第34話 沼地の宿と釣り

皆に疲れの色が濃く出だしたとき、建物が見えた。


「あれが三日間お世話になる宿だ。ほら、最後頑張れ!!」


テイチ先生が声を張り上げ、生徒たちも見えたゴールに嬉しそうに声を上げる。


遠くに見えて来た建物は、宿というより寮とかアパートみたいな見た目だった。


周りは森に囲まれている。


学園を出て10分くらいですぐに森の景色になって今までずっとそうなのだ。


ベチャベチャ

歩くとそんな音がするようになってきた。


虎の沼地というだけあって少し地面がぬかるんでいる。


 ◇ ◇ ◇


「ここに並べ!」


先生の指示でくの字の建物の真ん中で整列する。


「本日はお越し頂きありがとうございます。」


女将と思われる女性と、従業員何十人がお出迎えしてくれている。


「この後の予定だが、各々の部屋に行き荷物を降ろした後、外で飯。昼休憩をはさみ午後より沼地周辺の散策を行う。その後、湖での釣り大会となる。」


バーコード頭のおじさんが前に出て言った。


にしても、キレイなバーコードだなぁ。

ピッて奴をかざせば『145円です。』とか出てきそうだ。


「いくぞ!!!」


しょーもないことを考えて遅れていた僕の手を、マッソが引く。


部屋割は基本男女別、コース別、ランク別で分かれる。


一年総合コースCランクは2クラス有るんだが、それは関係なしに30人一部屋にするのだ。


例えば僕らの部屋は、総合コースCランク男部屋だ。クラスで言うところのS-1-Cってやつ。


「おぉ!!広いな!!」


扉を開けたマッソがそう叫ぶ。

30人が泊まる部屋となるとかなり広かった。


「荷物は棚に入れろぉー」


通りすがりにテイチ先生が声をかけていく。


「楽しみだね!」


僕が棚に荷物を入れていると、フェルン君がニッコリと話しかけてくる。


「そうですね、僕もワクワクですよ。」


「楽しもうね!!」


うん。今日も安定の癒やし度だね。


フェルン君は戦うときは怖いが、普段は和やかでとても癒やされるのだ。


 ◇ ◇ ◇


「レストは飯、何持ってきたんだ!?」


「何っていつもどおりだよ?」


僕は顔を近づけてくるマッソに手を開き、木の実を見せる。


この世界に来てからというもの、1/100に薄めた砂糖水にレモン足したみたいな味の木の実しか食べてない。


ちゃんとしたご飯を食べようかと思ったが、お金は使いたくないし、料理はしようと思えば分かるが、材料を買ったり色々めんどい。


それに比べ、この実は森で大量に取ったからストックが山のようにあるし、腐りづらいし、味はまぁまぁだが10も食べればお腹いっぱいになるしで、いい事ずくめなので重宝している。


「そればっかり食ってるけど上手いのか!?」


「うーん、そこそこ?1/100に薄めた砂糖水にレモン足したみたいな味だよ。」


レモンってのが伝わるかと思ったが、マッソは少し嫌そうな顔して、手に取った木の実を戻しているから伝わったのだろう。


「そういうマッソは?」


「俺は母上手作りの弁当だぜ!!!」


フフーンと自慢げに見せられたのは、木の箱に目一杯詰まった色とりどりのおかずに、丸いパン2つ。


「良かったね、美味しそうじゃん。」


「だろ!!!」


ハンムっとパンにかじりついている。

美味しそうで何よりだ。


「ヒスイは何食べてるの?」


「街で買ったものだ。大したものではない。」


おぉ!サンドイッチ!!いいね!

何か僕もコンビニ行きたくなってきた。


懐かしい……と言うほど食べてないが、のりのパリパリなおにぎりが食べたいな。

僕はそう思いながら、木の実をかじるのだった。


 ◇ ◇ ◇


昼休憩としてスロと日向ぼっこをしている。


今回はニルとフローラはお留守番だ。

3匹も使い魔連れてる人はいないだろう。


ただでさえ、スライムが使い魔というのも珍しいのだ、目立ちたくはない。


使い魔を持ってる人は結構いて、他の人のは犬みたいなのとか、九尾みたいなのとか、よくわからない丸い奴とか色々だった。


「休憩終了だー!集合しろ!!」


テイチ先生の声で半分夢の世界に行っていた僕は現実に引き戻される。


「今から団体で虎の沼地奥の【虎の沼】【天使の湖】へ向かい、天使の湖にて釣り大会を行う。道具はこっちで用意してるからお前らはただ歩け!」


全体がざわつきながらも進みだした。


「釣りか!俺も小さいことはよくやったな!!」


「上手いの?」


「いや!良く2m程の魚に電気でビリビリされて気絶していた!!」


ワーハッハッハと豪快に笑うマッソ。

それは魚ではなく魔物だと思うんだが。


◇ ◇ ◇


一時間半程歩いたら開けた所に出て、2種類の池が見えた。


左側は小さめな沼で紫色と茶色の間の色をしている。ネバネバしていて、匂いはないが汚そう。


右側は透き通った湖でとても大きく、上から優雅に泳ぐ魚を見ることができる。


「到着だ!」


左が虎の沼で、右が天使の湖だろう。

それにしてもきれいな水だな。飲んでも害がなさそうだ。


「じゃあ、釣り大会のルールを説明します。道具は全部貸し出し、制限時間1時間で釣った魚の数で勝負です。大きさは関係ありません。尚魔法、素潜りは禁止です。あくまでも釣り大会ですので、釣りをしてください。」


