第90話 君といっしょに

「そういうことね!」


「ギャオギャ!」


二人で頷き合ってハイタッチをする。

いや、完璧に分かったよ。


「最初の手を繋ぐやつは、仲の良さを出したかったんでしょ!!で、2個目のやつはVサインで二人、歩くやつで共にって事を表してる!!」


正解したあとにするのは解説タイム。

僕は意気揚々と推理を答えあわせしていく。


「ギャオン!」


キュオスティもノリ気で、ちゃんと付き合って反応してくれた。


「それらから導けるのは、『いっしょ』だよね!!!」


僕は真横の彼に人差し指を突きつけて、叫ぶ。


「ギャアアアン!!!」


そうだぜと、キュオスティも同じように指を伸ばしてくれた。

いやぁ、意思疎通が出来てよかった。


…………あれ、なんでこんな話題になったんだっけ?

あれだ、僕が彼にこれからのことを聞いて、そして彼が伝えたいことを離してくれていたんだ。


えっと、彼が言っていたことを羅列すると、、『私は』『君と』『いっしょに』。

なるほど………じゃあ……。


「私は君と一緒…………つまり、一緒に居たいってこと?」


僕なりに解釈した言葉を彼に伝える。

これで、合っていればいいんだけど……。


「ギィイイャアア!!!」


キュオスティが首を縦に振って大きくうなずく。

良かった、合っていたみたいだ。


「一緒に居たいかぁ…………気持ちは嬉しいんだけどなぁ。」


それは難しいかもしれない。


「ギャイィィ……………。」


彼は見るからに落ち込んで、肩をおとしてしまっている。


「あぁ、違くて。その、嫌とかじゃないんだよ。」


そうか、気持ちは嬉しいとかいったら、嫌がってるみたいに思われちゃうよな。


僕は慌てて否定する。


「ギャア!?」


キュオスティは息を吹き返したように、勢い良く顔を上げた。


「キュオスティって僕らより大きいじゃん?だから人間界で一緒に暮らすっていうのは不可能かなって。ほら、魔法とかで小さくなったり擬人化したりして一緒に過ごすっていう選択肢もあるけどさ……」


僕は改めて彼の体を見上げる。

…………僕が何個分だろうかっていう程の大きさ。


しかもこれで子供だっていうから、末恐ろしい。


この体のまま地上に降りたら、間違いなく騒がれる。というか、問題になる。


「ギャイイ!!…………。」


キュオスティはそれだ、魔法で小さくなろうと言いたげに叫ぶと、何やらブツブツと唱え初めた。

もしかして、魔法で小さくなろうと………。


「ちょっまっ!!」


僕が止めようとしても、時既に遅し。

彼の体が薄緑に光って、どんどんと輝きを増していく。


「っ!!」


数秒経てば、光で見えなくなってしまった。


「キュオスティ!!やめ…!!」


僕の静止の声は、キュオスティから発され始めたキュイイイーンという機械音みたいな高音に遮られて、消えていった。


「ギャアアン!!」


キュオスティの声が聞こえた。

僕はあまりの眩しさに閉じた目を開け、彼の姿を捉えようとする。


「ッッ!!!!」


彼は小さくなっていた。

いや、予想はついていたのだ。僕が大きいとダメで魔法でなら小さくなれるよねえっていったから、彼がそうすることは予想できていたのだが。

あまりにも、コレはあまりにも………。


「小さすぎない?」


「ギャアイイ?」


いや、小さくなるって言ったら擬人化とかそうった方向に行くのかと思うじゃん。

ミニキャラ的に可愛くなるのかなとか思うじゃん。

違うのよ。


首をかしげるキュオスティはたしかに可愛いのだが、その大きさが僕の手のひらくらいしか無いのだ。

しかも、デフォルメされて角が丸くなったりはせず、鋭い牙と爪も鱗も全部そのまま小さくなっている。


「そのさ、僕的に元の姿を曲げてまで一緒にいるのはなんか違う気がするんだよ。」


小さくなった姿のままよってくるキュオスティに言う。


「僕も出来ることなら一緒にいたいけどさ、だからといって人に合わせてキュオスティが小さくなるのは違うのかなって。」


僕の中で言いたいことがまとまってるわけじゃないから、話がバラついてしまう。


「それって、言い方を悪くすると、人間側の都合に合わせて本来の姿を偽ってくれって言ってる感じじゃない?まぁ、バレたくなくて姿を誤魔化している僕が言うことじゃないかも知れないけど。僕は僕の信念というか、自分の都合で変えてるからいいけど、キュオスティが変えるのは、絶対的に僕らの都合じゃん?」


