第38話 過去の傷

僕の探索魔法も進化している。


前は普通で半径500m、頑張って1500m位飛ばせなかったが、今は普通に半径1200m位、頑張って4000m位は分かるようになった。


「うーん………反応なしかぁ。」


山の中なだけあってモンスターや生徒たちの反応は数多にあるのだが、よく知ったヒスイの魔力が見当たらない。


もう日が沈みかけてるし、心配だ。


「…いくかぁ」


僕は再び森の中に入った。


 ◇ ◇ ◇ 


「はいはい、どいてね。」


襲ってくるゴブリンを薙ぎ払い進む。


なんか一人になってから魔物に襲われるようになったんだが、やっぱ人数が多いと襲いずらいのかな?


「いないなぁ。」


ハヌルソウは嫌というほど見つかる………というか顔に当たるのだが、肝心のヒスイは見つからない。


また迷うんじゃないかって?


チッチッチッ、甘いね。


賢き僕はちゃんとここに来るまでの道のりに、辿れる魔力を漂わせてきたから迷って帰れないなんてことはないのだよ。


「って!わぁっ!!」


ジジジジ


蝉(?)がいきなり飛び出してきて、驚いてしまった。


蝉って言えば、夏の終り頃の地面で死んでると思ってたら突然動き出すのって本当にビビるよね。


あれが本当のってな。


……………さぁ、探しましょうか。


 ◇ ◇ ◇ 


「どうでしたか?」


「僕もだめでした。見つかりません。」


あれからしばらく粘ったが、日が暮れてきたので断念。


帰ってきたら戻ってるかなぁ?とか思ったが、こっちにもいなかった。


「ほんとに、どこいったんだろ?」


どこにいるのか?

無事なのか?

さらわれたのか?

さらわれたとしたら、誰に?

なぜ?

いつ?

だれが?

どうやって?

…………………考えれば考えるほどいろんな可能性が出てくるし、疑問が浮かぶ。


闇の薬を売る組織の仕業か、はたまた帝国の陰謀か、伝説の傭兵か。


ラノベだとそのへんがかたいけどな。


「お疲れ様だ!!ここからは部屋に戻り、少し経ったらご飯、その後順番に風呂だ!!各自動け!!」


体育教師みたいなノリの先生がそう叫ぶと、生徒たちは疲労の色を全面に出しながら、宿へと向かっている。


まぁ疲れるよな。

僕はそこまででもないが、一般生徒には応えるだろう。


「なぁ、どうよ?」

「デカかったよなぁ!!」

「あれは俺のもんだ!てぇだすな!!」


……………うそ。


僕は聞こえた声に恐る恐る振り返る。


…っ!


マジかよ。


そこには居た。居てしまった。


会いたくなかった達が。


「まじで!?」

「手早くね!!?」


一見すると、ただのバカバカしい会話。


でも僕には分かるのだ。この声。


クラスにいたおちゃらけた男子たちの声だ。

確かテニスとかそのへんのスポーツ系の男子三人組だった気がする。


カーストは高め。


……でもまだ大丈夫。彼らは確かにおちゃらけているが、いじめに直接関わったことはないし、そういうことはしない奴等だ……と思う。


「つーか、赤井最近へんじゃね?」

「そうそう!こーんなこえぇ顔してな!」

「ハハハ!似てる似てる!!」


赤井……。


一番聞きたくないやつの名前が聞こえてしまった。


この学園にいる彼らからその名前が出て、なおかつ最近の様子を知ってるってことは、奴もこの学園にいるのか。


……………大丈夫だ。

僕はもうじゃない。

いじめられっぱなしの弱虫、芯望唯一じゃない。


そう。今は、異世界人のレストだ。


彼らにバレるわけがないんだ。


それに、僕はもう強い。


やり返せるし、言い返せるんだ。


そうだ、大丈夫。


大丈夫のハズなんだ……。


「くっ……おぇぇ…」


出た、出てしまった。


拒絶反応の強烈な吐き気と目眩。


そうだ。いつもこれでひとりふらついて、こんなふうに倒れて……。


「…か!だ……じょ……な!!!」


な…んか声…聞こえる………。


僕の意識はそこで途絶えた。


 ◇ ◇ ◇ 


夢を見ていた。


昔の夢だ。

中学の頃の夢。


僕は屋上に立っていた。


そうだ、ここで振り返ると……


『何してるの?』


……彼女がいるんだ。


『な、何でもないですよ。』


こうやって自分のことを隠して、上っ面で、上辺だけで人と会話して。


『そんなぁ、屋上で物憂告げに空見てるのに?』


深く知られることを、奥を知られることを恐れて、逃げて、拒絶して。


『ねぇ、言ってみてよ。』


いじめられて、無視されて。

それでも彼女は話しかけてきたんだ。


『何なんですか!!?ほっといてくださいよ!』


そうだ。ここで僕は八つ当たりするんだ。

彼女は何も悪くないのに。


-------場面が変わった。


これは……卒業式間際の記憶だ。


『なんで!?ねぇ!!なんでなの!!?』


そうだ。ここで僕は……


『なんで!?ねぇってば!!!』


僕は………


『聞いてるの!!?ねぇ!唯一君!!?』


僕は………………


『ねぇ!!!?』


ーーーーーを辞めるんだ。


-------また場面が変わる。


今度は一緒にいるのは彼女じゃなかった。


僕はそれが嬉しくて嬉しくて………………………寂しかった。


『おい!死ねよ!!!』


誰かの怒号

ーーろ


『きったなぁい!菌ついちゃったぁ!!』


誰かの嘲笑

ーめろ


『ッ!この野郎!!!』


誰かの暴力

やめろ


『お前に価値なんてねぇんだよ!!!大人しく殴られとけ!!この豚!!!』


誰かの貶し

やめろ!


