第74話 3つの味方

「ま、マジかよ…………」


まだまだ人が残る学園都市から、約1キロほど離れた野原で、男が一人呆然と呟いた。


「は、ハハっ………うそだろ……」

「あり得ねぇ………まじで……」

「…………俺、生きてっか?」


その周りでも、次々と震え気味の声が上がる。


彼らは先程まで、命をかけて街を、家族を守るために戦っていたはずだ。


あの樹竜ウッドドラゴンとかいう理不尽に、なんとか対抗してきたはずだ。


大人で、戦うしか脳のなく、それなりに強いと自負のある彼らが数十人で、しかも魔法での補助有りで挑んでいたのに相手にもされなかったあの化け物と、たった一人の小さな少年が渡り合っていた。


「俺達、なんで戦ってたんだっけ?」

「あいつは何なんだ………」

「……神………または悪魔か………」


茫然自失でただ棒立ちしながら、呟く。


彼らは、あの少年がドラゴンと剣を交わすたび、なにか自分たちの努力や存在を否定されているような気がしてくるのだった。


「もう、帰ってもいいんじゃね?」

「ほんと、俺らいらねぇじゃん…」

「………ハンパないって………」


ハハハという乾いた笑いが場に響き、彼らは剣を降ろした……………………が、再び持ち直した。


「おい、ヤバくね?」

「押されてる……?」

「嘘…だろ…」


空で戦い続けていた少年が、ちょっと目を離したすきに、明らかな劣勢になっていたのだ。


「お、押されてるよな!?」

「おっおう……負けてるな…」

「や、ヤベェ、血ぃでてる!」


味方である少年が押されているのに若干嬉しそうにつぶやく彼ら。


不謹慎だが、少年の劣勢によって自分たちが肯定されているような気がしてきている。


それはまるで、映画でピンチを迎えたヒーローを見る観客のようだった。


「………おい、これ冗談じゃなくね?」

「……足までやられた…」

「た、助けねぇと……」


でもこれは違う。


必ずハッピーエンドを迎える創作物と違い、彼らにとって現実。ノンフィクションなのだ。


少年がドラゴンに翻弄され、多量の血を流し始めたところでいよいよ、彼らにその実感が湧いたようで、皆一様に焦り始める。


「どうするっ!?」

「分からねぇよ!助けたいけど、あんなたけぇとこ届くわけない!!!」

「剣でも投げるか!!?」

「バカ!ガキの方に当たったらどーすんだ!?」

「じゃあ石でどうだ!?」

「それもおんなじだろうよ、バカ!」

「はぁ、お前バカってのは一回目はいいが二回目はだめだろ!!?」

「あん、やんのか!?一回も二回もおんなじだろ!?」

「回数は関係ねぇだろ!!!!」


冒険者達はあーだこーだと言い合いって、方針が決まらない。


「ど、どうしますか隊長!!?」

「そりゃあ、あの少年を援護しなければ。」

「それはそうなんですが、どうやって援護しますか?」

「お前、飛べないのか?」

「と、飛べませんよ!隊長は飛べるんですか!?」

「何いってんだ?人が飛べるわけ無いだろう。」

「あの隊長、ドラゴンが下に来たときに皆で一斉に斬りかかるってどうですか?」

「届くのか?」

「わ、分かりませんがやって見る価値はあるかと。」

「なるほど、分かった。やってみよう。」


騎士達はなんとか方針を決める。


「魔法で援助よ!!!」

「でも当たったら……」

「私達は誇り高き魔術師!!失敗なんてありえません!!」

「そ、そうですよね!」

「そうですわ!」

「少年を助けましょう!!」


魔法隊はリーダーの言うことで、即決定。

もうすでに実行に移そうとしている。


「撃てぇ!!!」

「ファイア!!」

「コールド!!!」

「ウィング!!」

「ポイズン!!」

「お馬鹿さん!!毒魔法は飛ばないから、下に落ちて………」


ポンポンと、ドラゴンに向かって魔法が飛んでいく。

一つ一つは小さいが、何個と連なることでドラゴンにも幾らかダメージを与えられているようだ。

まぁ、自分たち側からも何故か悲鳴が上がっているが。


「おい、あっちに先を越されたぞ!!」

「少年も辛そうだ!!」

「全員構えぇー!!!」

「いけぇ!!!!!!」


騎士達は、樹竜ウッドドラゴンが下まで来たタイミングで、ジャンプしながら剣を振る。

こちらも大勢での一斉攻撃で少しだがダメージを与えられている。


さて、自分たち以外の2グループが活動を始めたのを見て冒険者達は、


「おい、俺らがビリだぞ!!」

「お前のせぇだ!!」

「お前だろ!!!?」

「ちげぇよこいつだよ!!!!」

「うっせぇ!そんなのどーでもいい!!!今は話し合いだ!!」

「そうだ!!!俺らはなにやる!!?」

「アイツラみたいに闇雲に攻撃せずに、ピンチのときにやったらいいんじゃね!!」

「それだ!!それがいい!!」


対抗心を燃やし、身内揉めをやめて一致団結。

少年の戦いを見つめて、ピンチを伺いはじめた。


ここに、3集団とその他複数人レストを援護するための人々がいるのだが、彼らの出番は訪れない。


何故なら、あーだこーだと話し合う彼らの横で、ただ黙々と粛々と行動する聖女がいるから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る