僕らと彼らが共存していくとき、それはともに譲り合うことが大切になる。


今回の場合、キュオスティに小さくなってもらったらそれはそっち側が完全に譲歩しているから、それは違うのかなって。


かと言って人の街全体を大きくするのは、僕一人の力じゃ無理だからな……。


「ギャアア!!」


俺は気にしないぞ、とばかりに吼えるキュオスティ。


「君が気にするから言ってるんじゃなくて、これは僕のわがままみたいなものなんだ。キュオスティは気にしないし、そっちのほうがいいかも知れないけど、だとしてもやっぱり何であれ僕らの事情でそっちの本来の容姿を変えることはしてほしくないんだよ。」


出来れば理解してもらいたい。

けれど、ここで理解してもらえないからって突き放したら、それこそがお互いに譲歩していないから。


僕のわがままも何処かで妥協しないといけない。


「ギャァァァイイイ…………。」


なるほどねと、大きく頷いて、キュオスティは僕を見つめた。


「そのさ、友達とかもさ学校だけ出会えるから良いんであって、ずっと一緒にいて家とかまでついてこられると、別に一日限りのお泊りならいいけど、毎日ってなったらやっぱり飽きたりとか、嫌になったりとかするじゃん?だから、僕らもそうで、ずっと一緒じゃなくて、たまに会うくらいでも良いのかなって。」


あぁもう、自分でも何を言いたいのか分からなくなってきた。


僕は頭を掻いて、考えをまとめ直す。


「ガアァ…。」


キュオスティは僕を見つめている。


「もういいや!今までの全部なし!!撤回!」


頭の中でまとめようとしても、全くと言っていいほどまとまらなかったので、僕はもう吹っ切れてそう叫んだ。


「ギャアア?」


マジで?と、驚くような表情で、キュオスティが僕を見た。


「とにかく、僕が言いたかったのは、キュオスティに小さくなってまで一緒にいて欲しくないから、大きいままでたまに会うようにしようってこと!!」


僕は両手をブンと振ってそう叫ぶ。

色々なことを考えていたけど、絶対にそのことだけは変わらなかったから、多分これが僕の言いたいことの全てなんだと思う。


「ギャイイアア!」


彼はその一言で納得してくれたようで、首を勢いよく振りながら咆哮した。


「わかってもらえて良かったよ。そうすると、何か連絡手段あったほうが良いよね。どうする?」


離れて暮らしていくのならば、会いたい時のタイミングだってバラバラになるはずだ。


現代社会と違って電話なんてないから、どうにかして連絡手段を確保しないと。


『ギャアアアアアアア!!!』


彼の声は、すっかり暗くなった空には響かず、僕の脳内で直接響いた。


感覚としては、魔王と話しているときと同じ感じ。


なるほど。この世界には高度な科学がない代わりに、魔法があるんだった。


魔法を使えば意思疎通なんて簡単だと、完全に見落としていた考えに納得する。


「そうだよね、魔法があるもんね。僕すっかり忘れてたよ。」


少し恥ずかしくなりながら、キュオスティの頭をありがとうと撫でる。


彼はもう元のビッグサイズに戻っていて、頭も良い感じにザラザラだ。


『聞こえるかな?』


僕も魔力に言葉を乗せるイメージで、話してみる。


『ギャイイイイン!!』


キュオスティが聞こえるよと、僕の方を見て吼えてくれた。


うん、接続は良好。

魔法なだけあってタイムラグとかは一切ないね。


「これでオッケーだね。……じゃあ、そろそろ遅いし僕は戻るよ。」


気付けばあたりは真っ暗。光は月と満点の星のみになっていた。


「ギャアアン………」


「大丈夫だよ。また会えるからさ。」


寂しそうに項垂れるキュオスティの頭をポンポンと叩いて、僕は彼を見つめた。


「ガアアアア!!」


彼もその長い首を上げ、僕を見返す。


「じゃあね。」


どちらが先かはわからないけど、お互いほぼ同時に手を上げていた。


「グギャアアアアアアア!!!」


僕らは星空の下、静かにハイタッチをかわす。


多分、彼とは長い付き合いになる。


僕はその手から伝わってくる、確かな温かさにそう確信した。








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