第25話 エピローグ
一対一の剣の戦闘で大事になるのは『重さ』と『速さ』だ。
速さは僕のほうが上だが、ほぼ互角。
しかし、重さという面で、僕は彼に負けていた。
太めの西洋剣と、日本刀が合わさったとき重さで負けるのは日本刀だ。
決して武器のせいにするつもりは無いし、僕の鍛え不足による負けではあるのだが。
あの美男子は何者なんだろ?
強化魔法は使っていなかったが、勝負で負けたのは初めてだ。
いや。こっちに来てから初めてと言ったほうがいいかな?
日本では負け続きの日々で勝ったことなんてないが………。
今、それは関係ないな。
あの美男子は訓練場を後にしたから、ここにいるのは僕だけだ。
「がんばろ。」
僕は昼過ぎまで剣を振り続けた。
◇ ◇ ◇
「ど、どうしよう〜。」
部屋の前に行くと受付の制服を着たお姉さんがうろうろしていた。
多分僕に用かな?
「あの、何か御用ですか?」
「っ!はぁびっくりしたぁ。あの、君はレスト君ですか?」
なんか話しかけたらめっちゃ驚かれた。
「はい。そうですが。」
「あぁ、そうですか!!こちら制服のお届けですぅ〜!」
指で指されたほうを見ると、デカ目の箱が足元にあった。
「ここにサインしてもらえますかぁ?」
お姉さんから2枚の紙を貰う。
1枚目は受け取り側、2枚目は渡す側が持つ感じね。しっかりしてるんだな。
そんなことを思いながら、レストとサインする。
「はい!ありがとうございますぅ〜。学園生活楽しんでくださいね!!」
「あっはい。ありがとうございました。」
軽やかなスキップでお姉さんは去っていく。
あっ、コケた。ドジなのかな?
お姉さんが下に降りたのを見て、箱ごと部屋に入る。
意外に軽かった。
「おかえり。……何だそれ?」
起きていたフローラが訪ねてくる。
「制服だよ。」
机の上に置いて開ける、中を見せる。
入っていたのは私立高校みたいな明るい紺色のブレザー上下と、普通の白いYシャツ、卵色のセーター、水色のネクタイ、ローファー、茶色の革(?)の学生鞄、それと白衣。
「白衣着用が義務なのか?」
「さぁ?しらんな。」
まぁ着て行っておかしかったら脱ぐか。
「明日が入学式か。」
『何?緊張とかしちゃってるの?』
「まぁ少し?」
『へぇー。君でも緊張するんだ。』
魔王が驚いた声で言う。
「人を何だと思ってるんだよ。」
『ごめん、ごめん。』
とりあえず制服はしまって。………時間もあるしギルドに行くか。
「じゃあ出かけるね。」
「すぐだな。まぁいってらっしゃい。」
鍵は開けて出た。閉めるのが面倒臭いし、強盗なんて入らないだろう。
◇ ◇ ◇
今日のギルドはそこそこ混んでいた。
依頼は………これにするか。
受付の空いているお兄さんに依頼を渡す。
「すみません。蛇の討伐を受けたいんですけど。」
「はい、承りました。このクエストはアオ蛇の討伐です。アオ蛇は森や街に居て毒や危険はないですが、噛まれるとかなり痛いので気をつけてください。今回は10匹が達成目標です。巣にはお宝があったりしますから頑張ってください。」
お兄さんの説明を聞き、麻袋をもらってギルドを出る。
◇ ◇ ◇
「蛇かぁ。噛まれるのは嫌だな。」
門番さんに挨拶し森に出たは良いが、どうやって探せばいいんだろう?
蛇って肉食だっけ?
「あっいた。」
色々と考えていたら1mほどの青い蛇が目の前を横切った。
「っ!ちょっ!」
すぐに見えなくなってしまいそうになったので、追いかける。
蛇はかなり早く走らないと追いつけないが、少し走ると蛇がいきなり止まった。
「なんだ?」
探索魔法を使って初めて気づいた。
囲まれてる。
「頭いいんだな。」
「シャー!!」
僕を囲むように20匹位居る。
「キシャーーー!」
追いかけていた一匹が飛びかかってきた。
…………咄嗟に首根っこを掴んだが、どうしたらいいんだろうか?
「シャー!」
続けて他の蛇たちも飛んでくるので、持っていた蛇を麻袋に入れ、それらも次々と捕まえる。
「何か捕まえられたんだけど。」
「ギジシャーーー!!」
戻ろうかと思っていたら、奥からアオ蛇にヒラヒラがついたちょっと強そうな蛇が出てきた。
「ギギギィ」
なんか歯ぎしりみたいな声出してジリジリと詰め寄ってきて、
「シャー!!」
飛びかかってきた。
「えい。」
…………なんか、こいつも難なく捕まえられた。
「帰ろうかな。」
何か達成感を感じられないが、一応達成はしたし時間も経ったので、街に戻ることにした。
◇ ◇ ◇
「アオ蛇20匹にキングアオ蛇1匹ですね。お疲様です。」
ギルドで差し出されたお金を貰って外に出る。
時計を見ると5時だった。まだ帰るには早いかな?
「っと!すみません。」
考えながら歩いていたらぶつかってしまったのですぐに頭を下げる。
「貴方!
「お嬢様になんてことをしてくれるんだ!」
嫌な奴らに当たってしまったようだ。
少し霞んだ金髪縦ロールの日傘をさすお貴族さんとその
「すみませんでした。」
無駄だと思うが一応頭を下げる。
「ごめんで済んだら警察はいらないのですわよ!」
「そうだぞ!!」
警察ってこっちにもあるんだー。すごーい。
「ちょっと!聞いてますの!?」
「そうだぞ!」
縦ロールがフンッて感じで距離を詰めてくる。
「聞いてますよ。すみませんでしたね。」
そう言って僕は一歩下がる。
ていうか、どうにかしてほしいんですけど。周りに人だかりができてしまっている。
僕は平穏な生活を送りたいんだ。お貴族様(たぶん)と揉め事なんて嫌だ。
「いいえ、許せませんわ!そうですね………あっ!名案を思いつきましたの!貴様と私のフリーデが戦ってそちらが勝ったら許してあげます。でも、こちらが勝ったら貴方には上裸で1時間土下座して貰いますのよ!」
「そうだぞ!」
なんだろう、このとてもとても嫌だが死ぬほどでも無い絶妙な罰ゲーム加減は。
正直目立ちたくはないが、フリーデとかいう執事さん、なかなかに強そうなので戦ってみたいとも思う。
「分かりました。それでいいですよ。」
「フン!負けて泣く姿が見えますのよ!」
「お前なんか一瞬だ!」
ワーワー言ってくる二人を無視して僕は地面の端に落ちていた長めの棒を拾う。
てか、ゴミ拾いクエスト受けるやついないのかよ。ここのゴミ拾えばかなり稼げると思うぞ?
「その棒、平民にはふさわしいですのよ!」
「早く構えろよ!!」
………ムカついてきた。こいつら、一発ぶん殴ってやろうか?
「完全記憶」
ボソッとつぶやいて魔法を使う。
「行くぞ!」
意気揚々とかかってきた執事さんの点数は70点位かな。
貴族に仕えているだけあってしっかりとした剣筋だが僕を見て、油断しているのか遅い。
「なっ!」
試しに僕がはねかえすと後ろに下がってしまった。
「くそっ!」
本腰を入れてくれたのか、今度の攻撃は早いし強かった。
でも、そこまでかな?
僕のほうがまだ上だな。たぶんオーガさんにも負けてしまうだろう。
「っ!………私の負けだ。」
少し相手をすると、執事の手から剣が落ちた。
僕の勝ちだな。
「ありがとうございました。」
執事に挨拶して木の棒を元の所に戻してその場から立ち去る。
「な、ちょっと!待ちなさいよ!!」
縦ロールが騒いでいるが、僕は無視して学園へ歩く。
一応筋は通した。
僕は勝負に勝ったんだから、あそこにいる必要はないし、止まる意味もない。
◇ ◇ ◇
「ただいま。」
部屋に戻るとフローラが迎えてくれた。
「おかえり…………なんか疲れてる?」
「まぁ、精神的に?」
あういうタイプの人は苦手なんだ。
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