第36話 二日目の朝

先生の言っていた通りに歩くと、無事に部屋に戻ることができた。


「何処で寝る!!」


「そうだねぇ、、、、」


布団にが部屋の端に積み上げられていた。

自分で好きな場所に敷けということらしい。


すでに窓際と通路側の端の一帯は取られていて、残るは押入れの前か部屋の真ん中といったところだ。


「ここでいいかな。」


別に『そこじゃないと寝られない!』とかいうこだわりはないので、広く空いていた部屋の真ん中のスペースに自分の布団を敷いた。


「俺も敷くぜ!!」


右隣にマッソが自身の布団を敷く。


「あれ、お隣だね。」


左隣はフェルン君だったみたいだ。


「お前ら布団敷けたか?もう消灯するぞ。」


見回りのテイチ先生がそういって少ししてから電気を消す。


「おやすみだ!!」


「おやすみだね。」


「おやすみなさい。」


二人に挨拶をして目を閉じた。


 ◇ ◇ ◇ 


深夜3時を回ったくらいの時間。

寝静まった宿の建物に怪しい影が一つ。


「運搬途中で生徒に見られたのは驚いたけど、それ以外は順調だな。」


ピンクの液体が入った瓶の蓋を開けて、黄色の液体を注ぐ女。


「ふふふ、これで私の好きなときに……ぐふふふ。」



夜は更けていく。

不穏な霧を残して。


 ◇ ◇ ◇ 


「きて、、、起きて、、、ねぇ」


ん?なんか声が聞こえる。


「起きてよ、、、起きてってばぁ、、、」


やけに優しい声だな。

起こしているのか?


でも、僕はまだお布団さんから離れるつもりはない!


「まだ起きないのか!!!俺がプレスで起こしてやろうか?」


「おっはようございます!!」


危ない。このまま寝ていたら命の危険があったかもしれん。


「む!?起きたか!おはようだ!!」


「おはよう。随分良く寝れたみたいだね。」


二人ともそれぞれの感じで挨拶してくれた。


「うん、おはよう。」


今日は合宿二日目。


予定だと虎の沼地周辺の散策で、魔物との戦闘訓練も兼ねてるんだっけ。


「飯だぞぉー。」


廊下から眠そうなテイチ先生の声が聞こえる。

夜中見張りもしていたと聞くし、お疲れなのだろう。


 ◇ ◇ ◇ 


「「「「いただきます」」」」


朝の食堂に声が響き渡る。



朝ごはんは宿の方で出してくれるみたい。

メニューはパンとスープと野菜が少々。


質素だが朝にはこれくらいが丁度いいのだ。


「今日は魔物とたたかうんだってな!!今から胸が踊るぜ!!」


「そう?ここに出るのは低級魔物でしょ?そんなに楽しみにはならないけど。」


ふむふむ、魔物に対しての意見は2つか。


マッソみたいに楽しみタイプ。

ヒスイみたいにどうでも良いタイプ。


周りから聞こえてくる声もだいたいその2通りだった。



僕?

僕はどっちでもなく、不安タイプだ。


ラノベでは、こういう合宿で問題が起こらないわけないんだ。


暴徒化した悪の使徒たちが襲ってきたり、沼の主が出てきちゃったりそんな事件が起こる予感がムンムンする。



昨日の先生の怪しげな行動も気になるし……。



「おいレスト!早く来いよ!!」


「もう皆動いてるわよ!!」


「あぁ、ごめん。今行く。」


まぁ、今は楽しもうか。

そう思い、僕は自分のトレーを持って二人の元に歩いた。


 ◇ ◇ ◇


「散策中は三人一組でグループを組んでもらう。俺はもできる限り監視するようにするが、それでも目が届かない所もある。だから、決して油断するなよ。いかに低級でも相手は魔物なんだ。命なんて何個あっても足りないんだからな。」


いつぞやの145円バーコードのおじさんが言う。


三人一組かぁ、組めるかなぁ?


