第29話 魔法の授業

あの後負け無しで一日を終えて、寮に戻った。


「どうしたんだ。そんなに一生懸命になって?」


「今日は色んな人と剣を交わしたから、たくさん覚えられたんだよ。それと、夢が出来たんだ。ーーーいや、思い出せたんだ。」


「そうか。叶うといいな。」


僕は眠るフローラを横目に剣を振り続けた。


フェルン君のように速く、マッソのように重く、デスト君のように熱くなれるように。


 ◇ ◇ ◇ 


「今日は体術だ。」


朝、教室に入ってすぐにテイチ先生はそういった。


「剣は強いが、もしも何もない時に敵にあったら、武器が壊れたら、残るのは身体のみだ。そんな時に戦えるよう体術を教える。魔法を使いたい奴もいると思うがそれは明日からだ。それと、体術も俺担当だ。」


以上。そう締めくくると先生は外へ出ていった。


「体術ならレストにまけんぞ!!」


「魔法なら負けないのだがな。」


マッソは自信アリ気の様子だ。

ヒスイはなんと言うか、昨日負けまくって心なしかやつれた感じがする。


「外に行くぞ!!」


「うん。行こうか。」


今回は屋内の訓練場だ。


 ◇ ◇ ◇ 


「体術は基本、殴る、蹴る、投げるの3つの攻めと、受ける、避けるの2つの守りで出来ている。まずは準備運動でここの外周3周してこい。」


ウワーって、感じでみんなが走り出す。


中には転けて踏まれている人もいた。

可哀想に。


僕も後ろの方について走る。


「ウォォオオーー!!」


マッソは最前方で走っている。

走りながら喋って疲れないのかな?


「二人一組を作れ。」


走り終わったらそう言われた。


僕も成長している。

この程度の言葉に惑わされたりはしない。


さぁ、マッソ僕と組もうか?


「俺とやろうぜ!!」


ほら来た!


「おぅ!よろしくだぜ!」


………。


マッソは僕の後ろにいた男の子とやるみたいだ。


ヤバいぞ。

マジメに『先生、レストくんが余ってます。』パターンになりかねないぞ。


「どっどうしよう……」


僕が諦めかけ、地面に手をついた瞬間


「レスト君、僕とやりませんか?」


声をかけてくれる天使フェルン君がいた。


「ありがとうフェルン君。本当にありがとう。」


僕は半泣きで彼の手を取る。


「えっと、どういたしまして?」


戸惑いながらも微笑んでくれるフェルン君、まじかっこかわいい。


「組んだ二人組で、殴り合い一分間耐久しろ。」


な、何だと?


僕にこの天使を殴れというのか?


「よーい、はじめ!!」


無理だ。僕にはそんなことできなっ!!


