side Y&T 4

それからは毎日剣の指導をされるだけの日々が続いた。


朝起きて、剣をやって、風呂入って寝る。

楽しみは無駄に豪華なご飯くらい。


休みはない。


あれ以降赤井くんもあそこまで大きな抗議はしないが、まだ納得はしてないようだ。


「君たちには学園に入ってもらう。」


1ヶ月位経った時だった、突然そう言われた。


「なんでだよ!」


赤井くんがまた噛み付く。


「魔法学園はこっちの世界での常識や規則、剣術や魔術も教えてくれる。それに君たちは国から無条件でのAランク入りが保証されている。君たちに選択肢はない。学園に行く。これは決定事項だ。」


「っ!くそがっ!!」


赤井くんは怒って出ていってしまった。


「一週間後に入学だ。準備など諸々は全部こっちでやるから、君たちは普通にしていていい。」


今日の訓練はそれで終わりになった。


「おい、田中どうする?」


「どうって、従うしかないんじゃないかな?」


「だよな。」


これから俺達がどうされるのか分からない。


勇者である赤井くんや希少職業の奴らは国にとって必要かもしれないが、俺や田中のような一般職はどうすればいいんだろうか?


「僕たち生きていけるかな?」


「そんなこと言うなよ!一緒に生きようぜ!」


「そ、そうだよね。」


田中を励ましたが、内心不安だった。


 ◇ ◇ ◇ 


「これ、制服だ。君たちは皆総合コースAランク1組に入ってもらう。そこには君たち以外はいないから安心してほしい。細かなことは資料を見てくれ。」


ちょうど一週間後、制服と薄い資料を渡されてみんなが馬車にのせられていた。


「団長さんは行かないんですか?」


女子が質問する。


「ここからは俺の担当じゃない。学園についたらあっちの先生の言うとおりにするんだ。じゃあね。」


馬車が進みだした。


寂しさは少しあるが、なにより俺は不安だった。


異世界に来て一ヶ月と少し。

全て国に管理されていて、剣も上達はしたが赤井くんや騎士団長にはかなわない。


これから生きていけるのか。


俺は最後には自分と山田だけを守ろう。

そう決めて前を向いた。

 


 ◇ ◇ ◇ 


「始めまして。勇者様方の担当をさせて頂きますルーカスと申します。」


長らく馬車に揺られて、やっとついた大きな学校みたいなところで初老のおじいさんにそう言われる。


「ここはどこだ!?」


赤井くんが叫ぶ。

最近の赤井くんには冷静さがなくなっていた。


正直言って怖い。


「ここは、ヤフリオ王国学園都市のツェンリ魔法学園です。今日は一般生徒の合格発表当日。皆さんは試験免除なので関係ありませんがね。さぁ、こちらへ。」


騎士の人たちに連れられて奥の建物まで行く。


「こちらは皆さんが住む寮です。今回のために作りましたので、新築で勇者御一行、異世界人の方以外は住みません。皆さんにはこれからここで住み、学園に通っていただきます。そして三年後、国から認められた方は騎士や王室魔術師になっていただきます。」


「家に、家に戻れないんですか?」


ポツリと誰かから出た言葉は皆の総意なのだろう。


「帰れますとも帰れますとも。皆さんが我が国のために尽くしてくださればは帰れます。」


「そ、そうか帰れるのか!」

「頑張ろう!!」


皆はその言葉に喜んでいるが、俺は信用できなかった。


というのはいいように逃げられている気がする。


………もしかしたら帰れないのかもしれない。


「や、山田くん、怖いよ。」


田中くんが近くによってくる。


「大丈夫だよ。」


俺にはそうとしか言えなかった。


 ◇ ◇ ◇ 


魔法学園は案外普通の授業をしていた。


政治や歴史に地理や公民。これは完全に別物で難かしいが覚えられないわけではない。


数学や科学は日本ほど進んでいなかったが、それでもわからないことはあった。


日本と違うのは、魔法工学や魔術、剣術の授業があるところだろう。


魔法工学はとても難しく、正直何言ってるかわからなかった。


学園での生活では基本他のクラスと交わることはなかった。


良く言えば特別。

悪く言えば隔離。


そんな感じだ。


国は俺らを完全に監視下に置きたいらしい。


皆はのほほんと学園生活を送っているが、俺は将来役に立てようと必死に勉強していた。


「明日合宿を行います。皆さんの用意はこちらでするのでなにか特別なものはいりませんが、少し早めに学園に来てくださいね。」


合宿かぁ、自由に動けるのか?