白髪のおじいさんが台に立って言う。


魔法禁止なんだな。まぁそうか、電気の魔法で一発だもんな。


「優勝賞品は回復薬A級が10個、準優勝で3個、三位でB級10個です。それでは始めてください。」


生徒たちがその声に湧く。

よく分からないが、そのA級回復薬というのはすごいアイテムなのかな?


「取りに行こう!」


「うん。」


ヒスイとマッソと前に置かれた道具を取りに行く。


通りすがりの男子が女子を釣りに誘って断られていた。


ドンマイ。


「うん!どれも変わらんな!!」


マッソの言う通り残り少なくなっている道具は見た目どれも一緒だ。

マッソが適当に選んでいるのを見て僕も一番上に有るやつを取っていく。


道具はシンプルで、釣り竿、替え針と替え糸しか配られない。

初心者が難しいの使っても意味ないし、これ位が丁度良いのかな。


「餌はこれか?嫌な感じだなぁ。」


ヒスイが見ているのは餌の見本としておいてある黄色いミミズだ。

これは地面を探せばすぐに見つかるらしく、自分で調達しろとのことだった。


「いっしょにつ……」


「俺、対岸にいってくる!!あっちのが釣れそうだぜ!!」


僕が言いかけた瞬間、マッソがそう言い残し走り去った。


「いっしょ……」


「そうだね。うんうん……」


ならばとヒスイを見る。が、他の女子と楽しそうに話して歩き始めたところだった。


「うん。そうだよ、僕は元から一人が好きなんだ。うんそうさ。寂しくなんてない。これが普通、これが何時もの僕さ。…………………さみしい。」


結局僕は一人で釣りに励んだ。


 ◇ ◇ ◇


黙々と一人で励んでいたら、そこそこの数が釣れた。

魚の種類はあゆみたいな感じ。焼いて食べたら美味しそう。


「終了!!!!」


声を大きくする魔法で終わりの合図が告げられる。


「いっぱい釣れたぞ!!」


マッソが掲げた2つのバケツには山盛りの魚が入っていた。


「すごいね。僕はこんだけだよ。」


自分ではよくやったほうだと思ったが、マッソに比べると見劣りするな。


「数を自分で数えて申告してくれ。」


ブルーシートの白い版みたいな敷物の上に自分の釣った魚を並べていく。


僕は42匹。

マッソは102匹。


前にいる先生に数を伝える。


「集計が終わった。これから、順位を発表するぞ。」


1位 剣術コースAランク エドワード・バモス・ヤフリオ 115匹


2位 魔術コースAランク エスカルド・ジャン・ルルス 114匹


3位 総合コースCランク マッソ・トレーニング 102匹


表彰台に立つ三人。

1位は見たことある顔だった。


僕が訓練場で素振りしてるときに来た金髪イケメンさんだ。


名前はエドワード・バモス・ヤフリオね。エドワード、かっこいい名前だな。


……………え?

ヤフリオ?

王族?


……………もう関わらないようにしよう。


ただでさえリリア王女の件で面倒なんだ、これ以上王族とかいう面倒臭い一族と関わらないほうが良いな。うん。


「やったぜー!!!」


スンとした顔で佇むお貴族様二人に比べてマッソはいつもどおり、暑苦しくガッツポーズをしている。


彼も子爵位のれっきとした貴族のはずなのだが。


 ◇ ◇ ◇ 


宿に戻ったときはもう日が傾き始めていた。


次行うのはご飯作り。


日本ならカレーでも作るのだろうが、こっちにそんなものは無い。


さっき釣った魚の塩焼きと、パン、スープとなんか良く分からんナムルみたいなやつを作るらしい。


クラスで担当分けするんだが、僕とマッソは大っきなパンを切り分けるだけの係になった。


「これくらいでいいよね?」


「うん!均等に平等にだな!!」


食パンの不格好バージョンみたいなパンを切っていく。


目の端で男達が火をおこそうと四苦八苦している様子が見える。


火の魔法を使えばいいじゃんとか思ったが、禁止されているらしい。


魔力が切れた状況を想定してなんとかこんとか。まぁ、要するに

『楽しないで火ぐらい起こせやこの野郎』

と言いたいのだろう。


あっ、着いたみたいだ。良かったね。



「これで終わりだ!!どうだ!美しいだろ!」


均等平等うるさかったマッソが切り分けたパンはめっちゃ切り口が曲がっていて、均等には見えなかった。


「…う、うん。よくやったと思うよ。」


ワクワクといった顔で見られたら、こうとしか言えない。

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