第24話 ゴブリン退治

「ゴォォウ!」


ボスゴブリンの武器は趣味の悪い血まみれの棍棒だった。


強く激しく、、鋭く感じ取ろう、身体能力五感強化。」


詠唱短縮して強化魔法を使う。


「よっと!!」


突き出された棍棒の先を剣で切り、その上に乗ってゴブリンの頭を目指す。


こういうのは体にいくら当ててもノーダメで、頭を潰さなきゃというやつだから、最初から頭を狙おう。


「グオォ!!」


怒ったよう棍棒を振り回すが、僕はすでに彼の頭の上だ。


「せーのっと!!」


力いっぱい、剣を頭に刺し込む。


「ゲッゴフォォ!!」


力強いボスゴブリンの断末魔がその場を支配し、

ドゴォーンという音と共に巨体が崩れ落ちる。


「あんま強くなかったなぁ。」


『まぁ、ゴブリンだしね。』


僕は血がついた剣を振るい、大剣ゴブリンに刺さった小刀を抜く。


魔法剣とか言ってたけど何が違うんだろうか?


刺した感じ少し軽いかなくらいだったけど。


「あっあの、ありがとうございます!」


治癒魔法が効いたのか、すっかり回復した男の人が僕に礼を言ってくる。


「お兄さん、もう元気ですか?」


「はっはい。おかげさまでとても。」


男の人は戸惑いながらも答えてくれる。


「あの、なにかお返しさせてください!お金は余り有りませんが……。」


お礼と言われてもなぁ、金が欲しくて助けたわけじゃないというか、助けたくて助けたわけじゃない。


僕はただボスゴブリンと戦いたかっただけだしぃ。


………そうだなぁ…。


あっ!その手があったか!


「貴方剣士ですよね?剣出してください。」


「えっええ。分かりました。」


腰に挿していた剣を構えてくれた。


「………完全記憶。」


小さくそう呟き、彼の構えを観察する。


僕が欲しくて、彼にとって大した負担ではないこと。ズバリ、剣技を見せて貰うこと。


どれどれ………。


僕のより少し上気味かな?あと力が入っている。これは、緊張か?


よし。覚えた。


「じゃあ、僕に切りかかってきてください。」


僕も軽めに構えて一歩前に出る。


「えっ!……わっわかりました。」


遠慮気味に斬り掛かってくるお兄さん。


ほうほうこれは、、、、。


持ち方が少し緩めで、普通の剣技に突きっぽい感じが加わっている。体は若干左気味、足運びはつま先だけで、引くときが強め。


「ありがとうございます。もう少し本気で来てください。今度は僕が行きますね。」


「はっはい。」


守りが見たいので、軽く袈裟斬りを放つ。


「くっ!」


辛そうだったが、ちゃんと受けられていた。


ほうほう。受けるときは体というよりは足か?腰もひねってるな………。


「ありがとうございました。」


体の向きを変えて、ボスゴブリンと魔法使いゴブリン、大剣ゴブリンの魔石を取り出し仕舞う。


「じゃあ僕はこれで。」


「あっ、ちょっ!」


僕は剣をしまい、小刀を出して歩く。


ここまで来たので、左側の道にも行ってみよう!


