side Y&T 5

◇ ◇ ◇


「よっしゃ!!これで10達成だ!」


鈴木が森の中で今狩った一角兎とかいう、額に大きな角が生えたうさぎ型の魔物を掲げる。


「これで目標達成だね!」


山田と鈴木がハイタッチしてる。


探索にあたってかされた目標は1つ。

どんなランクでもいいから魔物の魔石を10個集めること。


俺たち三人のパーティーは意外に良かった。


それぞれのスキルチートを活かす山田の作戦で、俺が遠くから石を投げて狙撃、鈴木がスキル「魔法剣」でとどめを刺す。

手ぶらな山田が魔法で補助。


そんな感じで日が落ちる前には10匹の魔物を倒し終え、広場に戻ることができた。


その後何の事件も起きず、二日目も無事に終了した。


 ◇ ◇ ◇


「起きろ!!!!起きろ!!!!」


「んっ……うぅ……」


まだ眠い目をこする。


「起きろ!!!早く食堂にあつまれ!!」


目を開けると先生が大声で叫んでいた。


ここは俺たちのAクラスの男部屋。

俺は異世界にクラス転移させられた日本の高校生、田中。


まだ起きる時間ではないはずなのに、叩き起こされた。


「早くしろ!!」


先生が再び叫ぶ。


「わっわかりました!!」


部屋の誰かがそう返事をして外に出たことをきっかけに、クラスのみんなが移動を始める。


「な、何があったんだろう?」


「わからないけど、ついていこう。」


「う、うん。」


田中と話をしながら食堂へと向かった。

何か変な匂いがしたのが気になったが、今は周りから離れないほうがいいだろう。


 ◇ ◇ ◇ 


「生徒を集めろ!!!」


「確認を!!!」


「何が起こったんだ!!!」


俺たちが食堂についたのは最後の方らしく、すでに沢山の生徒たちが集まっていた。


「な、何があったんですか?」


俺は不安になって近くにいた先生に聞いた。


「あぁ、宿の横の小屋が突然爆発したんだ。」


「そ、そうなんですか。」


俺が寝ていた間になんか物騒なことになっているみたいだ。


「お前ら、こっちに座っとけ!!」


食堂の端で突っ立っている俺らに手を振りながら先生が叫んだ。


「っち、何なんだよ!」


赤井くんは朝早く起こされて不機嫌そうだったが、しぶしぶとそっちに向かっていく。


俺もそれに続いて向かい、山田とともに指定された長机の端っこの方に座った。


「それでさ、煙が立ったんだって。」


「爆発したんでしょ?」


「魔物でも来たのかな?」


人間、不安になると他人と分かち合いたくなるもの。


座ったあとすぐに女子たちがざわざわと噂話を始めた。


「本当に何があったんだろう?」


俺がその様子を冷ややかに見ていると、山田が心配そうに言ってきた。


「大丈夫だよ。先生もいるんだ。」


俺がそうなだめたのとほぼ同時に、


「お前ら、注目!!」


と、若い男の先生の声が響いた。


皆新しい情報がほしいのだろう。あんなにうるさかったのにすぐ静かになった。


「今日はもう落ち着いただろうし、部屋に戻って……」


先生がそこまで言ったとき。


「ガァァァァアアアアアアオオオオォォォオォーーー!!!!!!」


そんな声が聞こえてきた。


「ガァアアアオオオォーーー!!!!!!」


「えっ……」


食堂の窓を壊して入ってきたのは、映画などの中にいるような巨大な蛇だった。


「キシャーー」


そう、蛇が鳴くと、ゾクゾクゾクと全身の毛が逆立つ。


俺はとっさに隣にいる山田の手を握った。

男同士気持ち悪いが、そんなことよりもあの蛇の恐怖のほうが強かった。


「ギャリャァァァアアアアア‼‼!」

「シャビュァァァァァアアア!!」

「グロォォォォォ‼!!!!!!」


俺の意識を蛇から剥がすように新たな叫び声が響く。


「グォォォォォアァアアアアアアアアア!!!!」

「ジャリャギュラァァァァァアアアア!!!」

「シェリンンンンンンンァァァァァ!!!」

「ナジュゥゥゥゥゥウウウウウウ!!!!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオヲヲオオ!!!」


