第89話 なぞなぞゲーム?

「キュオスティ……」


僕は彼の頭を撫でながら呟く。


もう、日は落ちかけて星が目立ち始め、空の主役が太陽から月へと変わり始めている。


そろそろ、本題を話そうかな。


「ガァァァ?」


なんだいとでも言いたそうな顔で、キュオスティは僕を見た。


「君は、操られていたんだよね?」


戦いの最中、ずっと辛そうだったから僕は彼が自分の意思でやっているのではないと思っていたけど、実際にどうかは分からない。


本当は彼自身がやりたくて、攻撃していたかもしれないし、この顔も嘘なのかもしれない。


僕はそんなことを考えて、少し不安になりながらキュオスティを見つめる。


「ギャアオ!!」


控えめながらも、確かにキュオスティは縦に首を振った。


「そうか………。」


僕は安堵するが、同時にだからこそ聞かなければならないことが沢山あることを思い出して、再度気を引き締める。


「その、犯人というか洗脳をかけた人を覚えている?」


「ギャァアアア」


「そうか。」


こういうときに話せないのが、じれったくなる。

犯人の性別、顔、名前、特徴とか知りたいことはたくさんあるし、虎の沼地のときの事件に関係してるのかが気になる。


『主様』


先生はそう言っていた。

まるで愛しい相手を呼ぶかのように、その言葉を口にしていた。


主様。その人について、なにも分からないし、先生がなぜ慕うのかも分からない。


ただ、良い人ではなく、悪い人なのはほぼ確定だろう。


「その人は、男の人?」


まずは性別からいこうか。

これで、半分の可能性が消えるからね。


…………まぁ、主様がフェルン君みたいな人だったらどうしようもないけど。


「ガァァウウ」


キュオスティは大きく頷く。

男の人ね。まぁ何となく悪い人って、男の人が多いイメージ。…………僕の勝手な偏見だけど。


「そうかぁ…………名前はわかる?」


名前って、判明しづらいし、現代社会で分かったら大きな意味を持つけど、この世界で何か意味あるのかな?


本人が、偽名名乗れば分かるだろうし、それを確かめるすべはないだろう。


日本とかみたいに厳正に管理された戸籍があるなら別だけど、多分無いよね。


僕が学園に入るにも名前とか爵位とか聞かれたけど、そういうのいらなかったし。


「ガァァアアア」


若干申し訳無さげに首を振るキュオスティ。


「別に、分からないからって駄目なわけじゃないから、そんな落ち込まないでね。」


僕は項垂れた彼の頭を撫でる。

ドラゴンの肌というのは、犬猫みたいな柔らかい毛が生えてるわけでもなければ、人肌のように温かいわけでもない。

けれど、硬めの鱗がチクチク、ザラザラしていてこれはこれで気持ちいいのだ。


「なるほど。じゃあ、若かった?」


僕らくらいの年か、それともお年を召しているのか。


それは外見から判断できる大きめの情報だろう。

まぁ、僕みたいに変身の魔法を使える人には意味ないかもだけど。


そういえば、僕ずっと変身の魔法使ってないよな。

髪の毛を伸ばしていただけだからそこまで違いは感じられないけど、やっぱ変えたほうがいいかな?


赤井達クラスメイトも確かにこの世界に来ていて、しかも魔法学園にいるみたいだもんね。


彼らまとまってたけど、国から保護とかされてるのかな?


職業選択に勇者とか聖女とかあったもんね。

赤井くんとかはそう言うカッコいい役職を選びそうだし。


「ガァァウウウウウウ!!」


僕が、考えにふけっているとキュオスティが抗議する様に吼える。


「あぁ、ごめん。若めだったんだね?」


「ガウ!」


僕が再度確認すると、彼は頼もしくそう答えてくれた。


「なるほどねぇ。」


自分の顎を触りながら呟く。

これで、結構絞られてきたんじゃない?


今分かってるのは、男で若めっていうこと。


…………うん。そんな人は山ほどいるよね。


これじゃまだ全然だめだなぁ。


「他に特徴とか分かる?」


すぐそこに一緒に浮いている樹竜ウッドドラゴンのキュオスティに尋ねる。


「ギャアアアァ……」


「だから、落ち込まないで!!」


彼がとても申し訳無さそうに項垂れるので、慌てて止めた。


「ギャィィ……」


そんな僕を見て、更にごめんなさいと頭を下げるキュオスティ。


「だから、大丈夫だってば!!ほら、スマイル!笑って!!」


自分の頬に両方の人差し指を当てて上に持っていき、ニパーッというよくアニメとかで見る満面の笑みを作る。


「ギャアアアアアアア!!!」


すると彼も大きく元気に咆哮してくれた。

ドラゴンの表情はよく分からないけど、僕が思う感じ笑ってくれている。


先生の言っていた主様と、キュオスティを襲った人が同じかは分からなかった。


けどまぁ、今は彼が元に戻れたということを喜ぶべきだろう。


「うん、そうだ!!」


僕は右手を上に突き上げて、叫ぶ。


うだうだ暗いことを考えていても、どうともならない!そんなこと今までで嫌というほど分かってきたじゃないか。


分からないことをうじうじ考えて行き着く先は、『僕はどうせ』『僕は駄目なやつなんだ』みたいなネガティブ思考。


そんなことじゃ良い考えは出ないし、第一に辛いだけだ!!


