第66話 寮、燃ゆる

Sideレスト

◇ ◇ ◇



僕のモヤモヤもかなり収まり、ピースもハマったわけだが、生活はさほど変わらない。


今までと同じく、朝起きて、ご飯と言う名の木の実を食べ、剣を振り、またご飯を食べ、剣を振る。


たまに散歩をしたり、筋トレしてみたりして、また剣を振る。


夜になれば、風呂に入り、ご飯を食べて寝る。


これだけ見ると、どこぞの剣豪かというものだが残念。僕は賢者なんですよねぇ。


…………本当、なんで剣振ってるんだか。


そう思いながらも剣を振り続ける。

ビュン、ビュンと空を切る感覚が気持ちいい。


僕はこのなんとも言えない感覚にはまっている。


この振れば振るほど強くなる感覚と、得ていく技が気持ちいい。


もはや、麻薬と言っても過言では…………ある。


「っ!!!ぬっ!!!ふっ!!!!」


マッソたちが来てから、部屋にこんな声のみが響く期間が二週間も経った頃。


は起こった。


「うおっ!!なんだ!!?」


いつも通り素振りをしていた僕の体が、足ごと揺れる。


「なんじゃなんじゃ!!!?」


「ふぃー!!!?」


フローラたちは知らない感覚にびっくりしているみたいだが、僕はこれを知っている。


日本にいた頃には月一くらいのペースで体験していたこれは……。


「地震?」


初めに少し揺れ、その後大きな横揺れが訪れるのはまさに地震の特徴。


この国もプレートの狭間にあるのかと、僕が謎の共感をしていると、


ウウウゥゥゥゥーーーーー!!!!


そんな大きなサイレンが響き渡った。


「!!!?」


その音は、僕の知る大津波警報でも、地震警報でもなく、耳をつんざく救急車のような音だった。


「これ何?」


サイレンについで外からは人々の惑う声が聞こえてくる。


「火事じゃ!!!」


フローラが少しだけ慌てた声で言う。


って、あの火がついて燃えるタイプの火事?」


逆にそれ以外の『かじ』を、家事とかしか知らないが、まぁ確認のためだ。


「そうじゃそうじゃ!燃えるタイプの火事じゃ!!ここも燃えるかもしれんぞ!」


ほえー。


ここ燃えたら僕、どこに住めばいいんだ?


お金もあるし賃貸…………はなんか嫌だな。

持ち家…………はずっとこの街にいるわけでもないしな。


うん。やっぱ図書館だよな。


図書館に勝るものはない!!タダだし、快適な温度だし、本あるし。


僕が謎の納得をした直後。


「グゥワァァアアアアアアオオォォォォオオオオオオオオオ!!!!!」


心臓を鷲掴みにされるような、咆哮が聞こえた。


「ふぃいいー!!!!!」


スロの表面が波打って震える。


「な、なんだ!!!?」


そう叫ぶと同時に少し遅めの寒気がして、僕はブルっと体を震わせる。


「り、竜………」


フローラが呟いた。


「ドラゴン!!?」


僕はその声にすぐさま反応する。

このファンタジーな世界で竜といえば、世界の覇者であるドラゴンのことなのだが…………。


「そうじゃ!!あれは、生態系の天辺を占める竜の鳴き声じゃ!!」


やっぱり、ドラゴン…………フローラ的に言うと竜なのか。


「り……りゅう…………っ!!!!魔王が戦ってギリギリで負けたとかいうやつ!!?」


僕の頭は日本人の感覚が残っており、初めはゲームで出会ったら倒すの面倒臭いってクラスメイトが言ってたなぁとか思ったが、その後事態の緊急性に気づいた。


ここは日本と違い、ファンタジーの象徴たる竜が存在するのだ。


しかも、その竜に魔王さんは負けたって言うし…………


『失敬だな。あのね、竜にも種類があって、今吠えたのは竜種の中じゃ最弱の樹竜。しかも、声の大きさからして子供だ。それに対して、私が負けたのは竜の中でも頂点に君臨する赤竜レッドドラゴンの古体だよ!この二つじゃ倍以上の力量差があるんだ!!』


あっそうなのね。


哺乳類に人間しかいないとかどんな地獄だよって感じと同じで、竜種にもいろいろあるんだな。


「じゃあ、僕でも勝てる?」


子供って言うから、可愛い見た目なんだろうし、強さもかわいい感じ…………


『うーん。君のランクが精霊王とかいろんなのを合わせてS+。碧竜の子供がSSかな?+が三個で一階級昇進だから、君より二つ分強いね。ちなみに子供でも大きさは10m近いよ。』


…………ではないみたい。


大きさも子供のくせして僕の6倍以上あるじゃんか。


…………10cmくらいでいいから、分けてくれないかな?


「それってやばいの?」


SS++とか言われましても、ガチャのSRとURのどちらが強いかわからない僕からしたら、どのくらい強いか分からないんだよな。


『ヤバいね。前にも言った通り、階級が高くなるほどその差も広がるから。』


「じゃあかな………」


……うわけないそう言おうとしたのだが、地面が再び激しく揺れ、僕の声は遮られた。


「なっ!!!」


揺れが収まってすぐ、部屋の外から変な熱気を感じたので、僕は扉を開ける。


「も、燃えてる!!!?」


なんと、廊下が炎で満たされていた。


「ここにも着火したのか!!?」


この寮には沢山の人が住んでるというのに。


僕が火事に気づいた少しあとに、


ウウウゥゥゥゥーーーーー!!!!


二度目のサイレンが響いた。


「火、消さないと…」


僕は火にはとにかく水だと、水の魔法を使おうと精霊王さんを呼ぶ。


「精霊王さん!!精霊王さん!!」


ポケットから取り出した水晶に叫ぶが、反応はなし。


まだ眠っているのか、はたまたいなくなったのか。


後者ではないことを信じたい。


「ッチ!!仕方ない自力で消さないと!!」


僕はすぐさま手を前に出し、短縮詠唱した水魔法を使おうとして…………止める。


『あぁ、そうか……』


魔王の小さな声が聞こえたが、よく聞き取れなかったので無視する。


「ど……する……」


こんな時非常事態にまで、魔法を使うのが嫌とか、僕はどんな傲慢なやつなんだ。


でも、でもでもでも、やっぱり使いなくない…………というか使えない。


手を前に伸ばし、力を込めてもうんともすんとも言わない。


心が、魂が拒絶しているのだ。


「くそったれ!!!」


自分を罵りながら、剣を手にして廊下へ躍り出る。


「くっはぁぁあああ!!!」


手にするのはいつもの日本刀的なものではなく、大きな西洋剣。


魔王のいたダンジョンの戦利品で、金で装飾されたやつ。


「っあ!!!」


剣を振り回して、火を消していく。


魔法を使ったほうが早いのは、火の目を見るより明らかだったが、僕は剣を振り続けた。

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