第58話 マッソから見た主人公

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sideマッソ

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あの事件から二週間後、テイチ先生からレストの話を聞いた俺達は、彼の部屋を訪れていた。


「再び失礼する!」


レストと二人になりたいと言ったヒスイが走って部屋から出てきたのを見た俺は、今度は自分の番と扉をノックする。


レストは若干の疲れを見せながらも、笑顔で出迎えてくれた。


色々と話しながら部屋の中に入り、またベッドに座らせてもらう。


椅子に座ったレストと向かい合う形になった俺は、早速本題に入ろうとした………


「そのなんだ…………元気か!!?」


がひよって世間話を繰り出してしまった。


この二週間色々と話すことを考えてきたのだが、実際に話すとなるとやはり緊張するな。


「っ!………」


レストが息を呑んだ。


………やってしまった。


話の流れで筋肉が出てきて、つい気が緩み、まだ傷の治りきっていない足を晒してしまった。


「す、すまんな!これは、まぁ……その………」


責任感の強い彼が自責しないよう、俺は言い訳をしようと思ったが…………やめた。


彼と向き合うことを再度心のなかで誓った俺は、顔を上げ、柄にもなく真剣に見つめた。


一先ず、ズボンを元に戻そうと裾を直しながら、話をする。


「俺はさ、最初お前のことと思ってたんだ。弱いってのは力の面もそうだが、何より心が弱いなと思った。でもその印象が宿で覆された。お前は………レストは俺が思っていたよりも格別に強く、」


俺はそこで言葉を区切る。


レストに助けられた俺が、未だに過去を引きずり続けている俺がこんなこと言っていいのか。


そんなことが頭を巡る。


だが、その思考を全力で端に追いやり、今はただ彼と話すことに集中した。


「それでいて、格段にんだ。力は強かった。それこそ、俺らみんなでかかっても倒しきれなかったあのゴーレムを一撃で葬った程に。でも、でもその心は誰よりも弱かった。」


俺はレストの瞳を見つめ離さない。


彼は今、何を思っているだろうか?

ウザいやつだとか、他人の事に口だすなとか思っているだろうか?


…………嫌われてしまっただろうか?


「『今話してる時間無いから、また今度。』そう言ったお前はあの虎とともに森へ入っていった。あのあと何があったのか、どんな戦いがあったのか俺は知らないし、想像もつかん。だが、一つだけ分かっていることがある。…………その後帰ってきたお前は、心が完全に壊れていた。」


嫌われるのは嫌だ。

彼は、レストは俺の数少ない友達だから。


ーーーーでも、これは誰かが言わないといけないことだ。これを伝えないと、彼はこの先潰れてしまう。


だから、嫌われてもいいから、恨まれてもいいから俺が…………誰でもない俺が、これを伝えないと。


「あのときのお前には、俺の言葉もフェルンの言葉も誰の言葉も届いていないように感じた。俺は、そんなお前を見て酷く後悔した。お前1人に途轍もない重りを背負わせてしまったこと。任せ過ぎてしまったことを。本当に……すまん。」


俺は心からの謝罪を込め、深く頭を下げる。


「あのなレスト、俺はお前が今まで何をしてきたのか、これから何をなそうとするのか。それを全くと言っていいほどに知らない。お前が語りたがらないから今まであえて聞いてこなかったし、この先もお前から話してくれるまで聞くつもりもない。…………だがな、相談くらいはしてくれてもいいんじゃねぇか?」


「っ!!」


レストが息を呑んだ音が聞こえた。


心が痛む…………が、言葉を続ける。

できるなら、彼が俺の言葉を受け入れてくれますようにと願いながら。


「俺たち友達だろ?打算とか、建前とか、見栄とかそんなもん置いておいて、心から、魂から話し合おうじゃねえか。お前が言いたくないことは言わなくていいし、俺が言いたくないことは言わない。信頼し合い、信じ合えるような関係。それが友達…………親友ってもんだろ?」


言い切った俺は、悩むような顔をする彼に笑いかける。

レストが水を飲む。


「あ……り……………っ……」


声をつまらせた彼はまたコップに手を伸ばすが、中に何も入ってないことを知り、そわそわとしながら手を膝に戻す。


「ゆっくりでいいぞ。」


彼が切り出そうとしているのを感じ、俺はそう呟いた。


「ま………まっ…」


それが功を奏したのかは分からないが、レストは言葉を振り絞ろうとしてくれている。


頑張れ。俺は何か葛藤しているような彼に向け、心のなかで声援を送る。


「ま、マッソ………聞いて、くれるかな?辿々しくて意味わからないかもしれないけれど、僕の…………悩み、なんだ。」


その小さな囁きを聞いた俺は、心の中から安堵した。

レストが俺の言葉をちゃんと受け止めて、話そうとしてくれているのが、嬉しかったのだ。


「当たり前だ!!俺たちは親友だろ!!!」


そんな彼に応えるため、俺は精一杯の笑顔で親指を立ててみせる。


「あのね……」


彼の口からどんな悩みが飛び出すのか、少しドキドキとしながらも俺は彼の言葉を待つ。


…………何分だろうかかなりの時間が経って、彼が顔を上げた。


その目に浮かぶ強い不安の色を感じた俺は、それを拭ってやれればと、できるだけ暖かく、優しく微笑んだ。


「うっ…」


また少しして、いきなりレストが頭を抱えて唸りだした。


「だ、大丈夫か!?その、無理して話さなくても、いいんだぞ。」


俺のせいで………。罪悪感から俺は無理しないでくれと、声をかける。


彼は痛むのか頭を擦りながらも、どうにか顔を上げて、


「…ほ…し………」


そう小さく漏らした。


俺も彼の視線をたどり、窓の外に目をやる。


そこにあったのは夕日。

毎日のように見える夕日。


俺にとっては美しいとは思うが、それ以上でもそれ以下でもない光景。


…………だが、レストにとっては違ったみたいだ。


ひどく真剣に長時間、空ではない何処かを見つめたレストは、


「はぁ…」


深く溜息を漏らして、窓を開ける。

部屋の中に一気に夜風が吹き込み、あらゆるものを揺らしていく。


俺は短髪なので目に髪がかかることはないが、咄嗟に目を瞑ってしまった。

その間も肌を撫で続ける風に誘われ、目を開いた俺はさらに大きく見開く。


風に遊ばれる横髪をかきあげ、ヒラリと音のなりそうなくらい可憐に振り向いたレスト。

彼のその中性的な顔が、先程までと売って変わって澄んでいるように感じた。

ゆっくりと後ろに体をそらした彼は、皆が振り返るような妖艶な笑みを浮かべ、


「異世界って有ると思う?」


そう、高めの声で笑み混じりに囁いた。

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