第143話 エピローグ
「どのくらいだっけ?」
僕はまだ眠気の残る目をこすりながら尋ねた。
「忘れちゃいましたけど、意外と早い気がしましたよね。」
僕の隣に座るリリア様が答えてくれる。
「寝てたらすぐじゃない? こんなふうに」
「…………」
魔王が指差す先には、スヤスヤと眠る精霊王様。
僕たちは今、馬車に揺られていた。
あの事件があった翌日、あんなことがあったからもう一日くらい居てなにかお手伝いしようかと言ったのだけど、領主様が大丈夫だと言ってくれたので、そのまま帰路についたのだ。
「ふぁぁ……」
昨日寝るのが遅くて朝が早かったので、気を抜くとあくびが出てしまう。
「眠いですね……」
リリア様も馬車の小刻みな揺れに眠気が隠せない様子。
領主様が用意してくれた馬車はとてもお高いやつなので、お尻が痛くなることもない。
それが余計に眠さを増長させる。
「これヤバいな……」
僕は一瞬落ちかけた意識を戻して、周りを見渡す。
「って、みんな寝てるじゃん……」
「寝ちゃったね」
精霊王様は相変わらず気持ちよさそうに寝ていて、リリア様も僕の肩に頭をのせて夢の世界に旅立ってしまった。
「お疲れ様でした」
僕は彼女に毛布をかけ、その頭を撫でてつぶやいた。
その髪はとても綺麗に透き通っていた。
「……どう思う?」
馬車が進む音だけの静寂を、僕の声が滑っていく。
「どうって、“アレ”のことか?」
魔王が一変、真面目な顔になってこちらを見た。
僕はその目を見つめ、小さく頷く。
「正直良くわからない。“X”によって情報は入ったけど、背景は全くわからない。ただ、Xの話で前に進んだことは確かだ。」
彼の知る限りの情報は貰ったけど、それも断片的でよくわからないまま。
ただ、何と何が関わっていて、どんなふうに交わっているのかはある程度わかってきた。
大昔の“大賢者”、その弟子たち。
伝説の勇者パーティに、魔王戦。
どれだけ考えても、それらの因果を掴むことができない。
僕はこちらの世界の常識に詳しくないのも、わかりにくくなっている原因になっているのかもしれない。
帰ったら、一度図書館に行くかな。
そこまで考えたところで、僕は外を見た。
草原の草木が揺れる。そんな風景が横を走っている。
「僕がこっちに来たことにも関係あるのかな」
「わからないけど、ただ事じゃないことは確かだね。」
僕のつぶやきに、魔王がそう答える。
彼もなにか思うところがあるのか、窓の外を見つめてなにか考えていた。
「はぁ……」
「アハハ、休めないねぇ」
響き渡るため息に、魔王が微笑む。
「…………なんかあったら魔王に任せるよ」
「それは困るねぇ。任せられはしないよ、お手伝いなら喜んでだけど。」
魔王は暖かく微笑んで、軽くウインクをして見せる。
はるか昔の“大賢者”、その裏に隠された真実。
僕はそれらに迫ることができるのか……というか、それらに巻きこまれてしまうのだろうか。
…………多分巻き込まれてしまうんだろうなぁ。
そんな予感のような何かを抱きながら、僕は横を見た。
横ではリリア様が心地よさそうに寝ている。
その寝顔はとてもキレイで、それでいてとても幼かった。
「…………」
僕はそっとその頬に触れ、そのまま髪へと手を伸ばした。
冷たくて、それでいて暖かいその肌に、僕は思わず笑みが溢れる。
頑張らないと、ね。
僕のため……彼女のためにも。
「“X”の次……何が来るのかな」
僕は小さくつぶやいて、自分も夢の世界へと旅立っていった。
何が起ころうと、彼女となら、彼らとなら、超えていける。
そんな、予感に似た確信を抱きながら。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
第八章、水の都と愚者編これにて本当に完結です!!
長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。
今後はなるべく定期的に更新できるように頑張ります!!
いつもご贔屓にありがとうございます。
今後とも、どうぞご贔屓に。
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