日本でレストくんの巫女服#2
鬼に巫女に觔斗雲って、どんな世界線なんだ……。
展開が謎すぎるし、早すぎるよ。もう少し説明がほしい。
僕は全くもって意味がわからない状況にツッコミを入れつつも、自分のやるべきことは理解した。
僕は桜ノ剣といつやつで、この鬼を倒せばいいんだね。
でも、肝心の刀の出し方がわからないのですけど……。
「早く!!もうすぐ来るよ!!」
頭を悩ませる僕に珠さんが切羽詰まった声をかける。
来るって何が?
またもや疑問が増えるけど、諸々はおいておいて。
今はとりあえず刀を出すことに集中せねば。珠さん以外の女性たちの視線もさっきからグサグサと刺さってるし……。
「剣よいでよ」
僕は手を伸ばして言うが、何も起こらない。
違うかぁ。もっと凝ってる感じかな?
「剣よ現われろ」
僕はちょっと変えて言ってみるが、やはり反応はない。
なんだろう、腕を振るたびに巫女服の袖の部分がひらひらと僕の前を通って、とても虚しくなってくるんですけど……。
「何してるの!?剣は飛び出して切羽詰まらないと使えないよ!!?」
試行錯誤しても全く進展のない僕に耐えきれなかったのか、珠さんがとうとうキレて、やり方を教えてくれた。
すみません……けど、やり方を教えてもらえないと分からなくないですか?
というか、切羽詰まらないと使えないって、初見殺しすぎでは?
僕は言いたいことをぐっと飲み込む。
剣の出し方も分かったところで、鬼と向き合い、
「行きますっ!!」
魔法の使えない戦いを始めた。
地面を蹴っただけの単純な脚力じゃ、絶対に鬼に届くことはできない。
だから觔斗雲に乗って、鬼のすぐそこまで浮いていった。
「ふぅ……行こっ!」
僕は魔法が使えないところでの戦いという、本当に命がけの戦いに震える脚をそのままに、空中に飛び出た。
ビュゥッーーーン
風を切る音とともに体が急速に落下していく。
僕は鬼がこちらを見向きもせずにまっすぐと女の子たちがたくさんいる方に歩みだすのを見ながら、剣を構える。
「ぐっ……!」
重力に引っ張られて空気抵抗を一身に受けながら構えるのは大変だけど、それをしないと始まらない。
僕はなんとか構えて、鬼の腕の真上へと落ちてゆく。
普通に考えたら、このままで行ったら鬼の腕は切れずに僕が死ぬ。
そりゃそうだ、この刀が何でできているかは分からないけど、相手は僕の何倍もある巨大な鬼なんだから。
上からたかが2メートルもないような剣持って落ちていったところで、切れるわけがない。
けど、僕にはこのままいけるという自信があった。
この
これなら切れると。この程度の鬼造作もないと。
珠さんが僕が行けば解決すると言っていたのもわかる。そのくらいに、この剣は圧倒的なのだ。
「っ!はぁっ!!」
僕はもう目と鼻の先に迫った鬼の右肩に、体ごと剣を叩きつける。
「ぐっ!!」
僕の腕と横腹に強烈な痛みが走ったその時……
桜の花びらが数枚、風に舞った。
桜……?
僕が疑問に思っている間に、手に持った剣はいともたやすく鬼の肩を切り落としていた。
嘘だろ……。
強いとは思ってたけど、ここまでとは……。
僕は豆腐を切るよりも簡単に剣が通ったことに驚きながら、このまま斬り抜くと剣に力を乗せる。
「はぁっ!!」
僕は体のひねりも入れながら、肩の真上から脇腹へと刀を振り抜いた。
血が飛び散るかと一瞬身構えるが、僕の頬が鮮血で塗れることはなかった。
切り終えた剣が消えていくの越しに、鬼が黒の粒になって消えていくのが見える。
鬼はその邪悪さを発散するかのように、黒の粒になって空へと舞っていった。
最初から最後までよく分からなかったけど、鬼が倒せて良かったのは確かだ。
さて、残るは着地どうしようか問題だけ。
觔斗雲さんを呼べればいいのだけど……。
空を見上げたら、元々觔斗雲さんが浮いていたところには、その影もなくただ真っ青な空が広がるのみ。
晴れ渡ってるなぁという感想しか湧いてこない。
…………ヤバいな。
真面目に考えてヤバイ。
あと何メートルかで地面にぶつかる。
生身の僕が魔法を使えずに地面にぶつかる。それすなわち、死。
こんな意味の分からない世界で命を落とすのは、勘弁してもらいたい。
せめて、大切な女の子庇って死ぬとか、しっかりと意味のある死を迎えたいです。
僕はどうにか足掻こうとするけど、魔法が使えないとなると、風前の灯火。
笑えないを通り越して、乾いた笑いが出そうだ。
「クソぉっ!!」
僕は最後の最後までどうにかならないかと考えるけど……何も出てこない。
このまま……終わるのか?
