第59話 科学と電気で平等。そして、不平等
Sideレスト
◇ ◇ ◇
「い、異世界か?」
聞き返してくるマッソにうんと頷く。
「魔法の中には異空間に物を仕舞ったりする物があるというし、異世界があってもおかしくは…………ないのか?」
うーんうーん唸りながら真剣に考えてくれているマッソ。
僕はその姿が可笑しくて笑ってしまう。
「じゃあ質問を変えるけど、僕の出身ってどこだと思う?」
「レストの出身か?肌が白いから北の方。いや、西って線も………。」
顎に手を当て、再び真剣に考え込んだマッソは、ふんと鼻息を吐いて言う。
「わからん!!」
ひどくこざっぱりしているその答えがマッソらしいとまた笑った僕は、彼の目を見て質問の答えを述べる。
「僕の出身はね、」
「出身は…………」
まるでその一問に百万円がかかっているかのように、姿勢を低くしてこちらを見つめるマッソ。
「異世界の日本だよ。」
「そうかそうか日本か!何処の国だろうな!?西か?北か?いや、ここはあえて海の向こうとかどうだ!!?」
僕の返事にそう意見を述べたマッソは、言い切ったあとしばし虚空を見つめ、
「って異世界ィ!!!!」
大げさに驚いた。
「そう異世界。この世界とは違う世界で僕は生まれたんだ。」
マッソの顔がにわかには信じられないと言ったように歪まれる。
「ちがう……世界…か?本当にそんなものが!?」
その表情の豊かさを発揮し、悩んだり、驚いたり、不思議そうにしたりと様々な表情をした後にマッソはそう呟いた。
「そう。僕の居た世界には、魔法がなくてその代わりに科学が発展していた。電気というエネルギーで世の中の大半のものが動いていて、平等な世界だった。」
「『かがく』に『でんき』で、『平等』か……」
マッソが憧れるような声色で言う。
僕の言葉の中から単語だけをすくい上げているので、なんか変な感じに解釈されていていそうだが、この部分はさして重要じゃないのでスルーすることにした。
「平等なのは表面上だけどね。僕の居た国日本はそこそこ裕福な国だったけど、それでも生まれ持った容姿、体型でいじめられる人も多いし。貧困に虐待、男女格差に自然破壊、自殺に少子高齢化など問題は山積みだった。」
「どの世界も大変なんだな……。」
マッソがしみじみと呟く。
彼も貴族だ、なにか思うところがあったのだろう。
異世界でよく語られる問題点や、闇の部分に『奴隷』と言うものがある。
この国でも、十年ほど前は国が奴隷を認めていたのだが、奴隷解放を掲げる民たちの反乱によってその制度を撤廃した。
しかし、それは表の話だ。
所謂裏と言われる場所では、若い女の奴隷が高値で取引されたり、労働奴隷として青年が売られたり、まだ一桁の幼児が買われたり等など、非人道的なやり取りがされているらしい。
マッソは前に奴隷をなくしたいとぼやいていたし、正義感が強いのだろう。
だからこそ、彼にとって関係ないはずの異世界の話でも、忌々しそうに唇を噛むのだ。
「さらに、世界的に見れば耐えない戦争や、何百万人もの難民に、世界が何十回も滅んでもお釣りが来るような兵器。…………大まかに言うとそんな感じの世界だった。」
「そう………なのか…。」
彼は下を向き、唇を噛む力を強めて言った。
僕の言った現代社会にショックを受けたのか、はたまた愚かだと思ったのか。
真相はわからないが、とにかく悔しそうだった。
「僕の元いた世界についてある程度理解してもらった所で、次に僕の過去について話そうか。」
「お、おう!!」
暗めの世界の話から、明るい人生の話になると思ったのか、マッソは笑みを浮かべる。
…………申し訳ないけど、こっからが本番なんだよね。
僕は苦笑を浮かべながら、話の続きを語る。
「僕はちょっと……いやかなりヤバメの両親のもとに生まれた。今思えば両親との暮らしは人生の中では幸せな方だったんだけど……。まぁ、その話は置いておこうか。」
「…………。」
この入りから、僕の人生の話も喜べるようなものじゃないと分かったのか、マッソは再び俯いた。
「僕が八歳のときに両親が死んだんだけどそこからが地獄だった。金目当ての親族一同からたらい回しにされ、ようやく引き取ってもらえた家でも虐待。十二、三歳のとき祖母に引き取られて幸せになったかと思えばその祖母もすぐに他界。」
「っ!」
息を呑む音が響く。
彼は膝の上に載せた拳を握りしめていた。
「それで、その時僕は高校………こっちで言う学園みたいなところに通っていたんだけど、そこでもまぁ
先程も言った通りマッソは良くも悪くも正義感が強い。
そんな彼にこんな話は苦かもしれない。
…………が、僕は決して言葉を止めない。
彼自身が受け止めると言ってくれたんだ、それを信じなくてどうするんだ。
「……少し質問いいか?」
数秒。もしくは数分、僕の言葉を咀嚼した彼は小さく手を上げた。
「魔法のない世界から来たとと言っていたが、レストは魔法が使えるだろう?それに、話から読み取るに、元の世界では戦闘を普段からしないように思える。だが、実際レストは強い。それこそ、幼少期から鍛えてきた俺を超える程…………。」
マッソが幼少期からと言ったところで、その努力を他力で超えてしまった罪悪感や、やはり僕以外でも…………。といった感情が押し寄せる。
またモヤモヤに飲まれかけたが、そこは彼の真剣そのものな瞳を見つめることによって耐えた。
彼は友達。
隠さず、ありのまま、僕の悩みを、僕の心を伝えたいし、それを受け止めて貰いたい。
「転移した後に僕はゴブリンを倒したんだけど、その時『
僕の心と共鳴するように、月が隠れていく。
しばしの沈黙を打ち破ったのはマッソだった。
「レストの……言いたいことは分かった。抱えているであろう悩みもなんとなく予想できた。………けど、やはりお前の口から聞きたい。」
見上げた彼の瞳は燃えていた。
「うん。…………さっきも言った通り、僕の力は貰い物。そして、僕はその力を抜きにしたらただの弱い一般人だから、その力を使って誰かを助けるっていうのに違和感があるんだ。それと、もしこの力を貰っているのが、僕以外の誰かでも同じ結果。もしくはもっといい結果にできたんじゃないかなって思ったら、心の奥がモヤモヤしてくる…………。これで伝わったかな?」
僕は自信なさげに、ゆっくり彼の顔を覗く。
「おう!分かった!なぜ悩んでいるのか、どうして悩んでいるのか、分かった!」
マッソはそんな僕に大きく頷いてくれた。
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