耳を裂くような汚い声が頭を支配する。

大量の魔物たちの叫び声が重なり、聞けたもんじゃなかった。


「う、嘘だろ……」


赤井くんが呆然とつぶやく。


やっと俺も状況を理解した。


絶対に勝てないであろう蛇に加え、何千もの魔物の群れ。


それらが同時に俺らを、この宿をめがけて襲ってきているのだ。


「シャァァァァアア」


蛇が再び吠えた。


「あ、あぁ………」


俺はあまりの恐怖に失禁してしまった。


「お、おい、嘘だろ」


「え、ええ、え?なになに何!!!??」


「いやぁぁぁぁぁ!!!!!」


俺の周りの日本人が叫び出したのをきっかけに他のクラスの人たちもすぐに立ち上がり、蛇がいるのと反対側のドアを目指して走り出した。


「ちよっ……」


俺も逃げようと立ち上がるが、人々の波に押されてまた座らせられる。


完全に逃げ遅れたみたいだ。


「け、結界使える教師、魔力切れとか気にしないで、とにかく全力で張れぇ!!!!」


前にいた先生が叫ぶ。

俺はただ逃げるだけの自分と違い、適切な指示を飛ばす彼のことをカッコいいと思った。


「わ、わかりました!!大いなる大地よ………」

「手伝います!混沌を統べる………」

「ま、魔力ポーションを…」


他の先生達も動き出す。


先生たちはこの状況をちゃんと理解して最善策をとっているみたいだ。

だが、生徒たちは違う。


皆一応に他の人なんてお構いなしに逃げようとしている。


 ◇ ◇ ◇


「グヤァォォオオオ!!!!」


少し聞き慣れた魔物の叫び声が食堂に響き渡る。


先生方が生徒たちを誘導してくれたので、俺もちゃんと外に出ることができた。


「皆さん!!道が細いので順番に脱出します!!!まずはこちらのクラスから……」


先生が必死に統率を取ろうとしているが、あまり効果はない。


道の前に先生達がいるので動いてはないが、皆自分が最初に逃げようと走る準備をしていた。


「おい春奈!!逃げるぞ!!」


ちょっと離れたところから赤井くんの叫び声が聞こえた。


春奈というのは学校で女子のトップに君臨していたギャルっぽい女子の名だ。


たしか、赤井くんと仲よかったはず。


「ちょっ、待ってください!!順番です!!」


赤井くんは春奈さんを抱きかかえ、先生を押し切って道へと出た。


「うっせー!!!俺はこんなとこで死ねねぇんだよ!!」


そんな言葉を残して、赤井くんは春奈さんと二人で逃げていく。


赤井くんは勇者、春奈さんは聖女と二人共トップクラスの職業なんだから、戦えばいいのに。


そう思うが、じゃあ仮に自分がその立場に立ったとしても、彼らと同じように逃げるだろう。


……これが、人間の悪い部分か。


「だから、順番ですって!!!」


赤井くんが悪い前例として逃げてしまったので、他の生徒たちもそれに続けで順番なんてお構いなしに走り出して、再び辺りは大混乱。


「や、山田どうする!」


隣の山田に問いかける。

俺たちは一番宿側にいたので、逃げようにも前の人が邪魔で動けないのだ。


「待つしかないんじゃない?」


「そ、そうだよな……」


俺たちは喧嘩も起こり始めた前の方を見ながら、ただ待っていた。


 ◇ ◇ ◇ 


ドーン

ドーン

ドーン


かなり時間が経ち、やっと半分の生徒が逃げたというところで地面が揺れた。


「な、なんだ!!」


俺の後ろにいた先生が叫ぶ。


ドーン


再び地面が揺れ、俺はよろけてしまう。


「だ、大丈夫?」


「あぁすまない。」


田中がギリギリのところで支えてくれたのでなんとか転びはしなかった。


「本当に何が起こっているんだ………」


俺は何度も揺れる地面と、宿越しに見える砂埃に不安を抱く。


先生たちが戦ってくれているから大丈夫………だよな?


「落ち着いて!!ゆっくり逃げてください!!」


そう先生は叫ぶが、道が細くまだまだ全員が逃げるには時間がかかりそうだ。


「山田、俺たち………」


俺が不安を消そうと話しかけたその時、


「ウガァァァァアアアアア」


耳をつんざく咆哮が響いた。


「っ!!!」


食堂の建物を挟んでいるはずなのに、そのオーラに身震いした。


「や、ヤバい……」


逃げなきゃと思ったが、やはり前には人々の群れ。


ならば少しでも離れようと思ったのだが、何故か野次馬根性が働き、俺は食堂の扉から頭だけを出してしまった。


「っ!!!」


俺に見えたのは、真っ黒のゴーレムが先生たちに殴りかかっている光景だった。


「危ない!!!!」


俺はそう叫び、目をつむった。


………………?


大きな音がするかと思ったが、いくら待てどなんの音もしない。


俺は恐る恐る目を開いた。


「っ!!!」


ゴーレムの拳は人々の頭上スレスレで止められていた。


たった一人の少年の手によって。


颯爽と現れ、ゴーレムの拳を止めた少年はゴーレムを蹴ってこっちへと退避してきた。


誰なんだ?


あんなのを止めたんだ、さぞかし強くてカッコいい人だろう。


そう思って見たその少年の顔は………


「っ!!!ゆ……いち…………くん…」


………こっちに来てから一度も見ていない、いじめられっ子にそっくりだった。

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