第136話 後退した末の光

「へへっ……」


僕は笑いながら血を手で拭って顔を上げる。


状況は絶望的だけど、その状況を、盤面をひっくり返せるくらいの魔法が今完成した。


戦いのさなか、ずっと左手で組み上げてきたのだ。


僕の、最終兵器を。


「いくぞぉっ!!!!」


創作物のようにここで長々と説明したりしている暇はない。


僕は左手を思いっきり前に突き出して、叫ぶ。


闇ノ鎖シャドウインサイドォッ!!!!」


「なっ!!!?」


左の手のひらから放たれた鎖は、闇を突き進むに連れてどんどんとその距離を伸ばしていく。


その姿は、まるで漆黒の蛇が闇を飲み飲んで成長していくようである。


「ぐぉっ!!!?」


「"|’↵↬↫↡/6¡§<›∆¤×⁇‼¢°§¿§¥¢¿¡¢⁉――――」


グングンと伸びたその鎖は、目に見えぬほどの速さで男と“ソレ”に絡みつく。


「くそぉ……!!!」


男は抵抗しようともがくが、あたりの闇を吸い込んで大きく、より強くなっていく鎖から逃れることはできない。


「|/|=%(@#%":=§§℉³Ⅷ¹Ⅺ✖✥▼™――――」


さすがの“ソレ”もこの魔法には抵抗できない…………かと思われたが、


「gu'/evsk©“™℃y™wko©sks£™bs℃£j―――」


“ソレ”がやはり潰れて聞こえない声で響いた直後、足がすくむような感覚に襲われる。


「ッ!!!? ヤバいッ!!!!」


瞬時にそう感じた僕は、考えるよりもはやく魔法を構築していた。


「障壁ィィィイイイイイッ!!!!」


とっさに叫んだ言葉に合わせ、僕の目の前に薄い膜のような障壁が展開されていく。


次の瞬間。


――――――――音もなく、衝撃に襲われる。


内蔵を引っ張り出されるような、重力のすべてをかけられているような重い衝撃が体にかかり、展開した障壁は見事に砕け散る。


「障壁ッ、障壁、障壁、障壁障壁障壁障壁!!」


僕は目に見えない衝撃を抑えるため、何度も何度も魔法を展開する……が、そのすべてが打ち砕かれていく。


「ぐっ……!!」


衝撃に見舞われるたびに体が下がっていく。

痛く、重い。


クソぉ……“ソレ”が放ったたった一撃の目に見えぬ咆哮に、こんなにも押されているなんて……。


「障壁ぃ……!!」


僕はきりがないことを分かっていても、魔法を展開し続ける。


衝撃の勢いは収まらず、僕だけが一方的に後退していく。


このまま下がったら街まで…………!!?


後ろを振り返った僕は、息を呑んだ。


絶望でも、痛みでも、悲しみでも、諦めでもない。


そこに、“彼女”がいたから。




「“神”よ――――」




抗うでもなく、彼女はただ、手を合わせて祈っていた。


その姿を見ただけなのに、なぜだろうか。


自分に祈られているわけではないのに、どうしてなのだろうか。


こんなにも、力が湧き上がってくるのは。




「“反射”――――」





――――光は、闇を打ち砕く

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