僕の中でその言葉が大きくなりだしたとき。
「行くよっ!!」
「っ!!!!?」
僕の落ちていく軌道の真下にいた珠さんが、手を大きく広げて僕の方に飛んできた。
このままだと僕の他に、珠さんも巻き込んでしまう。
僕がなぜ?という疑問と、避けなければということを思って、体を曲げようとするけど、
「来てっ!!」
珠さんは明らかに人間の跳躍力じゃ届かないところまで飛んで、手を広げ続ける。
これは、信じたほうがいいのか……?
この意味のわからない世界で、彼女を信じるのか。それが、僕にできるのか……。
今ある状況を踏まえてちゃんと考えたいけど、そんな時間は今の僕にはない。
もうすぐそこまで地面が迫ってるし、珠さんとの距離はほぼ1メートル丁度くらいだ。
信じる
僕は悩んでいても仕方ないと、信じないで死ぬよりも信じて死んだほうが後悔がないと思って、そう決断した。
「行くよっ!!」
珠さんはそんな掛け声とともに手を伸ばしてくる。
僕は少しの戸惑いとともに、彼女に手を伸ばし返した。
「浮けっ!!!」
珠さんは僕と手が繋がると、嬉しそうに微笑んで、そう叫んだ。
その瞬間――――
――――下から、優しくも強い風が吹いた。
風に吹かれて、僕と珠さんの体が一瞬浮き上がり……ゆっくりと落ちていく。
服の裾や袖が浮き立つような、不思議な浮遊感とともに僕らは着地した。
「勝ったね!!!!!!!!」
珠さんは着地してすぐに、そう言って笑う。
「そ、そうですね。あの鬼は何だったのですか?」
僕はハイタッチを求める彼女に軽く応じて、質問を投げる。
聞きたいことをあげればきりがないけど、まずはあの鬼のことから。
「鬼は鬼だよ?悪くて怖い鬼。」
珠さんは両手の人差し指を立てて、頭の上に置き、鬼の真似をする。
鬼は鬼と言われても……。
この世界では巫女がいて鬼がいるのが当たり前の世界なのか?
じゃあ、正確には日本ではない……?
というか、僕は元の世界き戻れるのだろうか。
元の世界って言えば日本なのだけど、今言っているのは異世界のマッソとかリリア様とかがいる方だ。
日本にも……いつか戻ってみたいけど、異世界でもまだやり残したことや、やらなければ無いことがたくさんあるから。
「よぉし、戻ろうか!」
珠さんの声に従って、辺りにいる巫女さんたちが一斉に準備を始める。
「この崖を……?」
僕は前後の反り立つような崖を指して尋ねる。
浮けばいけるだろうけど、その力を使えない人もいると思うし。
いや、巫女ならみんな使えるのか?
「いや、横から行く道があるのだよ。」
疑問に思う僕に、珠さんは笑って右の方を指した。
なんだ、横から行く道があるのか。
まあそうか。そうでもないとここまでこの人数降りてこられないだろうし。
「それじゃあ行こう!」
そんな彼女の掛け声とともに、僕らは歩き出した。
◇ ◇ ◇
「僕は何すれば……?」
長い上り道を辿って辿り着いたあの神社の本殿らしきところで、僕はつぶやいた。
周りの巫女さんたちはいそいそと自らの仕事に戻っていく。
僕も何かしら働いたほうがいいのか……。
というか、僕もここの神社?の巫女なのだろうか……?
「何したっていいよー。もう鬼倒し終わったし。」
横にいた珠さんが笑いながら言う。
今までの物言いからして、珠さんはここのお偉いさんなのかな。
そんなことを思いながら空を見上げると……
「っ!!」
久しぶりに見た黒のカラスが一羽、ゆっくりと滑空していた。
カラスの向かう先は……鳥居の方!!
「ありがとうございました!」
僕は珠さんに感謝の言葉だけを投げて、カラスを追いかけて走っていった。
「カーカー」
カラスは鳴きながらあの古めの鳥居をくぐる。
僕も負けじとそれをくぐると、次は赤色の初めに見た鳥居の方へと飛んでいった。
元に戻れと言うことか。
僕はその先に何が待ち受けるのかと思いながら走り、赤の鳥居もくぐる。
その先には、やはり一番最初に見た竹林と、石が敷かれた地面がある。
他に特筆して言うようなものもない、広い場所。
「カーカー」
カラスは再び鳴いて、どこかに消えていった。
ど、どうすればいいんだ……?
僕が何をしようかと不安になったところで……猛烈な眠気に襲われた。
おかしいな、ちゃんと寝たはずなのに……。
僕はそんな疑問を抱きながら、襲いかかってくる睡魔には勝てず、あくびをして目を閉じてしまった。
「ふぁぁ……」
僕は目を開けると、ゆっくりとあくびをする。
見慣れた天井。見慣れた部屋。
昨日寝たときと変わらない光景だ。
「…………って、夢かーい!!」
あの不可思議な世界はすべて夢だったみたいです。
だから、あんなに何も分からなかったのか。
「ふぁあ、おはよ」
僕は夢にしては楽しかったと思いながら、起き上がる。
今日も一日、頑張りましょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます