第22話 難解クエスト

「こんにちは。」


ギルドに行くと、他に誰もいなかった。


「こんにちは。今日は空いてますね?」


「あぁ、今日特別クエストが出まして。見ますか?」


お姉さんから資料をもらう。


「空飛ぶ剣討伐クエスト?」


「はい。東の森で剣が飛んでいまして、人に当たったら危険なので討伐。もとい回収をしてもらっているんですよ。普通の剣で1本10,000一万ヤヨ。大剣で100,000十万ヤヨ。魔法剣とか貴重なものになると、1,000,000百万ヤヨとかにもなりますよ。行ってみますか?」


空飛ぶ剣か。

なんか怖そうだけど、今の僕にはお金が必要だしな。


「行ってみます。」


「了解しました。くれぐれも怪我をなさらないように。」


お姉さんは笑って注意してくれる。


「剣が空を飛ぶとな、不思議なもんだな。」


「フローラも知らないの?」


「あぁ。聞いたことない。」


そんなことを話していると、東の門についた。


「おい!俺の剣だ!」

「いや!俺のだよ!」

「てめぇ、いってえよ!きぃつけろ!!」


「なんか、すごいな。」


門をくぐると、屈強なおじさんから、少女まで沢山の人達が空を飛ぶ剣を巡って争っていた。


僕も少し進んだところで空を飛んでいる剣の柄を掴む。


「不思議だな。さっきまで意思があるように飛んでいた剣が、掴んだ途端に普通の剣に戻るんだから。」


「そうだな。どれ、我も頑張るか。」


フローラもジャンプして剣を口に咥えて捕まえていた。


僕も負けじとさっき捕まえた剣で空飛ぶ剣を叩き落とす。


 ◇ ◇ ◇ 


十数分経ち、周りを飛んでいる剣の数も少なくなってきた時のことだった。


「くっくるぞ!大剣の群れだ!!!」


と一人の男が叫んだ。

その言葉に周りの冒険者達は皆一斉に森の奥を見つめる。


「大剣の群れ?」


「坊主、大剣の群れってのはなその名の通り、大剣が空を飛んでくるんだよ。奴らは攻撃的で危険な代わり高く売れるんだ。」


隣のおじさんが親切に解説をしてくれた。


「ありがとうございます。」


僕は礼を言いながら森の奥を見据えて剣を構えた。


「来る」


誰かがそういった時、森から突如150cmを超える大きくて太い剣が群れになって現れた。


「切られんなよぉお前らぁ!!」


さっきのおじさんがそう叫んだのを皮切りに、冒険者たちと大剣との攻防が始まった。


僕も周りにまじり、飛んでくる大剣と戦うが、これがなかなかに強い。


さっきまでの剣はただ空を飛んでいるだけで大した攻撃はしてこなかったが、大剣達は意図してお腹や胸などを狙って飛んでくる。


まるで見えない敵と戦っているみたいだ。


「くっ!」


二本同時に相手するのはキツく、肩を切られてしまった。


「ちょこまかと!」


フローラも苦戦しているみたいだ。


『唯一君、刀身じゃなくて柄を狙うといいよ。』


魔王がそうアドバイスしてくれる。


「柄ね。OK」


言う通りに打ち合っていた2m近い大剣の柄を切ると、一発で地面に落ちて動かなくなった。


僕の近くの大剣は倒し尽くしたので拾いつつ、周りを見てみる。


ベテランの冒険者たちはさすがといった感じで上手く切られないようにしながら、剣の柄を狙っている。


「あっ!危ない!」


端っこで戦っていた僕と同じくらいの歳の女の子の後ろから、違う剣が飛んできていた。


空斬くうさんっ!」


僕はすぐ後ろの木を蹴り飛ばし、女の子の後ろに回り込み、大剣を受け止める。


「ぐわっ」


いってぇ!

受け止めたは良いが勢いが殺しきれず、持っていた剣がおなかにめり込んだ。

地味に痛い。


「だっ大丈夫ですか!?」


女の子が駆け寄って心配してくれる。


「大丈夫ですよ。」


僕は治癒魔法を使い立ち上がってその場を離れた。


ああ言うのは、ずっと居てもろくなことにならないし、僕は彼女を助けたかったのではなく、あの剣が高そうだったから欲しかったのである。

決して、決して助けた訳ではない。


『ツンデレってやつ?』


魔王がそんなことを言ってくるが、僕は無視して剣を狩り続けた。


 ◇ ◇ ◇


「終わったか。」


フローラが言う。

辺りの冒険者達からも疲労感とともに達成感が漂っていた。


「これで終わりかぁ。今回は怪我なく終わって良かったな。」


そうお兄さんが言った。

…………あれ、それヤバくない?

フラグ立ったんじゃない?


