第60話 アドバイス
「分かったは良いんだが、これは少し難しいかもだな。」
ベッドの上で手を組んで天井を仰ぐレスト。
「一つ聞くが、レストはどうしたいんだ?悩みを解決すると言っても色々ある。話を聞いて貰ったら良い人とか、なにか具体案が欲しい人とか、自分の中で答えは出てるけど最後の一押が欲しい人とか。レストの場合、どれに当てはまる?」
指を折って数えた彼は、僕にその長い三本の指を見せつける。
「強いて言うなら、具体例……かな?」
僕は、控えめに彼の中指の先を触って言う。
「何でもいいんだけど、このモヤモヤが少しでも軽くなったりするもの。自分が自分である意味とか、ここにいる意味みたいなものを見つけられたら、解決できそう………かも?」
僕は最後の最後で首を傾げる。
その様子を見たマッソは、
「曖昧だな」
と、笑った。
「ご、ごめん。」
すかさず頭を下げる。
彼は真剣に対応してくれてるんだ、言い出しっぺ……というか、相談主?の僕がこんなのじゃだめだよな。
「いや大丈夫だ!!そうだな…………じゃあ、まずはレストにアドバイス的なものをして行こう!いっぱい言うから、どれか一つでも心に残ったのを覚えたりしてくれればいいさ。」
そう言ってサムズアップするマッソ。
その顔は何処か楽しそうだった。
「まずは一つ目。貰い物でもなんでもいいから、力を持っているのなら振るえばいい。やりたくてもできない人達が、喉から手が出るほど欲しいそれを持っているのに使わないなんて、持たざるものからすれば怠慢であり我儘なのだから。」
途中でゴホンと咳をしてから、マッソは少しだけ声を高くして話した。
大根演者だったが、その言葉自体は胸に響いた。
胸に手を当てると、ドクドクと脈打つ感覚が伝わる。
「例えばだな、レストに大切な人がいるとする。その人が病にかかってしまい、治すためには貴重な薬がいる。君が血眼になって毎日必死に働いて稼いでも、到底届かないような高価な薬。そして、それを持っている少年が目前に現れてこう言う。」
マッソは人差し指を僕に突きつけて、ニヤリと笑い……
「ーーこの薬で助けたい人がいるが、この薬は拾ったものだから使っていいのか、それで救ってもいいのか迷っているーーと。」
決まったぜぇとでもいいたげなドヤ顔でこちらを見てくる。
…………殴りたいその笑顔。
いや駄目だ撲。彼は至って真剣…………真剣なのか?
「少年としては正当な悩みであり、深刻なのかもしれないが、レストから見たらどうだ?何がなんでも救いたくて一生懸命頑張ってきて、それでも手に入らなかったものを持っている奴が、貰い物だのなんだのほざいて使いたくないだと。ふざけるなって感じじゃないか?」
マッソは笑みを引っ込め、真剣な顔を少し傾けて言う。
ほらやっぱり、彼は彼なりに超絶真剣に考えてくれているんだ。
「そ、それは………まぁそうだね。ムカつくと思うよ。」
「まぁ、これは極端な例だが、大筋言ってることは変わらないと思うぞ。…………他にも聞くか?」
マッソがこちらを見るので、僕は首をコクリコクリと激しく立てに振った。
「……じゃあ二つ目。力を持つ上で大事なのはその大きさや由来より、それをどう使うかだ。お前がそれを用いて善い行いをしているのであれば、持たざる者の嫉妬や、怨嗟なんて気にしなくて良い。大事なのは己が進んできた道。得てきた物。そして何より、それらで為してきた事、救ってきた人々。反対にそれを使って傷つけてしまった人、
気にしなくて良いの所では首を横に振ったり、前を向くの所では前を向いたり等、所々でおちゃらけながら、されど真面目に彼は言う。
ー進んできた道ー
細く、所々紆曲した道を思い浮かべる。
その道は舗装などされておらず、ただ砂利を敷き詰めただけの荒い道だ。
でも、そこに生えていた雑草を踏んで、何回も踏んで作ったであろう、その道は美しかった。
ー得てきた物ー
まず思いついたのは信頼の置ける友達と、家族同然の仲間。
大多数は普通に持っているのかもしれないが、僕にとってそれはかけがえのなく、何ものにも代え難い存在だ。
ー為してきた事ー
ダンジョンを攻略し、学園に入学して宿の危機を防いだ。
他の人と比べたら見劣りするかもしれないが、僕にしては頑張った方だと思う。
ー救ってきた人ー
スロ、シモ、フローラ、ニル、
フェルン君やマッソは宿を守ったことで間接的には救ったかもしれないが、直接ではないので数えなかった。
こう見返すと僕も結構…………いやかなり、他人を救えているんだな。
そこまで一通り考えると、思考は三百六十度回転し、真っ白だった脳内が黒に染まる。
ー傷つけてしまった人ー
ゴブリン君とオーガさん。
ダンジョンや宿、塔の魔物達と盗賊に、沼の悪魔。
救ったのと反対に、奪った命も沢山ある。
僕はそれを忘れない。いや、忘れてはいけない。
ー
友達とまでは行かないし、二,三度しか話したことないが敵対していなかった、どちらかといえば友好的だったクラスメイト。
数にして一人二人だが、確かに話しかけてくれた人はいた。
別に未練もないが、少しほんの少しだけもったいないような気がする。
ー
そこそこの人生を歩みたい。
平穏無事に暮らしたい。
普通に生きていきたい。
そんな、一時期は見失ってしまった夢。
僕の初めての夢であり、おそらく最後の夢。
魔王になったり虎の悪魔と戦ったりなどしている時点で叶っているのかはわからないが、思い出すことはできた。
それに、日本にいた時よりは格段に近づいていると思う。
ーーーー手に入れた物と手放した物、それらを絶対に忘れず疑わずに前を向き続ける。
マッソの言葉に自分を当てはめて考えた僕は、まとめにその言葉を思い出す。
「っハッ!!!!」
すると、その思考した文字の羅列が光の粒となって浮かび上がってきた。
赤、橙、黄、黄、緑、水、青、紫
それらの色に光った文字が互い違いに浮かんでは沈んで、生まれては消えてを繰り返す。
まるで精霊の舞踏会のようなその光景に僕は目を奪われる。
「あぁ…………」
精霊たちが徐々に集まっていき、とある形を作った。
「…ピース………」
ーーパズルのピースーー
真っ黒だが決して闇ではない脳内に、淡く光る一つのピースが浮かぶ。
「っ!!」
脳内の欠けた部分にピッタリとその七色に輝くピースがハマった。
少し離れたところには、エドワードさんのときのピースが見える。
「…………。」
僕は汗ばんた手を胸に当てる。
ドクドクの鼓動に混じって、微かに感じるモヤモヤ。
それが確かに小さくなっているのを感じた。
小さくなったはなったが、まだまだ足りない部分があるのが分かった僕は、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちのまま、顔を上げるーーーー
「ハマった……みたいだな。」
ーーーーすると、マッソがニンマリとこちらを見ていた。
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