なんか深夜テンションみたいだけど、僕みたいなのにはこのくらいが丁度いいのかもね。


「ギャアアア!!」


キュオスティもノッてくれて、合わせるように吼えてくれた。


「キュオスティ、これからどうする?」


僕は器用に飛行魔法で、空に寝転がりながら尋ねる。


「ギャァァァ?」


突然どうしたん?と言いたそうな顔で、彼は首を傾けた。


ドラゴンは人間と違って首が長い。

なので、人がやるとコテンとなるその動作でも、彼がやるとグワァアンって言う感じで、とても迫力があってかわいい。


「ほら、終わった暗いことを話すよりさ、明るい未確定な未来を話したほうが、なんというか……。」


僕はそこで言葉に詰まる。


元々ハイテンションで話し始めたから、後先考えてなかったことはあったけど、これは少し違くて………言葉自体が出てこないのだ。


「なんというか……………」


何を、僕は何を言いたかったんだろうか?


過去の暗い話題よりも未来の明るい話題のほうが、どうなんだ?


自分で自分が分からなくなってしまった。


「ギャォオオオアア?」


キュオスティが大丈夫?と言いたげに、僕の顔を除きこむ。


僕の頭の中でその光景が、あの少女との1場面にリンクした。


「王女………様…」


あれは確かキュオスティとの戦いの最中だ。

いきなり彼女が、僕の顔を覗き込んだことがあったのだ。


ずっと見つめてくるので、僕が『楽しいですか?』と聞いたら彼女は確か………


『楽しいんです♪』


そう応えたんだ。


「ほら、楽しいじゃん?」


僕はキュオスティを見つめて、その時の彼女のように言う。


「ガァァアアアアアアアア!!!」


彼も僕を見つめ返して、心底楽しそうに返事をしてくれた。


なんというか、最近王女様の事を思い出すことが多いような…………。


僕は浮かんだその考えを気の所為せいだと片付けた。


「で、キュオスティ、これからどうするの?」


思いっきりずれた会話…………と言うか僕がずらした会話を元に戻す。


「ギャァ…………アア?」


『どうしようかなぁ。』

途中で途切れた彼の言葉を僕はそう解釈した。


「この街の空で待ってたから、てっきり僕に伝えたいことがあるのかと思ってたんだけど。」


これでただ気分的にとか、ここの空気美味しいとかそういうのだったら、僕はただの勘違い野郎になるわけだ。


…………それは、真面目に死にたくなる程恥ずかしい。


「ギャアアアァ!!」


僕がもしもの話に顔を赤くしていると、キュオスティはそんなの気にせずに爽快に吼えた。


「やっぱ、何かあるの!?」


黒歴史が黒ではなくなることを察知して、僕は食い気味に聞き返す。


「ギャア、」


彼は自分のことを指で指した。


「私は?」


僕がオウム返しでその行動を翻訳すると、コクリと頷く。…………なにそれかわいい。


「ギャオ。」


今度は、僕の方を指して指先だけチョンチョンと動かすキュオスティ。……なにそれかわいい。


「君と?」


僕自身を指して聞き返すと、やはり彼はコクリと頷いてくれた。なにそれ、かわい。


僕目線だと最初のは『君は』、さっきのは『僕に』となるはずだけど、これは元々キュオスティが言っていることで、僕はそれを翻訳しているだけなのであくまで彼目線にしている。


…………なんかこうやって羅列するとこんがらがるけど、まぁ……そういうことだよ。


「ギャアアアオ!」


「ん?」


さっきまでは簡単に分かったのに、今度は全くと言っていいほど分からない。

難易度バク上がりだ。


キュオスティがしたのは、右手の人指し指…………というか爪で僕の左手をつつくこと。


これになんの意味があるというのだ。

あえてそのままで、『つつく』とか?


いや、それだと『私は、君とつつく。』になってしまう。


そんな文章意味わからないし、何より怖い。


私は君とつつくって、コンビニのおでんじゃあるまいし。


「わ、ワンモアプリーズ」


僕はカタコト英語で、泣きの一回をお願いする。


「ギャア!!」


キュオスティはしょうがないなぁと言う感じで、返してくれた。


…………これ、そういうのじゃなかったよね。


「ギャオオ!」


「んぅっ!?」


思わず変な声を出してしまった。


2ndヒントも中々に難しい。

彼がしたのは、人差し指と中指でVサインを作ってからそれを下に向け、てくてくと歩く感じに交互に動かす動作だ。


これはいろんな意味を持つけど、前の脈略に合わせると……。


「私は君と、歩く!どうだっ!!」


「ギャアン」


僕の渾身のドヤ顔に、キュオスティは違いますと首を横に振った。なにそれかわい。


歩くじゃないのか…。

ならちょっと視点を変えて、これだ!


「じゃあ、私は君と、友達!」


今度も精一杯のドヤ顔で言い放った。


「ギャア、ギャオオン、ギャイギャ!!」


違うと頭を横に振りながらも、その後に少しだけ近いと親指と人差指で合図をしてくれる。


なにそれ、やさし。


ちょっとまて真面目に考えよう。


最初にやったのは手を繋いで振るみたいな仕草。

その次に、Vサインと歩く動作。


手を繋ぐやつは全然分からないから、Vサインからいこう。


Vサインといえば、アイドルとか?

いや、数字で2って意味も……………!!!


それだぁ!!!


「分かった!私は君といっしょ!!」


右手と人差し指を突き出して、大声で叫ぶ。

それ程までに僕には、自信があったのだ。


「…………ギャァアアアアアアアア!!!」


少しの沈黙の後、キュオスティがこれまた大声で吼えた。


「っしゃあ!!!」


僕は正解の喜びで飛び跳ねる。


まぁ、空中だからそこまで意味はないんだけど。

そんな無駄なことをしたくなるくらい、僕は喜んでいたのだ。




…………あれ、元の話ってなんだっけ?










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