第75話 PRaYeR oF THe PRiNCeSS

Side王女

 ◇ ◇ ◇


時は少し戻り、王女一行が戰場に到着した頃。 もしくは、レストがフローラに怒られている頃のお話。



「お、王女様だ!!!!!」

「国は俺たちを見捨てなかった!!」

「万歳!!万歳!!王国バンザイ!!!」

「金金金金!!!」

「給与!!名誉!!報酬!!!」


明らかに上流階級の騎士と、それが守る可憐で純粋な少女の登場に、絶望していた前線は一気に沸き上がる。


「グゥガァァアアアアア!!!」


負けじとドラゴンも吠えるが、守るべき者の登場で士気旺盛に天を衝く騎士達と、王女どうこうは置いておいて報酬が増えることに喜ぶ冒険者達はそんなものでは怯まない。


逆に自分がこの化け物を倒すと、更に志気が上がるほどである。


「王女殿下にぃー!!!敬礼!!!」

「「「「「ハッ!!!」」」」」


騎士隊と魔法隊が一糸乱れず、剣を抜いて地面に刺したり、杖を横にして構えたりして45°の敬礼を見せると、王女様もペコリと可憐なお辞儀で応える。


「すげぇー」

「かっけー」

「なんかいいなぁ」

「ギルマスこねぇのかよ?」

「いや、あいつが来ても俺ら礼しないだろ?」

「まぁな」

「「「「ガハハハ」」」」


冒険者はそれを見て、冷やかしたり羨ましがったりと好き勝手やる…………が、


「皆さんもどうぞ宜しくお願い致します。」


王女様がそちらにもお辞儀をして、ニコッと微笑むと、皆『おっふ』と言ってニヤけながら照れるのであった。


そんな戰場には似つかわしくない雰囲気出会ったが、そんなことお構いなしに樹竜ウッドドラゴンは吼える。


「グギャァオオオオオオオオウウウウゥゥゥ!!」


「っ!!」

「またかよ!!」

「うるっせー!!」


冒険者達は流石に切り替えが早く、先程までのデレ顔から一変。


耳を塞ぎ、文句を垂らしながらも真剣な顔で樹竜ウッドドラゴンの元へと走っていく。


「いっけぇ!!!」

「足に気をつけろ!!」

「刺されよ!!!」

「くっそ、かってぇ!!!」


大した傷にもならないが、少しずつでも効いてはいると信じ、男達は剣を振る。


…………しかし、やはり現実は厳しいもので、例え国のトップ中のトップである王女が来たとしてもそうやすやすと勝てたりはしないのだ。


歓喜に満ちていた戰場も少し経つと、


「かかれー!!!」

「一斉に斬りかかれぇ!!!!」

「魔法隊!行くぞ!!!」

「神官はまだか!!!こいつもう死ぬぞ!!」


このような悲鳴のほうが多くなってくる。


「わ、私は何を!?」


その状況を見た王女はいたたまれなくなり、自分にできることは何かないのかと、傍の騎士に問いかける。


「はい。お祈りいただければと。」


「祈りですか?…………分かりましたやって見ます。」


王女は少し沈黙してから、答えて膝をつき、手を合わせた。


彼女、祈ることなんて初めてなのだが、聖女の職業ジョブのおかげか、何となくだがやり方が伝わってくる。


「あぁ王女様!!」

「やはりお力は本当で!!」

「すっげぇ!!!治ってく!!」

「やっば!!!なんか力出てきた!!」

「魔法が何発もうてますわ!!」


数分目を閉じて神様と言われるものに一方的にだが語りかけると、周辺から歓喜の声があがり始める。


「王女様、不躾なお願いかと存じますが、御身の傍を離れ、私も彼らに加勢してよろしいでしょうか?」


少女の輝く銀髪がふわふわと浮き、薄い虹のようなオーラを纏い始めたところで、騎士が言う。


「えぇ、勿論。お願い致します。…………どうぞ怪我をなさらないよう。」


「……………………はっ。御心のままに。」


騎士は己を心配してくれる王女に感動し、声震わせながら、最前線へと向かっていった。


「おぉ、神よ……」


王女は、願い続けるーーーー

聖女は、祈り続ける…………





…………大神の御業を。

ーーーー賢者の訪れを。



「グギャァァアァァアアアアアオオオオオオオオ」



願い続ける王女聖女に反応するように、樹竜ウッドドラゴンが翼を動かし始めた。


「魔法隊!!撃てぇ!!!」


魔法隊は逃すまいと魔法で応戦するが、大部分からかわされてしまい、意味なし。


「ギャゥウウウウ」


いたあと樹竜ウッドドラゴンは、何かから逃げるように特大の炎を放った。


「そっちには街が!!!」

「と、止めろ!!!!」

「や、ヤバい、逃げ、逃げろ……逃げろぉ!!!!死ぬぞ!!!!!!」


その炎の大きさと輝きに、冒険者、騎士構わず人々は絶望の嘆声をあげる。


さっき現れたばかりの一匹の化物に、人々が細々と創り上げてきた歴史や、生活は壊されてしまうのかと皆が俯き始めた時。


ふと顔を上げた男が呟いた。


「えっ……浮いてる………?」


その声に他の冒険者達も顔をあげる。


「あれは誰だ!!!」

「あんなのすぐ死ぬぞ!!」

「おい誰か!!!マジで!!!!」

「街の前にあのガキがヤバイって!!!!」


戰場は憂う空気から一変、心配や興奮の空気になった。


「降りろ!!!!」

「何してんだ!!」


突然上空にガキが現れたと皆が騒ぐ中、王女も祈りを止めて空を見上げ……


「え…………」


……そんな間抜けた声を出した。


彼女の頭の中に『何で?』という言葉が浮かんでは消え浮かんでは消え、脳内を埋め尽くしていく。


「だ、大丈夫ですか?」


その乱れ様は、騎士ララムナードが心配の声をかけるほどであった。


「なんで…………」


王女は胸に手を当てて立ち上がり、


「ヤバいぞ小僧!!!」

「なんで浮いてなんているんだ!!!」

「逃げろって!!」

「死ぬ!!!死にてぇのか!!!!?」


「魔王様ッ!!!!!」


そう、玲瓏に叫んだ。


聖なる水冷たいせせらぎ我を哀しませる冷やしたのは何処聖水ホーリーウォーター


少年の歌のような詞のような詠唱が響き渡った後、



キーーーーーーーーーーーーーーーーン


という不快音がして、街へと一直線に向かっていた炎が消える。


「ぐぅ………!!!!」

「くわっ!」

「なんだっ!!!」

「ぐぅおおお!!!」


冒険者達や騎士たちはそれに歓喜の声をあげたかったが、襲いかかってくる爆風に体を持っていかれ、それどころではなかった。

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