第10話 フェンリルの親子

僕の問いかけにフェンリルは目をゆっくりと閉じる。


そして、スーッという息の音のあと一言、


『我の全て』


僕はその言葉に目を細める


「詳しくお願い。」


『言葉の通り、命、魂、体、心、私の持つもの全てをお主に捧げよう。奴隷堕ちしたものでは手に入れられない、神獣の真の忠誠心だ。どうだ?』


僕は聞く


「君の力、性別、特殊能力などを教えてほしい。」


『力は普通のものならほぼ負けんよ。魔王、勇者、ドラゴン、魔人の最上位種、神、はたまた賢者けんじゃ………。そのたぐいは少々荷が重いが。性別は雌、能力はお主の思うがままに。特殊なのは主と認めた者のもとに限り、何時でも傍に行くことができる。称号でいうと、【神獣の祖】だ。』


なぜ賢者のところで僕を見たのかわからないがとりあえず強いことはわかった。


僕はこっちの世界に来てまで裏切られたりしないようにもう一度条件を確認し一つ疑問点を出す。


「他のフェンリルっているのか?」


『いや、フェンリルは神獣で称号の通り我が祖で有るので、今存在するのは我と我の子供のみだよ。』


「どうやって子供を?」


『あぁ、それは簡単なことだ。昔には我と共に産まれた雄があったのだが愚かにも100年ほど前にドラゴンの群れに単身突っ込んでってな。単騎対単騎ならまだ勝てるかもしれんところを集団に挑んでボコられて死におったわ。』


ハハッと軽快に笑うフェンリルに僕は苦笑する。


「僕からの質問はもう終わりだよ。一刻も早く助けたいんでしょ?今からちょっくら行ってくるよ。1日も経たずに帰ってくるから。」


そう言って後ろ手に手を振りながら僕は次の階層へと進む。


「面白い奴だ。頼むぞ、賢者の依り代よ。」


そんな声が聞こえた気がした。


 ◇ ◇ ◇


38.39階層を20分もかからず走り抜けた僕は、40階層のボス部屋に躊躇なく入る。


中にいたのは大きめの狼。


僕は一直線に走ってくる狼の眉間に狙いを定め、矢を放つ。


「火よ!炎の矢ファイアアロウ!!」


詠唱を省略したが、それでも圧倒的な温度を誇ったまま飛んでいく矢に狼は一撃で仕留められた。


「よいしょっ!!」


僕はボスを倒した光のエフェクトの中、魔石はしっかりと回収して、階段へと走り込んだ。


41階層からは草原のような見た目だったが、僕は大して周りを見もせず向かってくる魔物を片っ端から倒し、走り続ける。


魔物が大群で追いかけてきたので、すぐには処理せずそのまま下の階層へと駆け込む。


41階層から始まった僕と魔物との追いかけっこは、周りの魔物も巻き込みながら50階層のボス部屋まで続いた。


バンッ!


大きな音を立てて蹴り破った扉の先にいたのは50階層のボス、大きな角を蓄えた牛の魔物。


僕はボスの脇を通り過ぎ、部屋の端の壁まで走ると、壁を大きく蹴り入り口まで飛ぶ。


振り返ると、僕を追いかけてきた魔物たち約1000匹が広いボス部屋を埋め尽くす様に居た。


彼らは僕がいきなり入り口まで戻ったから、姿を見失い、統率が取れなくなっていた。


冷淡な水はすべてを濡らし、優しさは仇となり、すべてを泣かせる賢さは弱点となる水の王ウォーターズキング


僕の姿を見つけて再び襲いかかろうとしている魔物たちに向けて王級魔法で濁流を生み出す。


『グァァァオオオ、ブオォォゥ、ギャオオオアアアアァ』


魔物たちは一斉に咆哮し、その場は阿鼻叫喚に包まれた。


水の勢いを受けても未だに死んでいない数匹の魔物に僕は駆け寄る。


「攻めの型ぁ!!」


まさに一刀両断。一撃で全てを切り裂いた僕はボス部屋からすぐに出て行った。


 ◇ ◇ ◇


「居たっ!!」


54階層で僕は灰色の狼を見つけた。


慎重に静かに僕は狼をつける。


狼はダンジョンの壊れている壁に空いた穴に入っていく。


僕はそこで探索魔法を使う。


穴の先、10mほどのところに大きな洞穴があり、そこに狼が100匹近くいて、中心には狼より格段に大きい魔力反応……フェンリルの子供がいた。


僕はどうしようか考える。


穴を広げて自分が入る?

眠らせる魔法で眠らせる?

何らかの魔法でフェンリルの子供だけ転移させる?


