日本でレストくんの巫女服#1
「ん……うぅ……」
僕は微睡むような感覚の中で、目を開けた。
「ここは……どこ?」
普通に自室で寝たはずなのに、あたりを見渡すと開けた場所になっている。
「に、日本……!?」
僕は周りを見渡してつぶやく。
足元には小石が敷かれていて、顔を上げれば竹林と……
「神社……?」
真っ赤な鳥居が見えた。
ここはどこなのだろうか。
何故に僕は神社にいるのだろうか。
というか、
「これ、何着てるの……?」
僕は自分の服の袖を引っ張って言う。
腕先に来るに連れて広がる白い布に、足元は赤いひらひら……。
「これって、巫女さんの服では……?」
いやなんで?
確かに神社で巫女服というのは分からなくはないが、何故僕が着ているのか。
僕は男だし、そもそもこんなもの着た覚えがない。
「てか、髪の毛まで変わってるし」
元々首程度だった僕の髪が、腰辺りまであって結んである。
「ここはどこの世界線なんだよ……」
僕が頬をかきながらつぶやいた瞬間。
「カーカー」
カラスが一羽、鳴きながら鳥居をくぐっていった。
それは別に変な光景ではないのに、僕にはなぜかそっちにいけと言われているような気がした。
「鳥居の向こう……」
確かによくよく見たら、鳥居の向こう側は雲がかっていてここからではよく見えない。
「行ってみるしかないか」
僕は少し怖くなりながらも、このままだと埒が明かないと、鳥居に向けて歩き始めた。
「く、くぐるぞ……」
僕は思い切って、鳥居をぴょんと跨いで見る。
すると不思議なことに、今まで雲がかっていた向こう側がパーッと晴れて、見渡せるようになった。
「ねーどうするよ?」
「だるまはいらないか!?」
「新年に屋台どうだい!!」
「お父さんあれ買ってー!」
「おいおちそっちいくんじゃない」
「ほらピースして」
とたんに聞こえてくる声の数々。
その一つ一つは聞き取れないけど、全体が喜びで満ちていた。
「ど、どうなってるんだ……?」
僕が立っているのは参道の石畳の真ん中。
そして前方には溢れんばかりの参拝客がいて、両側には新年の屋台が軒を連ねている。
これは、新年の初詣ってことかな?
何故僕は巫女服でよくわからない神社の新年の初詣に来ているのだろうか。
僕が再び頭を悩ませていると、
「カーカー」
また一羽カラスがやってきて、参道の奥へと飛んでいった。
奥まで進めということか。
全く意味がわからないけど、とりあえず行ってみるか。
僕はその奥に何があるのか気になりながら、一歩踏み出した。
すると、不思議なことに僕が動くと参拝客が避けてくれる。
「どういうことなんだ……」
僕は不思議に思いながらも、石畳の参道を進んでいった。
「また鳥居だ」
参道を進んでいくうちに、参拝客の数は少なくなっていき、屋台もなくなっていった。
そして参拝客すら見えなくなった頃、鳥居が見えた。
その鳥居ははじめのものとは違い、灰色で苔とかもついているような古めかしいものだ。
でも、鳥居の奥は雲がかかって見えなくなっているのは最初と同じ。
「これもくぐるのかな?」
僕がつぶやくと、
「カーカー」
やはりカラスが一羽やってきて、鳥居の端ギリギリを飛んで奥に消えていく。
行けと……。
分かりましたよ。
僕は半ば諦めのような感じで、鳥居をくぐった。
全身がくぐり終わると、雲が晴れて奥まで見渡せるようになる。
「本殿?」
今度は人がたくさんいるなんてことはなく、神社の本殿らしきものが見えるだけだ。
これは参拝したほうがいい感じかな?
