第52話 エピローグ
その叫び声を上書きするように先生は言葉を続ける。
「違わないないねぇ!!!誰だって力を手に入れたら威張れるし、誰かを救えるんだよ!!たまたまそれがお前だっただけだ!勘違いすんなよ!!そんな力では何も得ちゃいないんだ、ハリボテの力で本物が手に入るわけ無いだろう!!!」
違うと再び叫びたかった。
しかし、僕の心の奥ではその言葉にどこか納得してしまっていた。
ーー僕は勘違いしていたのかもしれない。
拾った力で魔物を倒して、周りに認められたような気になっていたのかもしれない。
自分は大丈夫。
誰かの役に立っているんだ。
ちゃんと生きているんだ。
駄目なやつじゃないんだ。
特別なんだ………と。
でもそれは間違いだったんだ。
僕が今までしてきたこと。
スロを助けた事だって、他の人にもできたことだ。
フローラ親子を救ったことだって、他の人にもできた。
それに、僕はすぐに助けに行かずに質問をしたり、条件をつけたり色々としていた。他の人ならもっと早く助けられたのではないか。
魔王の試練だって、この力があれば突破できるはずだ。
ヒスイと作ったあの論文も、少し日本の科学知識があればできたことし、今回の悪魔を倒すということだって、僕じゃなくたって、力があれば出来た。
いや、僕よりも早く、僕よりもスマートに、僕よりもみんなを危険に晒さずに解決することができたはずだ。
こっちの世界に来てからの出来事全てに僕じゃない人を当てはめても、ちゃんと成り立つし、ちゃんと解決できた。
その光景を想像したところで、なんか思考がすっと落ちるべきところに落ちた感覚がした。
そうか。
今まで僕がしてきたことは僕じゃなくてもできることだったんだ。
やっぱり僕は落ちこぼれの駄目な人間なんだ。
特別な人間なんかじゃなかったんだ。
そりゃそうだよな、もっと異世界に適してる人はいるだろうし、今考えれば僕の行動には無駄が多い。
ハハ、笑っちゃうよね。
勘違いして、誰かの役に立ててるとか必要にされてるとか思ってたとか。
そうだよなそうだよな。
拾い物のナイフで戦ったって、その手では何も掴めないんだ。
「お前は驕ってたんだよ!!!ザマァ見ろ!!!現実を見ろよ!!幸せなんてないんだよ!!!」
先生は叫び続けていた。
ーーなんだよもう、うるさいな。
特別じゃない僕が何をしても、変わらないんだろ?
僕はフラフラと先生に近寄る。
「な、なんだよ!!八つ当たりか!!!図星だからって八つ当たりするのか!!!だから駄目なんだよお前は!!!」
ーーうるさい。うるさいよお前。
僕は何も言わずに彼女の首元に手刀を叩き込み、気絶させる。
「ぐはっ!」
前に倒れたのを見て、手を結んでいる縄を解き、肩に担ぐ。
「………………」
ゆっくりと僕は宿へ向かって歩き出した。
「おぉ!!!レスト!!やっと来たか!!」
宿へつくと、マッソが肩に手を回してくるが、僕はそれを振り払いテイチ先生の前まで行く。
「この人がこの事件の犯人です。調べてください。」
「お、おぉ分かった。……ターシャ先生がこんなことを……。」
先生は僕が嘘を言っているようには見えなかったみたいで、受け取ってくれたが、同僚が犯人だということに混乱を隠せないようだ。
「あっ!!レスト君!!」
フェルンが手に肉の串を持って走ってくるが、僕はそれを無視して宿の中へ入る。
「レストどうしたんだ!?」
「わ、分からない。」
背中で二人の戸惑いの声が聞こえた。
彼らにとって僕は命を救ってくれた英雄。
でもそれは間違いで、本当はただ
ここに立っているのは僕じゃない誰かでいい。僕である意味なんてないんだ。
そんなことを脳内で繰り返しながら、宿の自室へ戻る。
「…………。」
無言で自分の荷物を魔法で収納していく。
合宿は終わっていなかったが、あんな事件があったんだ、予定通りに進行できるわけない。
僕がいなくなっても別に問題にはならないだろう。
僕はただ一人になりたかった。
ヒュー
窓を開けると朝の冷たい風が頬を撫でる。
僕は無詠唱で空を飛ぶ魔法を使い、一人学園へと向かった。
◇ ◇ ◇
sideマッソ
絶望の瞬間、視界の隅に見えたのはレストだった。
現れたレストはいともかんたんにゴーレムを倒して、消えていった。
「な、何だったんだ。」
先生が未だ状況を理解できないといった様子で突っ立っている。
俺もおんなじだ。
力を隠してるとは思っていたが、あそこまでと は……。
「う、うぉぉおお!!!!俺達は勝ったんだ!!!」
赤髪先生が声を上げた。
「よっしゃぁああああ!!!!」
「勝ったぞぉおお!!!!」
「きたぁあああ!!!!!」
続けて他の先生からも歓喜の雄叫びが上がった。
そこからはもう祝福一色。
皆が皆を称え合い、生の喜びを噛み締めている。
そして、その真ん中にはレスト。
彼はこの場にいなかったが、皆があのピンチに現れた英雄に感謝していた。
「ふぅ、くったくった!!」
俺は肉で膨れた腹を擦る。
「んっ?」
ガサガサと森の方で音がしたので、魔物かと目をやると、待ち望んでいた人物が現れた。
「おぉ!!!レスト!!やっと来たか!!」
俺はハイテンションに駆け寄って肩を組んだ。
約束をお互い守り抜いたんだ、レストも応じてくれると思っていた。
パシッ
だが、レストは俺の手を振り払った。
「お、おい……」
俺はその場で立ちつくし、言葉を失った。
奴はどうしたんだろう?
たまたまか?
そう思い、先生と話しているレストの元へ向かった。
「あっ!!レスト君!!」
俺とほぼ同時にフェルンも駆け寄ってきた。
流石に反応を示すかと思った………が、レストはそれすらも無視して、宿の方へおぼつかない足取りで歩いていった。
「レストどうしたんだ!?」
「わ、分からない。」
フェルンと顔を見合わせ、?を頭の上に浮かべる。
何故か事件を解決したはずのレストの顔はあの時とは違い、沈んでいた。
「お、俺追いかける!!」
「ちょまっ!!」
居ても立っても居られなくなって俺は走り出した。
「おい、レスト!!………」
レストが向かったであろう、俺たちのクラスの部屋に入ってもレストはいなかった。
ヒューー
「んっ!?」
窓が不自然に開いていた。
俺はまさかとは思ったが、窓のそばへと歩く。
「お、おいレスト居るのか!?」
窓から顔を出すが、見えたのは太陽だけだった。
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