 ◇ ◇ ◇ 


「よっと、これで行き止まりか。」


左側には大して強い敵もいなく、100mも行かないところで壁にあたった。


「10体だったっけ。」


山になったゴブリンの上の方の奴らの耳を頂戴する。


余裕を持って十五位でいいか。


残りのゴブリンたちからパパっと魔石だけ取り出して、


火を与えよ優しさで包む着火ティンダーぁ。」


火を点ける。


「燃えたかな?」


灰になった彼らに手を合わせ、水を掛ける。


道中それを繰り返して進んだ。


「けっこう倒してたんだな。」


道が死体で埋め尽くされていたところもあった。


「あっあの、本当にありがとうございました!」

「「ありがとうございました。」」


結構時間が経っていたのだが、彼らは律儀にも待っていた。


「いや、ほんとに大丈夫ですから。」


僕は彼らに頭を下げ、ギルドへ向かった。


 ◇ ◇ ◇


「これ、お願いします。」


受付のお兄さんにゴブリンの耳を差し出す。


「はい。5つ多いですから、報酬も少し上げさせて頂きます。こちらです。お疲れさまでした。」


眠そうな感じを押し殺してお疲れ様って言ってくれるお兄さんに、お疲れ様と言いたい。


本当にお勤めご苦労さまです。


7000円、じゃなくてヤヨ。


まぁまぁの値段かな。


「ありがとうございました。お疲れ様です。」


「あっ、ありがとうございます!!」


お兄さんは僕に微笑んでくれた。

………お兄さん意外とイケメンなんだな。


僕はお風呂に入って寝ようと、寮へ向かった。


 ◇ ◇ ◇ 


「おかえり、随分遅かったの。」


「ただいま。まぁ、色々あってね。」


なんかおかえりって出迎えられるのはムズムズするが、一応ただいまと返しておいた。


「ふぅー。お風呂行ってくる。」


「あぁ。」


僕は布団に入ったらもう動けなくなる気がしたので、すぐにスロを抱き上げてお風呂に向かった。


お風呂は一階の端っこにある。


ちゃんと入り口が男女で別れていて、間違ってもきゃははうふふな展開にはならないのだよ。


「洗濯籠って銭湯かよ。」


夜中なので他に誰もいないのを確認し(別に居ても良いのだが)シャワーを浴びる。


「スロ痒いところはないか?」


「ふぃー。」


スロも気持ちよさそうで何よりだ。

頭から足の指までおんなじだが、ちゃんと液体の石鹸があった。


「ん?背中洗ってくれるの?ありがとう。」


僕が背中を洗いづらそうにしているのを見て、スロが洗ってくれた。


「ふふんふふん。ふふふんふん。ふふふんふんふん、ふんふふふん。」


鼻歌を歌いながら体の泡を流し、湯船に入る。


露天なんて豪勢なものではないが、10人が入っても余裕がある湯船っていうのは良いよね。


なにより、肩まで浸かれるってのが良い。


「ぬぉぉおおぉぉぉ‥。」


変な声が出てしまった。


でも、頭にスロを乗せてさながら銭湯のおじさん気分だ。


「いやぁー、あの男の人の剣は訓練は甘いし、すきも多かったけど、活かしようがあるね。」


今思えば、彼が初めて剣を交わした人間だな。


ザバーーン


僕は最後に頭まで浸かり、お風呂を出た。


 ◇ ◇ ◇ 


「ふぅー。ただいまぁ。」


「いい湯だったか?」


「うん。久しぶりに染みたよ。」


牛乳瓶片手に………ではないが部屋に戻った僕は夕ご飯代わりに木の実を囓る。


「それ、美味いのか?スロもお主もそればかり食べているが。」


「これ?うんと、1/100に薄めた砂糖水にレモン足したみたいな味してるよ。」


「うん。なんとなく味がわかった。」


フローラがしかめっ面をする。


「食べる?」


「いや、いらぬ。」


「そう?案外悪くないのにな。」


僕はスロに実をあげる。

プニュンと僕の手を包むスロの体。


ムシャムシャと木の実を美味しそうに食べている。


「美味しいよね?」


「ふぃーー!!」


そう跳ねるスロを撫でながら僕も木の実を食べる。


「ふはぁ〜。」


食後の水を飲んでいたら、欠伸が出てきた。


「どれ、剣を振ったら寝るか。」


ゴブリン君の剣を出して、ぶつからないように振る。


イメージは今日見たお兄さんの剣だ。


「ふんっ!ふんっ!」


あっ!


数度振っていたら、賢者様がゴブリン流といい感じに混ぜた最適な振り方や型を教えてくれた。


いつもあざーす。


「ふんっ!ふん!っと。」


もう一度汗をかいても何なので、数十回降っただけでやめておく。


「スロも寝るよ。」


跳ねてなにやら鍛えていたスロを抱き上げて、オイルランプみたいな魔道具って奴を消す。


布団の壁際の上にはすでにフローラ親子が居たので僕はスロを抱きしめてニルを起こさないように寝る。


「おやすみ。」

「おやすみじゃの。」

「ふぃーー。」


久しぶりのふかふかのベッドは気持ちよくてすぐに寝れた。


◇ ◇ ◇


チュンチュン


「ん………ふぃー。」


小鳥のなく声で起きるなんて、風流だね。


背伸びをしているとスロがお腹をグリグリと押す。


なんだ?かまってほしいのか?かわいい奴め。


僕はスロの体をフニーって伸ばして縮めて遊ぶ。

スロも気持ちよさそうで何よりだ。


フローラとニルはまだ寝ていた。


僕は朝ごはんにはちょっと早いので剣だけ持ってウトウトしだしたスロは、フローラの隣において部屋を出た。


ちゃんと鍵はしめたよ。


学園の中にチラホラと起きている人が見られる。

お早いこと。


僕はあの訓練場が開いていたので、そこに入りほそぼそと素振りを始めた。


「ふっ!ほっ!ほいっ!」


賢者様のうつすイメージ像に身体を近づけるように剣を振る。


無心で振るのだ。


……………………。


「ハアッ!!!」


剣を振り続けて暫く経った時、隣から声が聴こえた。


見ると、金髪の美男子が西洋剣を振っていた。


カッコええなぁ。


今度は居合斬りの訓練を始めよう。


鯉口を切り、抜刀する。

うん。いいだろう。


もう一度抜刀する。

今度もいいだろう。


もう一度…。

いいだ…。


一度…。

い…。


「……の…」


もう一度。

いいかな。


「あのぉ…」


今回はだめだな。


「あの!!」


「はい!なんですか!?」


びっくりしたぁ、いきなり話しかけられるんだもん。


振り返ると、あの美男子が居た。


「良ければお手合わせしてくれませんか?」


手合わせか………まあ、良いか。


「分かりました。」


「ありがとうございます。」


僕は訓練場の端に行き、小声で完全記憶魔法を唱える。


「じゃあ行きますね!」


ドンッ!


空気の音が聞こえるくらいのスピードで美男子が接近してくる。


「くっ!!」


僕も剣で受け止める。


「っ!」


今度は僕が逆袈裟を放つ。


ガン、キン、ドン


どれくらい経ったのか、僕らは剣を合わせ続けた。


「くっ!!!」


僕は終わりにしようと一度距離を取る。


「はぁぁ!!」


相手もこれが最後だと分かっているのか、剣を構え直す。


「「行くぞっ!!」」


お互いの声が重なり、剣が面前で火花を散らし交差する。


勝負は一瞬でつく。


「っ!ありがとうございました。」


「はい…」


少しした後、地面に倒れていたのは、僕だった。

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