第148話 Not 平穏、But 筋肉

衝撃の再会がありつつも、新学期は始まり、そして他愛もなく過ぎていく……はずだった。


「もっと、もっと脇しめて!!」


戦いとは縁もなく、学生として学業に専念する予定だった。


「そうだ、脚も忘れるな!!」


そしてそのまま平穏な日々を謳歌する予定だったのだ。


「おぉ、いいぞ!! 筋が良いな二つの意味で!!!」


そう言って大声で笑うマッソ。


その目の前には、苦笑いで言われたポーズを取る僕。


……なんでこうなった?





 ◇ ◇ ◇





遡ること数時間前。


「ちょっと相談があるんだけどさ……。」


エルフの少年であるフェルンくんから声をかけられた。


「どうしたの?」


僕はなんだろうかと思いながら、彼の前の席に座る。


「僕さ、こんな見た目で力強くないじゃん……」


彼はうつむいてとても真剣そうに口を開いた。


「ま、まぁ確かにマッソみたいではないね」


フェルンくんはとても可愛らしい男の子で、力強いというよりは守りたくなるような感じだ。


「そう!! この先のためにも、僕もマッソみたいに筋肉をつけたほうがいいんじゃないかと思って。」


僕がマッソのことを言うと、フェルンくんはいきなり目を輝かせて体を乗り出し、まるで夢の話でもするかのように楽しそうに話した。


「え……」


フェルンくんがムキムキ……。


僕は頭の中でムキムキになって、暑苦しいほどの熱量で微笑むフェルンくんを思い浮かべる。


…………なしだな。


「それはちょっと、」


やめておいたほうがいいのでは。僕がそう言おうとしたとき、不意に教室のドアが開いた。


「そのとぉぉおおおおおおり!!!!!」


バァンという音とともに現れたのは……


「マッソ……」


他でもない筋肉マッソだった。


マッソ・トレーニング。名前からしてムキムキな彼は、その名の通りムキムキのゴリマッチョである。


「必要なのは筋肉だ!! よく気がついた!! フェルン、俺に任せろ!!!! お前を一流の漢に仕上げてやる!!!!」


彼は実に愉快げに笑いながら、その体を見せつけるようにフェルンくんの方を向き続ける。


ゴクリ


そんな音がフェルンくんの方から聞こえる。

彼は実に真剣そうに筋肉の方を見つめていた。


数秒、悩むでもなく下を向いた彼は、決意を決めたように拳を握り……そして、


「よろしくお願いしますっ!!!!!」


そう、元気よく言い放ったのだ。


…………マジで?







そして、気がつけば何故か僕も巻き込まれて、三人でジムに来ているわけなのだ。


異世界にジムはあるのかと思ったけど、魔物がはびこり筋肉の使い道が多く存在するこの世界では、ジムは病院や学校に並ぶ大切な施設……らしい。


にわかには信じられない話だ。


「ふむ、なかなかに良かったぞ!!!」


マッソが僕に向けて言う。


フェルンくんへのお手本として、何故か僕がポーズを取らされていたのだ。


……結構疲れるのね、あのポーズって。


そんないらない知識が増え、フェルンくんにも(多分)いらない筋肉が増えていくのだった。


「フェルン、もっと深く!! 自分を信じろ!!」


「は、はいっ!!!!!」


…………いるのかな、筋肉


僕は汗にまみれて叫ぶ二人を見て、ムキムキではない自分の腕を触りながら、そう思った。








 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


お久しぶりです。

今月は頑張りたい……!!


どうぞ今後とも、ご贔屓に!!

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