『俺たち仲いいもんなぁ?なぁ!!?』


誰かの脅し

やめろ!!


そして…………


『ねぇ、信じてよ。』


誰か彼女の誘惑

やめてってば!!!!


もう……もういいんだ。

もう忘れたんだ。

もう諦めたんだ。

もう捨てたんだ。

もう破ったんだ。

もう、もうもう、もうもうもう…………。



『…きろ!』


何だ?


『きろっ!!…ば!!!!』


何なんだ?


『お…ろって!!!いってんだ!!!』


絶望の渦に吸い込まれていく僕をその声が引っ張り上げる。


『起きろ!!……し…ぞ!!』


あぁ…


『起きろ!!メシだぞ!!』


あぁ……ありがとう、マッソ。


僕はその声に身を任せ、引っ張り上げられた。


 ◇ ◇ ◇



「起きろ!!メシだぞ!!」


うるさい声と揺さぶりに起こされる。


「起きたか!おはよう!ってもう夜か!!」


目を開けると、妙に整った顔の筋肉がいる。


「うん、おはよう。」


マッソか。

なんか辛い夢を見てた気がする。


「大丈夫だったか!!?」


「何が?」


マッソが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「お前うなされてたじゃないか!!?心配で起こしたんだが、悪夢だったんじゃないのか!!?」


「マッソ…………。」


やたら一生懸命に起こしてくれてるなと思ったがそんな事があったのか。

えぇやつやんか。


「さぁ、メシの時間だぞ!!」


「あ、うん行こう。」


僕はマッソに続いて部屋を出た。

いつもよりすこしだけ、近くによって。


 ◇ ◇ ◇


「「「いただきます。」」」


高天井の食堂に声が響く。


夜ご飯は自由席で、メニューはパン、スープ、サラダ、薄い肉だ。


「ヒスイは…………いないか。」


見渡してみても、彼女の翡翠色の髪の毛は見えない。


「やっぱり気になるか?」


聞こえた声に振り返ると、そこにはテイチ先生がいた。


「はい。友達…………ですし。」


こんなときでも少し考えてしまう自分が嫌になる。


「そうか。俺らも全力で探しているが、まだ………な。これからもう一回見てくるから、まぁ、任せとけよ。」


「あ、ありがとうございます。」


任せとけというが、僕はこれから探しに行くつもりだ。


やっぱり心配だし、なんか嫌な予感がする。



「うんめー!!!!やっぱメシだよな!!!!」


僕のマイナスな思考はマッソの声により中断となった。


◇ ◇ ◇


「風呂に行くぞぉー!!!」


腹を満たし、休んでいる僕らのところにマッソがやってくる。


「お前ら!風呂に行きたいかー!!!!」


「お、おー。」


「百万ヤヨが欲しいかー!!!!」


「おー。」


一応ノっておいた。


僕らは鞄から道具を出し、着替えを持って部屋を出る。


「マッソ何してたの?」


廊下を歩きながら話す。

彼の姿は、ご飯食べてから今まで見えなかったのだ。少し気になる。


「あぁ、ヒスイが居なくなっただろ!!だからそれの捜索にちょっと協力してたんだ!!」


「そ、そうなんだ。」


何だマッソ!

お前めっっっっちゃいいやつじゃないか!?


なに?僕のことを気にかけつつも、ヒスイの捜索の強力をして、なおかつ風呂の時間には呼びに来てるってこと?


おまけにこのテンションとか、まじ頭どうかしてるんじゃないの!?


本当にいい意味で。


「心配だよね。」


僕は風呂を出てみんなが寝静まってから動く予定だったが、マッソがここまで精力的に活動をしているのを見ると、少し時間を早めようかと思う。


「まあ、俺ができる方法がこれなだけで!レストにはレストの得意な方法があるんじゃないか!!?」


「それは………そうだね。」


確かに僕には僕のやり方がある。

それには、マッソみたいに先生たちと協力というは向かない。


「だろ!!ならば、それで自分のできる全力を尽くせばいいのさ!!」


ニカっと歯を見せて笑うマッソ。


「マッソ、ありがとう。僕、やるべきことが見えた気がするよ。」


僕はマッソに深く頭を下げる。


「いいってことよ!!俺ら魂で繋がったソウルメイトじゃないか!!!」


ふんすと鼻息を吐きながら、マッソは僕の頭に手を置いた。


「ありがとう。」


僕はもう一度そう小さく呟いた。

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