side Y&T 7
結局、俺達は何もできなかった。
火は魔法の使える大人たちが消し、怪我人はお医者さんや治癒魔法の使い手が癒やした。
瓦礫やガラスの破片なんかも、もうかなり前に動き始まった大人たちの手によってほぼ撤去されている。
そして何より、ドラゴン。
先生が街に訪れたら絶対に勝てないと言っていた、その絶対的な生態系の覇者は……倒された……らしい。
その報告を聞いた先生はありえないと頭を抱えていたけど、報告に来た騎士のお兄さんいわく、倒すことはできなかったが、冒険者と王国騎士と魔法使いの強固な連携によって、追い返すことに成功したのだと。
歴史上の英雄ですら敗北した
しかし、教会から神の助けがあったこと、そしてここ学園都市には聖女である第三王女様があらせられるということが報じられると、すんなりと市民は納得した。
日本の常識がまだ残っている俺からすれば、神なんていないし聖女なんて眉唾に思えるけど、この世界では教会の言うことはこうも簡単に受け入れられるみたいだ。
閑話休題。
とにかく、俺らはまたしても先生や騎士、冒険者の活躍を見ていることしかできなかったんだ。
あの日から数十日が経って、学園は怖いほどの日常を取り戻していた。
「はぁ……」
俺は授業を聞き流しながら、深くため息をつく。
毎日登校して、さほど難しくない授業を聞き流して、帰宅して寝る。
その繰り返し。
他の人は、俺らがこうしている間にもなにかに挑戦して、そして挫折して……成長し続けているんだ。
クラスの皆は日本に帰りたいという思いは持ちながらも、こっちの暮らしにもなれはじめ、完全に日常を惰性で過ごしている。
俺と田中はせめてもの抵抗というか、成長のために自主練を続けているけど……。
俺は、正直それにも限界を感じていた。
少しづつ成長しているのは感じるが、それでも何もせずただ遊んで日々を過ごす赤井の足元にも及ばない……。
この世界はクソだ。
日本なら、努力でひっくり返せるチャンスが有るのに……初期設定の
キーンコーンカーンコーン
なぜか日本とかわらないチャイムの音を聞き流して俺は再度、深くため息を付いた。
◇ ◇ ◇
そんな風に俺らが日常を過ごしていたある日。
「クソッタレがぁっ!!!!」
赤井がいきなり机を思いっきり叩いた。
かなりの力を込めたらしく、机には凹みができている。
「ど、どうしたの!?」
「だいじょうぶか?」
すかさず、隣りにいた赤井の取り巻きたちが我先にと声をかけ始めた。
「マジありえないっ!!」
赤井の隣では、やつの彼女が同じように怒りをあらわにしていた。
「どしたん?」
「二人して珍しくね?」
「なんかあったん?」
集まったクラスメイト達に、何故怒っているのかを聞かれた赤井と春奈は口を揃えて、
「「隣のクラスに、
そう叫んだ。
「偽物ってどういうこと?」
思い出したのか再び怒り始めた赤井に、彼の取り巻きの中でも上位のやつが尋ねる。
「公国とかいう田舎から来た、勇者だってさ……。」
赤井がダンっと机を叩いて言った。
「そうっ!!しかも聖女とセットで、ふたりともなんかスカしてんの!!ありえなくない!!?」
それに便乗するように、春奈が叫ぶ。
それからはもう赤井と春奈の愚痴のオンパレード。
しかもその中身も酷く、あちらは何もしてないのに『調子乗ってる』とか、『いけ好かない』『ウザい』みたいな暴言を吐くだけ。
正直、俺は聞いてるだけで腸が煮えくり返ったが、取り巻きの奴らはそれを真剣に聞いているから、本当に末期だ。
けど、新しい勇者と聖女か。
そっちはまともだといいな。
俺はそんなことを思いながら、これ以上気分を悪くしないように耳を手で覆い隠した。
◇ ◇ ◇
公国から勇者と聖女がやってきて以来、ずっと赤井と春奈はイライラしていた。
特に赤井はそれが顕著で、日を増すごとにその怒りは溜まっていっている。
今はふたりとも、怒りをなんとかそして抑えているけど、それも多分時間の問題だと俺は思う。
俺のそんな予想は、こんな時ばかり当たるようで……。
「ざっけんなぁぁっ!!!!!」
とうとう、赤井の怒りは爆発した。
俺としては、正直よくここまで持ったなという感想だ。
数日前からいつ爆発するか気が気でなかったから。
「見せつけやるようにぃ………!!!!!クソぉ!!!!!もぅ我慢ならねぇ!!!!」
爆発した理由はとっても簡単。
俺はまだ見たことないからわからないけど、公国の勇者様は結構な美形らしく、休み時間になると女の子たちが寄っていくみたいで……。
それを見た赤井が、見せつけてるって言って怒った感じだ。
まぁ、ガスの充満した部屋だと、少しの静電気で発火するらしいし、溜まってた怒りがその些細なきっかけで一気に燃えたってところだな。
「うぁああああああ!!!」
赤井は狂ったように叫んで、周りの制止を振り切って、教室を飛び出していった。
「山田くん……なんか嫌な予感がするよ…。」
田中が赤井が出ていった扉を見つめながら、つぶやく。
「俺もそう思う…………行ってみるか。」
俺はこのままだとヤバいような気がするから、様子見だけでもしようと席を立った。
「うん、いこっ!!!」
クラスメイト達も今回の赤井が普通じゃないことを悟ったらしく、パラパラとだが皆赤井を追って走り出した。
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