………フェルン君は容赦なく僕を殴っていた。


何だろう。うん。……………悲しい。


 ◇ ◇ ◇ 


その後は剣術の時と同じで、基本を教えられ、それを実戦。


呼ばれたら指導してもらい、また実戦で終わった。


そして迎えた三日目。


予定だと魔法に入るはずだ。


「えー、今日から魔法術に入る。担当は俺じゃない。場所はここでいいらしいから待ってろ。」


朝教室に顔を出したテイチ先生はそれだけ言って、帰っていった。


そのあと、


「ごめんなさいーー。遅れましたー。」


腕いっぱいに道具を抱えた女の先生が入ってきた。


長いブロンドヘアを一束にまとめ、白衣を着ている。


入ってきたのは開始予定時間より3分程あと。


まぁ許せる遅刻だ。


「私は皆さんの魔法術を担当するターシャです。よろしくおねがいします。」


そう言ってお辞儀した先生は、僕たちに問いかけた。


「みんなは魔法と魔術の違いわかる?」


……そういえば区別されていたな。


職業ジョブとかを選択するときも別れていた。


でも、はっきりとした違いはわからない。


「魔法は魔法使いが使うもので、魔術は誰でも使えるものでしょうか?」


前の方の席の子が答えた。


「うーん、残念!でもなかなかにいい線ですね。本来、魔術というのは原理があり、仕組みや法則があるもののことを指します。そして魔法はそれら共通したものがない、不規則で不可解なものを言います。でも、それらが区別されていたのは昔で、今は魔法も魔術も同じものとされ、まとめて魔法術なんて呼ばれてます。しかし、もとをたどれば精霊魔法や聖魔術、北方魔術に西南魔法などなど細かく分類することができます。まぁ、いまは統一されてますけどね。」


成程といった説明だった。

術という言葉がついている魔術は法則があるのか。


じゃあ、ヒスイさんと考えた移動魔法には原理があって法則があったから、正確に魔術なのかな?


「私が教えるときは、魔法の原理の部分を魔術、使うときの感覚や実践を魔法と呼びますので間違えないでください。では、まずは座学で魔術の基礎をやっていきましょう。」


そこから始まった授業は、一言でいうと「眠い」だった。

 

属性についてやどういう回路やステップを経て魔法が出るのか、相性のいい魔法同士や基礎となる十八魔法など、教科書に載ってそうな内容で僕としては面白かったが、周りの人たちは眠そうで、マッソなんかは寝ていた。


「じゃあ、今日はここまでです。明日からは実際に魔法を使う、魔法の授業だから楽しみにしててくださいね。……寝てるのはやめてほしかったな。」


少し寂しそうにいって出ていくターシャ先生。

僕も1/3が寝始めた時は、さすがに焦った。


 ◇ ◇ ◇


「また明日だな!!」


「お先です。」


「さようならー。」


教室を出ていくマッソ達に挨拶を返す。


今日は学校の図書館に行こうと思う。


剣術、体術の授業と違い体を動かしてないから疲れも少ないし、魔術の授業で少しわからないところもあったから。


賢者様にも聞いてみて、イメージは掴めたのだが点と点がつながらないみたいな感じだった。


情報があるだけじゃだめで、理論のところとかが知りたかったのだ。


「失礼します。」


古びた木の扉を開けると、壮観が広がっていた。


円形の部屋を囲うように本棚が壁一面にあり、その中心の螺旋階段の柱にも本が詰まっている。


街の図書館は実用性重視だったが、こっちはデザインも美しい。


中にはポツリポツリとだが人がいた。


僕も目当ての本を探そうと壁に近づく。


本からは古さを感じる何とも言えない本独特の匂いがした。


これを好きではない人もいるが、僕はいい匂いだと思う。


「魔法の3大要素の本は………これか!」


左側で目当ての本を見つけ、そこで立ち読みする。


ふむふむ、魔素と魔力は違っていて………。

溶け出す物によって性質が………。

光があたっても闇の中でもこれは………。


……。

…。


「んーー、んッ。」


受験の時と違い、覚えることが目的ではなく理解することが目的なので、深く何ども読み返した。


わだかまりの八割五分くらいは解消された。

あとは実際に使ったら分かるだろう。


外もいい感じに暗くなってきたし、僕は帰ろうと図書館を出た。


 ◇ ◇ ◇ 


「んっ?何だろうこれ。」


図書館から出てすぐ近く、学校の敷地のギリギリのところに、まるで隠すように小さな小屋があった。


窓は小さくとてもくすんでいて、外から中は見えない。


つたが伸びていて、誰かが住んでいる感じではなさそうだ。


あまり良いことではないと思うが、気になってしまったので近寄り、壁に触ってみた。


レンガだが、随分と脆い。

強めの風が吹けば壊れてしまいそうな感じた。


何の為に?


そう疑問に思ったとき、中からゴホッゴホッという咳が聞こえた。


咳はすぐには終わらず長く続いていて、苦しそうだった。


「ごめんください。」


気づいたら僕は、家のドアをノックしていた。

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