第23話 雑貨屋と寮
「すみません。」
ギルドに併設の酒場には今回の報酬を早速使って酒を飲む冒険者たちの姿が多く見える。
「あっ、お疲れ様です!特別クエストですね。こちらにどうぞ。」
出された大きな木のトレーに僕は予め
「数えますね。」
お姉さんは手際よく剣を仕分けしていく。
「えー、剣が7本、大剣が19本、魔法剣が1本に魔法大剣が1本ですね。行くのが遅かったですけど、素晴らしい活躍ですね!買取いたしますか?それともご自身でお使いになりますか?」
「全部買取で。」
僕は剣に困ってないし、小刀はなんかヤバそうだったから出してない。
それに、今は何よりお金が必要だ。剣1本で一万円の高額クエストだ。ここで稼いでおきたい。
「はい。じゃあ、剣で
What 振り込み?
「振り込みってなんですか?」
「振り込みというのは、ギルドの管理する銀行に振り込ませていただきます。こちらは、どの支部でも基本は引き出すことができます。」
へぇー、そんな銀行みたいな事もしてるんだね。
まぁ、現金を持ち歩きたくはないし、ここは信用するか。
「じゃあ、8万ヤヨだけ持たせてもらって、残りは振り込みで。」
「分かりました。ではこちらに。」
差し出されたのは四角い銀色の板8枚。
薄く10,000と書かれている。
「あと、今回の特別クエストでFへ昇格です。おめでとうございます。」
お姉さんはにこやかに手を差し出してくる。
「あっありがとうございます。」
握手はしなかった。
「なにかご質問ありますか?冒険者に関して以外でもいいですよ。」
質問か………あっそうだ、あれを聞いておこうか。
「あの、時計とカレンダーってありますか?」
魔王とヒスイが何月何日って言ってたし、あの試験官も七時に集合って言ってたから、あるのかな?
「ありますよ。ギルドでは扱っていませんが街の雑貨屋さんとかにあると思います。」
「ありがとうございます。」
僕は頭を下げて外に出る。
思わぬ大金を手に入れられて満足だ。
時計とカレンダーを買いに行こう。
街に出て、目に入った雑貨屋さんに入る。
夕方だがまだまだ店は皆開いていた。
中に入ると、小物や生活雑貨が所狭しと並んでいる。
その中には腕時計もあった。
壁の一角に腕時計たちが吊るされていたのだ。
革でできたのから、金属っぽいのまでいろんな種類があった。
デザインにこだわりもなにもないのだが、選ぶなら、薄い緑色を帯びた金属の時計かな。
この時計、カッチカッチという音は聞こえないが、何で動いているのだろう?
電池とかいうものはないだろうし、歯車でもなさそうだし、魔力と言うやつなのかな?
僕は時計を手に取り、カレンダーを探す。
「あった!」
店の端っこにカレンダーがあった。
デザインは一ヶ月ずつで白に土日は赤青っていうシンプルなもの。
僕はカレンダーの束の一番上のやつを取ってお会計に行く。
「これお願いします。」
老婦人が受け付けしてくれた。
「はいどうも。2つ合わせて2000ヤヨです。」
「これで。」
昨日の報酬から2千ヤヨを出す。
「ちょうどね。ありがとうございました。」
老婦人に見送られ、外に出る。
あとなにか買っておきたいもの………。
強いて言えば、食べ物かな。
こっちに来てから、木の実を主食に生きているが、流石にちゃんとした飯を食べたい。
「それも、寮に入ってからか。」
寮のお風呂やトイレに思いを馳せて、僕は寝るために図書館へと帰った。
◇ ◇ ◇
翌日、早めに起きてシャワーを浴び、腕時計をつけた僕は、学園へと向かう。
ついた時間は6時45分。
7時集合と言っていたので丁度いいくらいだろう。
少し経つと、生徒たちが集まり始め、最後にあのニーなんとか試験官がやってきた。
「今日は昨日話した通り、制服の採寸や小物の確認だ。そんなに時間はかからないから、各自担当の言うことに従って行動するように。」
僕はお姉さんに案内され、壁の前に立つ。
「手足を広げてじっとしててね。」
そういったおばさんは、僕の体にメジャーを当てて色々測り始める。
「はい、いいよ。」
今度は机の前でカタログみたいなのを広げられる。
「今回は、こちらのブレザー(男)の上下と、Yシャツ、セーター、ネクタイ、靴、鞄の一式をご注文ですね。お届け日は明日になりますが、どちらにお住みですか?」
今住んでいるのは図書館なのだが、多分そういうことではないのだろう。
「えーと、寮に入る予定です。」
「はい。ではこちらで部屋番号を確認の上明日お届けいたします。」
おばさんに礼をして僕は訓練場の真ん中に戻る。
「測り終わった奴らは帰って良いぞ。寮に入るやつはまっとけ。」
言われた通りに待っていると、
「寮の奴らこっち来い。」
そう呼ばれた。
おじさんを先頭にしてぞろぞろと学生たちがついていく。
「この建物が寮だ。じゃあ、片っ端から鍵と部屋の引き渡し始めるぞ!」
案内されたのは訓練場の隣の細長い建物が3つ。
どれも、横と上にとてもデカく見ていて圧巻だった。
でも、意外に奇麗だな。
「カアラタさん!」
「トムヤム君!」
「エバラさん!」
受付のお姉さんたちが広げられた机で生徒の名前を読んでいく。
「レスト・ローズド・サタンヴィッチ・ルシファー君」
僕のクソ長い名前が呼ばれたので、一番端のお姉さんのところに行く。
「はい。これが鍵ですね。2号棟の202号室です。」
「ありがとうございます。」
細長い金属の鍵に青いケースがぶら下がり、中に202と書かれているなんとも古めかしい鍵と、寮の案内図を渡された。
「今から使っていいのかな?」
周りを見ると鍵を受け取った人たちは皆、建物の中に入っていくので、多分入っていいのだろう。
開きっぱなしの入口から、中に入る。
入ってすぐは受付とロビーがあり、そこからバーッと階段が伸びている。一階にも部屋はあり、奥を覗けばドアだらけだ。
僕は2階なので、階段を上がって………。
あった!