僕がそう思っても、今度はカラスは来てくれなかった。
「一応やるか……」
僕が参拝しようと踏み出したその時、
「ゆいち!!何してるのゆいち!!!」
僕を呼ぶ声が聞こえた。
「っ!?」
僕は久しぶりに聞く自らの本名に驚いて、声のした方を見る。
「ゆいち!早く来て!!みんな戦ってるから!」
そこには、僕と同じような巫女装束をきた少女がいた。
「え? ヒスイ?」
僕は急かされるけど、彼女の容姿の方が気になっている。
だって、彼女は格好と髪型だけは違うけど、それ以外はヒスイに瓜二つだから。
「ヒスイって誰?私は
ヒスイらしき人は自らが珠だと名乗り、僕を急かす。
「えっ?あ、わかりました……?」
僕はよく分からないけどすごい焦ってるみたいだし、珠と言う少女についていくことにした。
「走って!!私についてきてね!」
僕が歩き出したのを見て叫ぶ珠。
「あ、はい、すみません」
僕は素直に謝って、彼女に向かって走り出す。その姿を確認した珠も本殿の奥の森に向かって走り出した。
これはどういう展開なのだろうか?
なんで彼女が僕の本名の下の名前である『ゆいち』を知ってるのかわからないし、知り合いっぽいけど面識はないし。
戦いとか言ってて、みんなが待ってるって言ってたけど、そのみんなは誰なのか。今からどこに行って何をするのか。
すべてが謎に包まれている。
というか、巫女服って走りづらいね。
さっきから何回もコケそうになってるもん。
これどうにかならないのかな?
僕はそんなことを思うほどに、状況が理解できていなかった。
とりあえず……走るか。
考えていて分からないものは考えない。
ということで、僕は珠さんについていくことにした。
どうか先に危ないものがありませんようにと、願いながら。
「着いたらゆいちは
木々を避けながらかなりの速度で走る珠さんについていっていると。
突然振り向いた珠さんが、前を見ずに走るという器用なことをしながら叫んだ。
「
僕は聞き慣れない単語に思わず聞き返してしまった。
名前はとても強そうだけど、そんなものは生憎知らないのだけど。
僕の愛剣も刀だけど、そんな名前ではない。
というか、あれとかあのとか指示語が多くない?僕、全くといってわかってないんだけど大丈夫そうなの?
「あそこで飛んで!!そしたらすぐに剣を出して!!」
頭にはてなを浮かべまくっている僕に、珠さんが再び振り返って叫ぶ。
あそこというのは多分前方に見える、明らかな崖のことだろうか。
ここからではあの崖がどれくらいの高さかはわからないけど、絶対に人間が無事に着地できるような高さじゃないと思うんですけど……。
剣を出すって言われましても、僕ただの巫女服で腰に鞘なんて挿さってないし……。
「ほら飛んでっ!!!!!!」
何を言われても意味を理解できていない僕に、珠さんは崖から飛び降りながら叫んだ。
怖いんですけれども。
僕、意味がわからずに崖から落ちて死ぬのは嫌なんですけれども。
けど珠さんは先に飛んじゃったし……。
「とりゃっ!!!!」
僕はもうよく分からないので、なんとかなるさの精神で崖の手前で踏みとどまらずに、そのまま先っぽでジャンプした。下に地面があると信じて。
浮遊感に包まれながら下を見れば、底が見えないほどの断崖絶壁が見えました。
「いやぁぁぁぁあああああああああ!!!!」
僕は絶叫とともに落ちていった。
これ真面目に死んだのでは?
僕は笑えない恐怖感に苛まれながら落ちてゆく。
とうとう地面が見えて、僕は魔法で対抗しようとするが、なぜか浮遊の魔法も何も使えなかった。
このままだと終わりだと僕が目を閉じた瞬間。
「
先に落ちていたはずの珠さんの声が響いて、僕の足元に金色の雲が現れた。
「うぐっ!」
僕は間抜けな声を出して雲に落ちるが……痛みも何もなく、体は無事だった。
「い、生きてる……?」
僕が傷一つない自分の手を見てつぶやくと、
「早く、ゆいち!!!」
珠さんの急かす声が聞こえた。
僕はどうすればいいのかと周りを見渡して……驚く。
開けた谷には巫女服を着た少女が山のようにいて、その皆がなにか武器を手に持って、視線を一箇所に集めていた。
彼女たちの視線が交差する場所を見ると……。
「お、鬼……?」
片角の折れた真っ赤な巨大な鬼が金棒片手に立っていた。
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