「組もうぜ!!」


一人確保。


ヒスイは………女の子たちと組むみたいだ。


「僕も入れて!」


「いいぜ!!これで3人だ!!」


よっし。今回も僕があぶれることがなかった。


本当にマッソやフェルンくんに感謝だな。


「組めたみたいだな。じゃあそれぞれ散策開始!あんまり奥まで行かずに目的の品があれば帰ってくるんだぞ。」


今回、散策するにあたって持ってくるものが指定されている。


それを集めてここに持ってくれば、クリアというシステムらしい。


まぁ基本は楽しめってのが学園の意向らしいから、僕も楽しむことにしよう。


「どうする!!どっちに行くか!!?」


「昨日行った虎の沼地の方とは反対に行きたいかな。」


「それでいいんじゃない?」


三人で意見をまとめ、行く方向を決めた。


「集めるのは、ヌリタケとハヌルソウと魔物の魔石をそれぞれ一つずつだね。」


「楽勝じゃないか!!」


ヌリタケというのは赤色でヌメヌメしている食べると頭が痛くなるきのこだ。

ヌメヌメだけを取って料理に使うのだとか。


ハヌルソウは紫色をした葉っぱで、薬草としてつかわれるらしい。


魔物の魔石はどんな種類のものでもいいから一つもってこいとのこと。


どれも探せば見つかるようなものだし、そこまで辛い試練ではない。


「こっちにきのこがあるぞ!!」


「おっけー!」


僕はマッソの元へ駆け出した。


「ここいろんなキノコがあるぜ!!」


「ヌリタケもどっかにあるよ!」


色とりどりのキノコたちの中から赤色でヌメヌメしたやつを探す。


これは……青だな。

これは……赤いけどヌメってない。

これは……オレンジかぁ。


………。

……。

…。


「あった!」


「まじか!!?」


「どれどれ!?」


僕は駆け寄ってくる二人に足元のきのこを指差す。


「これこれ、赤くてヌメヌメでしょ?」


「マジだぜ!!」


「これでヌリタケはオッケーだね!」


念の為、布越しにヌリタケを掴み袋に入れる。


「このままハヌルソウも見つけようぜ!!」


「うん!」


僕らはさらに奥に入っていった。


 ◇ ◇ ◇ 


「ここどこだ!!?」


森を進むこと30分弱。

マッソの先導で歩いていたが、見事に迷ってしまったみたいだ。


「あれ?なんかあそこ青くない?」


フェルン君の指差す方を見ると、たしかにそこ一帯の地面だけ、青く光っていた。


「いってみっか!!」


「うん!いこいこ!」


更に迷う気もするが、いざとなれば探索魔法で帰ればいいか。


そんなことを思い、僕も二人に続いた。


青く光る地面はまっすぐと続いており、少し進むと茂みに入ってしまい地面が見えなくなった。


「いけないぞ!どうする!!?」


「ここは僕に任せて。」


フェルン君が一歩前に出る。


何をするんだろう?

魔法で、茂みをぶっ飛ばすとか!?


僕はワクワクしながらフェルン君を見つめる。


「…いくよ。」


フェルンくんは腰に下げていた剣を抜き、茂みに突進する。


「まっまさか!!!」


マッソが叫んだその時、スパーンと気持ちいい音を立てて


そう、斬れたのだ。


見事に茂みごと斬れており、青の地面の先へ行けるようになっていた。


「いや、ごり押しかーーい!!」


思わず叫んでしまった。


なんか巧みな技とか魔法とかを使うのかと期待していたが、普通に剣で切り裂いただけだったのだ。


「いや、すごくない?」


確かに奥2.3メートル幅の茂みを一発で斬るのはすごいのだが、なんかもっとこう技的なのを見たかった。


「それより、奥行こうぜ!!」


「そ、そうだね。」


フェルンくんにより切り裂かれた茂みを進んでいく。


青く光る地面の幅がどんどん広がり、それが視界いっぱいに広がった時、僕は顔を上げ………


「っ!」


……声を失った。


森の茂みの中に突如現れた半径10m程の空間。


そこには青い花が所狭しと咲き乱れ、何百年もの間をかけて削られたであろう、折れた石碑があった。


「こ、ここは……」


言うならば、


「……。」


そう、青の精霊に祝福されているかのような花畑。


「なんか、すごいな!」


「うん。すごく、キレイ。」


「美しいよね。」


三者三様だが、僕らは皆その景色に見惚れ、数分の間その場から動けなかった。

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