第37話 精霊王の墓
「これは……何なんだろう。」
花畑の中央に二つに折れて倒れている石碑の片方に触れる。
何か書いてあったのだろうが、自然の猛威によって削られ、読める状態ではなかった。
「賢者様、これ何?」
久しぶりに尋ねた賢者様は衝撃の事実を教えてくれた。
◇ ◇ ◇
精霊
それは不思議な存在。
気まぐれであり、誠実である自然の権化。
そんな精霊たちには属性というものがある。
これが不思議で、魔法や魔力には元々属性がないが、精霊にはあるのだ。
そして、その属性ごとに精霊たちを統べる王がいる。
名を精霊王といい、彼らはとてつもない力を持つとされている。
だが、その力は精霊王単体では使えない。
契約する人間がいて初めて力を使うことができる。
ー火の精霊王
ー水の精霊王
ー風の精霊王
ー土の精霊王
ー光の精霊王
ー闇の精霊王
彼らは寿命がなく、基本的に不死である。
ただ、封印という形で力を使えなくされることもある。
その封印は精霊王同士。又は契約者でしか行えない。
ーーーーーそしてこの遺跡。
これは、水の精霊王の墓である。
水の精霊王は遥か昔、信じた一人の
この一帯の花はその精霊王の怒り、悲しみ、苦しみ。
その他様々な感情が混ざり合い、力を通して溢れ出して咲いている。
水の精霊王は満月の日だけその封印が弱まり、話すことができる。
封印された精霊王を解くことができるのは、新たな契約者だけ。
彼女は何百年の時の間、契約してくれる人を待ち続けている。
◇ ◇ ◇
軽い気持ちで聞いてみたのだが、とてもデリケートな問題みたいだ。
「…満月……か。」
「満月がどうしたんだ!?」
「さぁ、ここもきれいですがハヌルソウ探さなきゃですよ!!」
「う、うん。今行く。」
僕は後ろ髪を引かれながらも遺跡から離れた。
◇ ◇ ◇
ーーーーー彼はこの時知らなかった。
精霊王はすでに起きているということを。
今日が満月の日であるということを。
その傷が深い深いものだということを。
決して消えないものだということを。
ーーーーかつての英雄達が残した火種が、自分に襲いかかるということを。
賽は投げられた。
後は、1が出るか、6が出るかだけだ。
◇ ◇ ◇
「こっちじゃないか」
「いってみよう!!」
三人で森を進んでいく。
未だに現在位置は分からないが迷ってる感はない。
…………それが良いのか悪いのかだが。
「これ!紫だぞ!!」
マッソの指差す葉っぱを見る。
たしかに紫色をしているが、ハヌルソウの特徴である先が3つに別れている。というのに当てはまらないな。
「これは違うとおも………っ!!二人とも!臨戦態勢!!」
フェルン君が吠えるように叫ぶ。
どれどれ…。
僕も探索魔法を使う。
見つかったのは約15m先に小さめの魔力反応が2つ。
……何だこれは?
「ほら!!!レストも構えろ!!魔物だぞ!!」
「あ、うん。」
マッソに言われ僕も剣を抜く。
別に魔法でも戦えるのだが。
「きた!!」
緑のカーテンみたいな蔦をくぐるように現れたのは、野性味を強くした犬を立たせたみたいな魔物。
かわいい!!…………とはならないな。
「ぐるるるる」
うん。
見るからに唸ってるし。野生感がすごいし。
「マッソくんとレストが前衛、僕が魔法支援ね!!」
「行くぞ!!!」
「う、うん!」
ふたりともヤル気だなぁ。
僕は言われた通りにマッソと逆の左側の犬と向き合う。
「グルルゥ」
見た感じそこまで強くなさそう。
武器も持ってなく、攻撃手段は爪と歯だけだし。
「はぁ!」
いい感じに苦戦してる感を出し、
「ハッ!!」
ちょっとしたら仕留める。
うん。我ながらいい感じじゃないか?