僕はこれといった考えが浮かばなく、不意に足元に目を向けると、スロがぴょんぴょんはねていた。


今までずっと僕の頭に乗っていたスロが降りていたのだ。


スロは穴の方に少し近寄り戻ってくる。


「自分が行く………っていってるのか?」


僕の言葉にスロは大きく跳ねる。


強さ的にスロが狼に勝てるとは思わない。

だが、何か策があるのだろう。僕は彼に任せることにした。


「頼むよ。けど、無理はしないでね?」


スロはそれを聞くと穴に入っていった。


僕はすかさず魔力探知を使い状況を見守る。


スロに気づいた狼が攻撃するが、上手く躱して奥まで行く。

体でフェンリルを包み、天井を這うスロ。

狼たちはジャンブするが、上手く躱している。

地面との距離が狭まったところでスロは、粘液を吐き出し壁を壊した。


ドォン


大きな音と共にスロが僕の胸に飛び込んでくる。


スロを抱きとめ僕は狼たちに魔法を放つ。


風を重ねる。高く高く、薄く薄く風は起こり、怒る風の怒りウィンドアンガー


生み出された風の刃に前にいたものは倒れ、後ろの狼達はグルルと唸りながらも後ろに下がる。


「よくやったぞ!!」


僕はスロを撫でながらダンジョンを逆走していく。


50回のボス部屋にはさっき倒したからだろう、あの牛の魔物はいなかった。


僕は時々出会う魔物を剣で瞬殺しながらできるだけ早く走る。


スロは、中で暴れるフェンリルの子供を抑えている。


40階層のボス部屋を過ぎた。もうすぐだ!!


僕は階段を駆け上がり37階層に飛び込む。


「娘さん助けた…………よ……」


そこには血だらけのフェンリルと狼達がいた。


「犬ころ…………死ね。」


僕はスロを地面におろし、スロの中から飛び出し倒れているフェンリルに駆け寄るフェンリルの子供を横目に魔力を全開放する。


自分でも分かる。かなり怒っている。


僕から放たれた大量の魔力波で狼の大半は気を失った。


数体は立っているがそりゃそうだろう。


僕が調


グルルルル


僕に敵意をむき出しに吠える犬ころに僕は手を向ける。


無詠唱でフェンリル達と自分に結界を張り、僕は口に出す。今までの詠唱と違う単語の羅列ではない小説の一文のような長文を。


「溢れ出す混濁の理不尽に、大地は恐れ、大海は荒れ狂う、青空は澱み、世を統べし欲望の王女は世界を捨てる。絶えず侵略を続ける魔王はその手を止め、神ですら目を奪われる。絶望に満ちた世界に希望を与え、平和に満ちた世界を絶望で満たす。ある者は称賛し、ある者は罵倒する。有象無象を蹴散らし、己の意志を貫く。かの盟約の名は…………」


僕の言葉に応じ手に徐々に真紅の炎が宿る。

言い終わった頃にはその中心は青を通り越し、紫色に光っていた。


「破壊のフローガ


音すらも焼き尽くした炎が大爆発を起こす。


煙が立ち上り、とてつもない破壊音がした後そこには大きく穴が空き、破壊されたダンジョンがあった。


「ったく、やりすぎだよ。」


僕は不意に聞こえた聞き覚えのある声に慌てて振り返る。


「フェンリル………生きてたのか?」


フェンリルはやぁという感じで前足を上げる。


「お主のことが信用できなかったわけではないが、お主の人となりを知らなかったので、試してやろうとやられたふりをしたのだが、想像以上だよ。」


「なんだよ………心配したじゃないか。」


僕は端っこで小さくなってしまっているスロを抱きかかえ撫でる。


「それはお主にはすまんことをした。………犬ころにも申し訳ないことをした。」


フェンリルは子供をその体で包みながらダンジョンにポッカリと空いた穴を見る。


「僕は他人ひとを簡単に信じないが、一度信じたら一生大事にするタイプの人間なんだよ。まぁ、狼には悪いことをしたな。」


僕は土魔法でその穴を突貫だが直す。


「この度は私の娘をお助けいただき誠に有難う御座います。約束に基づきあなたを主とし、生涯この身の全てをあなたに捧げることを誓います。」


フェンリルは僕に畏まって礼をした。


「……ほんとに良いのか?」


僕は尋ねる


「そこはよろしくとでも言っておけばいいんだよ。それに、我は昔から仕えるものを待っていたのだ。だから良いんだよ。」


フェンリルは僕に優しい目を向ける。


「そ、そうか。じゃあ宜しくな。フェンリル…………フローラ。」


「こちらからも宜しく。で、フローラとは何だ?」


「あぁ、フェンリルじゃ面倒だろ。だからうちの世界でフェンリルの別名フローズヴィトニルからとってフローラだ。いやか?」


フェンリルは口元をニヤリと歪ませる。


「名……か。良いものだな。それと、一つお願いがあるのだが、我の娘も世話になっていいか?なに、世話は我がするのだが連れていきたいのだ。」


僕はその言葉に?を浮かべる


「ついてくるのか?」


「言っただろ、全てを捧げると。時間もその中の一つだ。何時でも傍にいるのが主従契約というものであり、関係というものだ。本来なら精霊に誓うのだが、我は神獣だ。嘘などつかん。」


「そうか。まぁ、無理なくな。」


僕とフェンリルは手を合わせた。

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