没・プロローグ

書いたものの、没にしたプロローグです。


こんな世界線もあったのかもしれないなと、そう思って楽しんでいただければ幸いです。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










眠りに落ちる時、現実の夢を行き来するような何とも言えない感覚があるだろう。


僕はまさにその感覚の中にいた。


いや、体は完全に寝ているのかもしれない。


脳だけが動いているような、意識だけをかろうじて保っているような感覚がする。


目を開く。


…………といっても意識の中であり、目なんてものは無いので感覚上の話であるが。


「っ!!!!」


どこまでも続く真っ白の世界の中、日本にあるような巨大モニターが置いてあった。


ザーザー


真っ黒の画面に砂嵐が映り始める。


あぁ、なんかこんな事前にもあったよな。

その時は転生してきてまだ1.2日も経っていなかった気がする。


あのときは確か、赤井に負ける夢を見たんだ。だから、僕は努力しようと思い、地獄の訓練を始めた。


なら今回もああいった警告が映し出されるのだろうか?


僕は不安感と、僅かな期待感を抱きながら砂嵐を見つめる。


ザーザー………ツー


砂嵐が消えていき、映像がどんどんと映っていく。


「こ、これは………」


現れたのは街を空から見ているような映像だった。


ここは………学園か?


奥にある建物の形、あれは魔法学園に間違いない。


なら、この街は僕の住む学園都市だ。


「っ!!!」


空から大きな赤い影が現れ、都市の手前の森が一瞬にして炎の海に変貌した。


ウーーー


けたたましいサイレンの音が響き渡り、少ししたら鎧を着た騎士や学園の先生たちがやってくる。


ギャァアアアアアアアアアアアアア


赤い影ーーーードラゴンが叫び声を上げるにともない、さらに炎が広がり、街の建物があるエリアの手前まで侵略してきていた。


人々は水の魔法で火を消したり、ドラゴンに切りかかったり、魔法攻撃したり精一杯抵抗しているが、まさに焼け石に水。全くと言って効果はなかった。


グギャアアアアアアオオオオオオオオ


ドラゴンが咆哮をあげ、翼を少し動かすと十数個の火の玉が街へと降り注ぎ、あちこちで火の手が上がる。


『……べ………おう…ょ……おうじょを呼

べ!!!』


『…だ!……いち…うじょは居ない!……に…王…よもだ!!!』


『……ら……第四王女は!!?』


『ま……こども……だ……よ!!!』


『じ…あ……うする!!?……街は……わりだ……!!?』


跡切れ跡切れだが、騎士たちの会話が聞こえてきた。


ーー呼べ、王女を。王女を呼べ。

ーー駄目だ。第一王女は居ない。第二王女もだ。

ーーなら、第四王女は。

ーーまだ、子供だろうよ。

ーーじゃあどうする。この街は終わりだぞ。


そう言っていた。


この国に何人王女がいるのか知らないが、どうにかしてでも王女がほしいみたいだな。


ドラゴンに対して王女はなにか特別な存在なんだろうか?


彼らの会話の中で第三王女の名は出てこなかった。


やはり、彼女の存在は隠されたままなのか。


「なら、彼女はここに来なくてもいいんだよ………な………………!!!!!」


僕の言葉を否定するように、炎の海の奥から周りより格段に美しい鎧を纏った騎士団が現れた。


そして、その先頭には…………


『私は、ヤフリオ王国第三王女、リリア・バモン・ヤフリオです。加勢に来ました!!!』


その声を発した主は、戦いの場に似合わぬ、長く美しい金混じりの銀髪をたなびかせて何故か楽しそうに微笑んだ。


『私は、ヤフリオ王国第三王女、リリア・バモン・ヤフリオです。加勢に来ました!!!』


『王女、王女が来たぞぉぉおおおお!!!!』


『第三王女様は生きていたんだ!!!』


『おぉ神よ!!!!』


彼女の登場によって騎士たちのボルテージは高まる。


だが、それもすぐに終わりを告げる。


グォォオオオアアアアアアアアアアアア


うるさかったのだろう。

ドラゴンのたった一息の咆哮で騎士達は炎で包まれた。


『だ、大丈夫です!!!』


ーーーーいや、正確には包まれていなかった。


騎士達の僅か数センチ前にはられた結界によって炎はせき止められていたのだ。


王女が結界の魔法で止めたのだ。


『王女様!!!!!』


人々は歓喜の声をあげ、再びボルテージは上がっていく。


…………だが。


やはり、それもすぐに終わる。


グギャアアアアオオオオオオオオアアア


何度も繰り返される咆哮のたびに結界を張り直している、王女の顔色が明らかに悪くなってきたのだ。


『王女様、お辞めください!!!このままだと貴方が!!!』


『逃げてください!!!あとは我々が!!』


『いやです!!私は王女。逃げません!!!』


張り詰めた声で王女が叫ぶと同時に、


バリバリバリィ


という結界が壊れる音が響く。


『っ!!!結界!!!!』


何度目だろうか?王女は結界を張り直した。


『も、もう終わりです!!』


王女は懐から空の色と同じ、茜色の花を取り出すと、勢いよく食らった。


『王女様、何を!!!』


彼女の持つソラの花は元々三つ蕾をつけていた。


彼女はその二つは病を治すために使い、残りの一つを本来の使用法でない、力の増幅のために使ったのだ。


『絶対に!!!!通さない!!!!』


王女は深呼吸をしてから、叫ぶ。


『結界!!!!!!』


ドラゴンを覆い隠すようにはられた結界によって、炎の侵攻は止まり、己の炎でドラゴンは焼かれる。


ギャァアアアアアアアアア


効果は抜群。

ドラゴンは苦しみの声を上げた。


『このまま行けば勝てる』


騎士達はドラゴンのことを見つめて、そう歓喜した。


ーーーー王女のことを見ずに。


確かにドラゴンは弱っていっているしこのまま行けば勝てるだろう。


だが、その代償としてその少女の体は蝕まれていく。



ーーーー人々がそのことに気付くことはなく、その時が訪れた。




『『『うぉぉおおおおお!!!!!』』』


ドラゴンがその命を経たれ騎士たちが声を上げる中、少女の体も悲鳴を上げた。


『お、王女様!!!!!』


気づいた騎士が駆け寄るが、時すでに遅し。


少女は口から血を吐き出し、もってあと10秒といったところだった。


もう助けられないと悟った騎士たちは、せめて死ぬ間際残した言葉を人々にその雄姿とともに伝えようと、耳を澄ました。


少し経ち、再び血を吐いた王女は告げる。

たった一言だけ。



『……レスト』



多くの騎士たちはその言葉を『やっと休める』と解釈したのだろう。皆涙を流していた。


「な、なんだよこれ…」


でも、僕には分かった。わかってしまった。


その言葉の本当の意味が。


何故、彼女は死の間際に僕の名を呼んだんだろうか?


そもそも、これは何なのか?


これから起こり得る未来だとでも言うのだろうか?


僕にこの結末を変えてみせろというのか?


僕は胸糞悪い気分で考える。






……………まぁ、起きたらわかるか。


その思考に区切りをつけた僕は、迫りくる睡魔に身を任せ、意識を手放した。





 ◇ ◇ ◇ 





僕はこのことを悔やむことになる。


楽観的に後で分かると思ったこと。


前回と同じように目を覚ましたとき、この記憶があると思ったことを。
















☆ ☆ ☆


本編ではしっかりと救われましたが、一歩間違えば全員が不幸になってしまうこともありました。

そんな危うい世界で、彼らも。そして私達も生きているのかもしれませんね。


……というお話です。お付き合いいただきありがとうございました。

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