐に化けたフローラ親子を見て言う。


まぁ、フェンリルがいるなんてしれたら大問題だしね。


「えぇ、皆かわいい家族です。」


「それはいいですね、さっどうぞ!」


僕は言われて先頭の馬車に乗り込む。


この商隊には馬車が10あり、全部このおじさんの商会の人たちらしい。


護衛は8人で本来なら山賊に襲われることはないルートなのだが、運悪く遭遇してしまったらしい。


街に行ったらギルドに突き出しますよと、おじさんは笑っていた。


「改めまして。ツクモ商会の会長、ナニア・ツクモです。今回は助けていただきどうもありがとうございます。」


僕は名刺代わりの金属の板をいただく。


「ねぇ、名前どうする?レストってどう聞いても男っぽくない?」


女にいなくもないが男のほうがしっくりくる名前だろう。


『あれだ、男として動くときはレスト、女としてならそうだな……サファイヤとかでいいんじゃない?』


魔王はナニアさんの指輪についていた青い宝石を見てそういう。おい、適当だろ。


「貴方様は?」


そう聞かれたので咄嗟に


「サファイヤと申します。」


と言っちゃった。


『いっちゃったね?』

「お前が言ったんだろ!?」


魔王が煽ってくるのがとてもウザい。


「サファイヤ、それはなんともいい名ですな。ハハハ。今後ともどうぞよろしく頼みます。」


「いえいえ、こちらこそ。」


僕は耳にかかる髪の毛を後ろに持っていき窓を見る。


「人と話すの怖いぃ」


『我慢せぇ』


そんなこんなで僕は学園都市まで行くことになった。


 ◇ ◇ ◇


道中盗賊に襲われたり、野営でゴーストの群れがやってきたり………。


なんてことはなく僕らは無事に学園都市に着くことが出来た。


街を見たときの感想は素直にでっけぇーって感じだ。


街の周に高い塀があるのはテンプレか。

多分戦争や魔物の襲撃に備えてるのだろう。


ツクモ商会は有名らしく、ナニアさんは顔パスで街に入れていた。


中の町並みもまぁ、異世界って感じ。ナーロッパとかいわれる世界観のそのものだが、僕は嫌いじゃない。


まぁ、ここ文化レベルにしたら景観が整いすぎてる気もするが、それを気にしたら負けだろう。


「サファイヤ殿はどちらに向かいますか?」


町の入口から少し行ったところでナニアさんに尋ねられた。


「そうですね。先日に仰っていたツェンリ魔法学園という所に行ってみたいですね。」


「あぁ、それはいいです。貴方様の腕前なら合格間違いなしですよ。」


ナニアさんはニコニコして言う。


「入試とかっていつあるんですか?」


意気揚々とここまで来たが入試は昨日で終わりですとか言われたらどうしよう。


決して"学校"というものにいい記憶はない。むしろ悪い記憶なら山ほどある。

それはさておき、僕が魔法学園に入る利点は一見無いように思えるだろう。


僕は魔法を使おうと思えばどんなのでもつかえるし、魔法は魔王が言ったようにイメージだ。


でも、魔法学園とは魔法を冠しているが、魔法以外にも教育全般を行っているらしい。


なら他の学園はというと、フェリス女学園は貴族のお嬢様方、リェスカ騎士学園は代々家柄が騎士家の人たちと入学するのに条件がいる。


それに比べ、ツェンリ魔法学園は誰でも試験を突破さえすれば入ることができる。


そしてその教育内容は『魔法』は勿論のこと、『剣術』『体術』などの戦闘系、『歴史』『魔導工学』『算術』『文学』などの一般教養と多岐に渡る。


………と言う事をナニアさんに教えてもらった。


魔法に対しては、大してそそられないが独学でない『剣術』を知りたいし、この世界で暮らす以上最低限の教養は必須であろう。


こっちの世界でまたいじめられないか、ラノベであるような意味不イベントに巻き込まれないかなど心配事も多いがそれらを足し引きしてもお釣りが来るくらい僕は魔法学園にメリットを感じている。


「毎年春が入試ですよ。確か今年度の入試受付は今日の日暮れまでだった気がしますが?受付されていないのですか?」


………………。なにそれ、してないです。知らないです。

てか、もう日が落ちてきてませんか?


僕はおずおずと聞く。


「受付しないとヤバいですか?」


「ヤバイというか、受付しないと試験は受けられませんよ?」


MA・JI・DE!?


「魔法学園ってどこにあります?」


「この大通りをまっすぐ北まで突き当たりに行ったら見える大きな建物の真ん中です。」


ナニアさんは僕が受付してないことを悟ったのだろう。早口で言ってくれる。


「ありがとうございます!私はここでいいです!ここまでありがとうございました。」


僕はお辞儀をして馬車から降りる。


「貴方様に幸福を!何かあればツクモ商会をよろしくです!!」


僕はナニアさんのちゃっかりとした宣伝の言葉を背に初めての異世界の街を全速力で走った。

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