僕がそう思うとともに、森の奥からドーンという爆音が鳴る。


「なっなんだ!」


ドン!ドン!ドーン!


どんどん音は近くなり、森から上がる砂埃も近くなってくる。


「あれは?小刀か?」


おじさんが言う通り、砂埃の幕から出てきたのは今までの剣よりも何回なんまわりも小さい、ナイフのような小刀だった。


一見強そうには見えないが、紫のオーラが漂うようなラスボス感がある。


「俺が行く!」


大剣の群れについて説明してくれたおじさんが前に出た。


「はぁーー!!」


おじさんはゆっくりだが、確実に力を乗せた一撃を放つ。


が、小刀はそれを嘲笑うかのように軽く受け流す。


「クソッ!」


おじさんは次々と斬撃を繰り出すが、それらも全部弾かれている。


「どうする。彼では勝てないぞ?」


フローラが見上げてくる。


「そうだね。僕、今偶然小刀が欲しかったところなんだよね。」


僕が今持ってるのはゴブリン君の剣と、オーガさんの剣と、骸骨の刀。


腰に挿しているのは骸骨の刀だし、これを主に使っているが、もう少し小さくて小回りのきく剣が欲しかったのだ。


「本当に素直じゃないな。結局見捨てられないものを。」


「助けるわけじゃないよ。あれ小刀がほしいだけ。物をしまえ広き空間収納ストレージ。」


僕は今まで倒した剣たちを収納する。

でも、目立たずにあの小刀を倒す方法はあるかな?


「そうだ!!」


僕は思いついた方法を試すため、おじさんと小刀が戦う中、森に入り小刀の後ろに回り込む。


「スロ、あれに触れられるか?」


僕は茂みの中でスロに話しかける。


「きゅー!!」


小さく跳ねてくれた。いけるのね。


「じゃあせーのって言ったらお願いね。」


僕は、スロの魔力を意識して魔法を使う。


「夢は夢、遠き世界の果てまでも。消え去る日々に灯る煌めき。遥か昔の向こう側………」


「せーっの!!」


僕がそう言うと同時にスロが茂みから飛び出し、浮かぶ小刀の柄にギリギリ触れる。


移動ムーブッ!」


 ◇ ◇ ◇ 


sideフローラ


「えっ!?」


おじさんがいきなり消えた小刀に驚き、周りを見渡す。


周りの奴らも、次は自分がと高めていた緊張感を瞬時にして失って、ほおけた顔をしている。


それにしても、知り合いの魔力を転移に巻き込んで、それに触れているものもろとも移動するとは、なんて奴だ。


我は思う。


今は森の奥であの小刀と戦っているであろう奴の事を。


 ◇ ◇ ◇


目を開けると、成功したのか見渡す限りの森と、足元にスロ、そして………目の前に浮かぶ小刀。


相変わらず紫のオーラを撒き散らしながら小刀は余裕そうに浮かんでいる。


「なんか、ムカつくな。」


僕は剣を構える。


体をより強く強くなろう、身体能力強化。感覚を研ぎすませ感じ取ろう、五感強化。覚えよう何もかも忘れない、完全記憶。」


しっかりと腰を入れて、刀の鍔を弾く。


空斬くうさん!」


イケたと思ったんだが、感覚がない。


僕は眼の前に迫った木を蹴って地面に落ちる。


ニヤニヤ


といった擬音が付きそうな感じでこちらを見てくる小刀。


「ウザっ」


僕は剣技を放ち続けるが、全部受け流されてしまう。


「チッ」


小刀もだんだんと攻めてくるが、僕も受け流す。


「使いたくなかったけどっ!しょうがないかぁ!」


刀を空中で薙ぎ、


雷よ纏え疾き力雷付与エンチャントサンダー


雷魔法を使う。


今度は刀を鞘にしまわず構える。


バチッバチ


迸る電撃に周りの木が焼け焦げ、倒れる。


「行くぞ!!」


何も考えずに、心を無にしてただ手に持った刀を相手小刀に叩き込むことだけを考えるという矛盾。


だが、それでいいのだ。


刹那、ジュギガン という汚い音がして、僕は余った勢いを、地面に手をめり込ませてなんとか止めた。


刀を鞘にしまい、雷の余波を受けながら戻る。


消し飛ぶように焼けた森の剥げた地面に、小刀が落ちていた。


「鞘もちゃんとあるんだな。」


鞘も脇に添えるように落ちていた。


チャリン


小刀を持つと、鈴の音がする。



柄に巻かれた布の先がたれて、そこに水晶のような透明な中に緑の玉が入った鈴がついていた。


『それは魔法剣だね。多分。風の魔法だと思うよ。』


僕は小刀を鞘に入れ、腰にさす。


「小刀、ゲットだぜ!」


駆け寄ってくれたスロを撫でながら僕は空を見上げた。


空はすでに茜色に染まっていた。

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