左側の階段を上がってすぐのところに202号室があった。
細長い鍵を穴に指すと、ギーという音とともに若干硬いが、回った。
「お邪魔します。」
自室なのだが慣れないので、そう言ってしまう。
靴は脱がないのね。
部屋はシンプルで何畳とかは分からないが、入って右手にトイレがあり、正面に一つだけ部屋がある。
ベッドと勉強机だけが備え付けられていて後は何もない。
「当分これだけあればいいかな。」
でも、僕は何をするわけでもないのでそれだけあればいい。風呂とトイレと寝床があれば十分。
「久しぶりに訓練するか。」
ちゃんと毎日何百回、何千回と素振りをして、体に馴染ませいるが、やはり実戦で新しい技を身に着けると成長の具合が段違いなんだよね。
僕は寮から出て街へ向かう。
フローラとニルは柔らかいベットのある、部屋で待っているらしい。
スロはいつもどおり、頭に乗っている。
冒険者ギルドに着き、クエストを見る。
Fランクになったので、Eランクまでの依頼が受けられる。
「これお願いします。」
「はい。ゴブリンの討伐ですね。目標は10匹。証明部位は耳です。」
目に止まったゴブリン討伐クエストを受けて外に出る。
久しぶりの狩りと行くか。
◇ ◇ ◇
森へ入って探索魔法を使う。
正面500m位のところに岩場があり、ゴブリンが群れで潜んでいる。
「行くか」
僕はその場でストレッチをして、走り出す。
「こんにちはっと!」
すれ違いざまに一匹、見張りのゴブリン5匹を攻めの型で斬り伏せ、洞窟の奥へと進む。
そこそこの速度で走りながら向かってくるゴブリン達を全部斬る。
「
暗くなってきたので左手に光を灯し、剣を小刀に持ち変える。
理由はかんたん。長いと壁や天井にぶつかるのだ。
「はぁっ!!」
ちょっと大きめのゴブリンが出始めたが、それも瞬殺し、奥に進み続ける。
少し進むと、
「分かれ道………か。」
分かれ道に当たる。
「どっちにしようかなぁ?」
そこら辺の木の棒を倒して決めようかと思っていたら、右の道から
「キャーーーーー!!」
という叫び声が聞こえてきた。
「なんか、右に行きたい気分。」
僕はスロを頭からおろし、ついてきてと言い走り出す。
「はっ……よっ………おっと!」
棍棒が武器だったゴブリンだが、この辺から剣や魔法などを使い始めた。
こころなしか硬くなってきたような気もする。
「ぐっぐわぁぁー!!!!」
今度は男の悲痛な声が響く。
剣を振る手と、足を少し速める。
「よいしょっ!!炎付与!《エンチャントファイア》」
道が細くなってきた時に現れたデブッチョゴブリンを火をまとった剣で切り伏せる。
巨体が倒れて見えたのは、少しだけ開いた木の扉だった。
「やっやめてくれぇ!!!!」
扉の奥からいよいよ切羽詰った声が聞こえたので僕は扉を斜め十字に斬り飛ばし、部屋へ転げ込む。
「ひっひぇえ!」
状況は………女二人に男一人、格好からして魔法使いと盗賊、剣士かな。
女二人は服が所々切れて少し血が出てるくらいだが、男は右肩と腹をやられていてかなりキツそうだ。
部屋はなんかコロッセオの劣化版みたいなデザインで、敵は中央の3mを超えそうなボスゴブリンと、その両端にいる魔法使いゴブリンと大剣ゴブリン。
「キシャーー!!」
魔法使いゴブリンが突然の乱入者である僕に威嚇で火の玉を飛ばしてくる。
「よっと。
一応高位の範囲治癒を男達にかけておいたので、死ぬことはないだろう。多分。
「グワァァァ!!」
「シャー!!」
大剣ゴブリンが前に出て、魔法使いゴブリンが後ろでそれを援護する形で僕へと向かってくる。
ボスゴブリンは動かない。
「よっこらせっと。」
風魔法の刃達を剣で反らし、大剣ゴブリンが振りかぶって空いた脇に小刀をぶっ刺す。
「グ”ワ”ア”ァ”ァ”!!!!」
断末魔をあげる大剣ゴブリンに蹴りを入れて、魔法使いゴブリンの喉元に、
「オーガ流ぅ!突きぃイイ!!」
渾身の突きをお見舞いする。
「ふぅ。」
返り血で濡れた頬を手の甲で拭い、垂れてきた前髪を後ろに持って行く。
「グゥ」
唸るような声を出すボスゴブリンに、対峙して言う。
「さあ、戦いを始めようか。」
いつかのゴブリンとオーガにかけた言葉を。
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