第142話 お疲れ様

「あぁ……つかれた……」


色々なことがあった。というか、ありすぎた。


XだとかYだとか。数学の授業ぶりのローマ字に混乱してしまっているのかもしれない。


「お疲れ様です」


椅子に腰掛けている僕に、リリア様が声をかける。


「リリア様、怪我とかないですか?」


「はい、おかげさまで。」


背もたれに預けていた背を起こし尋ねると、彼女は微笑みながら答えてくれた。


砂やら灰やらで汚れてしまっているのにも関わらず、キラキラと光って見えるのは、さすが聖女様というか――――リリア様って感じだ。


「すみません……遅れてしまって」


僕は少しだけ傷ついた彼女の肌を見て、謝罪の言葉を述べた。


「大丈夫ですよ」


彼女はさっきよりも一層優しい笑みを浮かべて、こちらを見つめ、


「だって、来てくれるって信じてましたから」


そう、まるで世の摂理を述べるかのように言った。


そこまで信じてもらえてるなんて、嬉しい限りだけど……。


そんな直接言われてしまうと、なんか照れてしまって何と返せばいいかわからない……。


「いやぁ疲れたぁ」


「人使い荒いよねぇ」


どうしようかと悩む僕の耳に、そんな言葉が聞こえてきた。


「精霊王様に魔王、お疲れ様」


僕は少し申し訳なく思いながらも、話題を変えて彼らに労いの言葉をかけた。


「ほんとだよ、お給料がほしいくらい」


「久しぶりに疲れてしまったよ」


魔王と精霊王様は肩をすくめて疲れてるアピールをしながら、笑い混じりに話す。


「それはごめんなさい。街はどんな感じ?」


大きな被害がなければいいのだけど。


「ある程度の被害はあるけど、基本は大丈夫。」


「人々も結構前に普通に家に戻ったよ」


二人は一変、真面目な顔をしてそう頷く。


「なら良かったぁ……なんか一気に疲れが来た……」


僕はその話を聞いて、本当にすべてがおさまったと肩から脱力してしまう。


「おいおい、ここで寝るなよ」


「ほら、宿に戻ろう」


二人も元の優しい顔に戻って、僕に向けて笑う。


「一緒に寝ましょうね」


リリア様がその流れに便乗して微笑んだ。


「…………そうだね」


僕はいろいろと言いたいことを抑えて、つぶやく。


正直、まぶたを開けているので限界だった。


だから否定する気にもならなかったし、心のどこかでそれもいいなと思ってしまっていた。


「行きましょうか」


「「おーー!!」」


「お、おぉ……」


リリア様の掛け声に合わせて、みんなが声を上げる。


いつもより静かに光る水の街は、やはり燦々と煌めいて美しかった。


こうして、僕たちは波乱の一日を終えたのだった。




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