俺はそれが気になった。


 ◇ ◇ ◇ 


合宿初日。


長時間歩かさせられたのはきつかったが、宿はきれいで大きかった。


他のクラスの人達は自分たちで弁当を用意してるみたいだったが、俺ら日本人は学校から弁当が支給される。


「うわぁ、美味しそうだね!」


と山田が言うとおり、パンに野菜に肉にと栄養素がちゃんと摂れて、なおかつ味はうまかった。


まぁ、日本のコンビニで売ってるおにぎりとかサンドウィッチに比べたらまだまだだけど。


あぁ、のりがパリパリなおにぎりくぃてぇ。


俺はそう強く思う。


◇ ◇ ◇


食後の休憩時間。


俺は山田と他のクラスメイト数名と一緒にキャッチボールをする。


球はよくわかんない硬いやつだったが久しぶりの娯楽が嬉しい。


「行くぜぇ!!!ライニングフラッシュストレートダイナソー!!!!!」


と男子の一人が球をおおきく振りかぶって投げた。


「あっ!危ない!!」


そう叫んだが、時既に遅し。


適当なコントロールで投げられた球は陽だまりで楽しそうに放す女子にクリーンヒット。


当てた男子は当然女子に追いかけられてた。


南無阿弥陀仏。


◇ ◇ ◇


それから、虎の沼とか言われてる場所に向かった。


俺たちのクラスは道を進む列の最後尾。


前を進む他のクラスの後ろについて歩き、関わることは許されない。


「はぁ、自由じゃねぇよなこれ。」


「ん?なにが?」


小さくつぶやいた独り言に山田が反応してくれた………が


「いや、なんでもない。」


………俺はそうごまかす。


山田に余計な心配かけたくないし、国の息がかかっているであろう学校の先生が周りにいる。


疑われるようなことは言いたくない。


その後、釣り大会のとき赤井が一匹も釣れないのを、釣り竿の不備だとか、えさがどうだとか先生に突っかかったのを除けば、ごはん作りとかも順調に行って問題なく一日を終えた。


◇ ◇ ◇


「起床!!起床!!」


二日目、俺らは日がまだ上がらないうちから起こされる。


まだ覚醒しきっていない脳みそのまま先生からの諸注意を聞く。


長ったらしく話していたが、内容は要約するに他クラスと関わらないこと。目の届かない範囲にいかないこと、指示には従うことって感じ。


もはや、俺たちを操りたいってのを隠す気はないらしい。


当然赤井くんは


「ふざっけんな!!なんでそんなこと決めらんねぇといけねぇんだよ!!!!」


とか言って暴れてたけど、巨漢の先生に殴られて気絶されてた。


◇ ◇ ◇


「散策中は三人一組でグループを組んでもらう。俺もできる限り監視するようにするが、それでも目が届かない所もある。だから、決して油断するなよ。いかに低級でも相手は魔物なんだ。命なんて何個あっても足りないんだからな。」


そんなバーコード頭のおじいさんの言葉で俺は周りを見渡す。


もしかしてこれ、異世界人と交流チャンスか?


「あぁ、君たちは同じクラス同士で組んで。」


……ですよね。


「組もうぜ。」


「うん!」


俺はいつも道理に山田と組んだ。


後は………


「俺も入れてくれ!!」


俺が周りを見てると、そう声をかけられる。


「君は……あぁ、!!キャッチボールのとき追っかけられてた!!」


「その覚え方すんな!!俺、鈴木!!!てか、クラスメイトだろ?覚えとけよ!」


鈴木はバシバシと俺の背中を叩く。


あぁ、こいつ陽キャか。


なら、俺が名前を覚えてないのも納得だ。俺基本陽キャと関わりないから、


「よ、よろしく。僕山田っていうんだ。」


「おう!!知ってるぜ!よろしくな」


山田と鈴木が握手してる。


あの山田に友だちができるなんて、嬉しいような悲しいような複雑な気持ち。


「ほら、早く行こうぜ!!」


「あ、あぁ。ごめん。」


俺はいつの間にかあるきはじめてた二人を追いかけた。

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