「そっちも終わったか!!怪我がなく良かった!」
「お疲れ様!」
マッソの方も終わったみたいだ。
「マッソくんの方に付きっきりで魔法撃っちゃったけど、レスト君大丈夫だった?」
「あ、うん。ちょっと手こずったけどうまく倒せたよ。」
「そうか!!!じゃあ、魔石取ろうぜ!!!」
フェルン君も活躍の機会があったみたいでちょっとホッとした。
僕ら二人が盛り上がって、彼だけ置いてきぼりなんて悲しいからね。
三人で寄せた犬の魔物の死体に近寄る。
「うわぁ……。」
マッソが剣の先で魔石を取り出すが、なかなかにグロい。
…………ゴブリン相手に散々やってきた僕が言うことじゃないか。
「そ、そっちはフェルンがやってくれ!!」
「い、いや、レスト君やっていいよぉ!?」
二人ともあんましやりたくないみたいだ。
「わかったよ。」
僕は普通に死体の胸に手を入れ、魔石を取り出し、手についた血を水魔法で流す。
「す、スゴイね。」
「漢だぜ!!!」
フェルンくんはまだしも、マッソまで引くなよ。
「そうかな?」
「おう!!カッコいいぜ!!!」
「カッコよかったよ。これであとはハヌルソウだけだね。」
こんなんでカッコいいとか言われたくない。
「あっちに行ってみよう。」
「そうだな!行こうぜ!!」
「うん!」
さっき放った探索魔法の端に引っかかった宿の方向を指す。
もう日が傾き始めてるし、軌道修正しないとだろう。
「っ!うっとおしいな!」
顔にかかる葉っぱを乱暴に取り払うマッソ。
わかる。ペチンペチンあたって嫌になるよね。
「くそっ!!これなんの葉っぱなんだよ!」
マッソが遂にキレて顔に当った葉を枝ごと毟り取る。
「ってこれじゃないのか!!?」
「ホントじゃん!紫で3つに割れてる!!」
運がいいことに、毟り取ったそれがハヌルソウだったらしい。
てか、蔦かなんかだと思ってたけど普通に木の葉っぱなのね。
「取れたぞ!!」
「これでコンプリートだ!あとは戻るだけだよ!」
「やっとだね。」
「ホントだぜ!!」
「「「ハハハ」」」
三人で笑い合う。
うんうん。こういうのだよ。
旅先でまでパシられたり、奢らされたり、電車に乗り込む寸前で突き飛ばされて一人だけ一本遅れるとかそんなことがない。
青春って感じ?友情って感じ?
まだ付き合いは短いから完璧に信用したわけじゃないし、命とかは預けられない。
だが僕は改めて、二人を大切にしようと思った。
◇ ◇ ◇
「えっと、レストにマッソにフェルンな。了解した。」
あれから少し歩いて宿へ続く道に出て、ちゃんと宿に辿り着くことができた。
今は先生に到着報告をして、しばしの休憩タイムだ。
「それでな!鳥型の魔物が出てきたんだぞ!!」
「こっちはゴブリンが5匹だぜ?あれはヤバかったぜ。まぁ俺らの手にかかればあんくらいは、余裕だったけどな!」
「おい、お前先生に助けられてたじゃねぇか!」
広場では皆が自分の探検の様子を少し盛りながらも、楽しそうに話している。
「ん?あれは……」
そんな中、不安そうにウロウロする女の子二人組がいた。
確か彼女たちはヒスイのチームだった気がする。
「あ、あのどうかしたんですか?」
何となく気になってしまって話しかけてしまった。
「そ、そのヒスイさんと逸れてしまって。」
「森の中では一緒にいたんですけど。」
「一応先生には言ったんですけど…。」
人というのは心配なときはそれを共有して、なんとか和らげようとするものだ。
彼女たちもかなりテンパっているのだろう、見ず知らずの僕に状況を詳しく話してくれた。
「そうですか。僕も少し探してみます。」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
何かしら問題は起こると思っていたが、まさか彼女がいなくなるなんてな。
…………ヒスイが見つかることを祈ろう。
僕は彼女を探すために強めに探索魔法を使った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます