第129話 異世界のお祭り

「お、お久しぶり……です!」


夜になって、扉が叩かれたので誰かと思えば。

リリア様が微笑みとともに扉の向こうに立っていた。


「一週間も経ってないのに、何か懐かしい感じがしますね。」


僕は彼女を迎え入れながら、どこか懐かしさを感じる。

5日間も経っていないのに、一ヶ月くらい会っていない気分だ。


これは知らない土地でダンジョンに潜っていたせいで、知り合いとの再開が嬉しいということかな。


「そうですね」


リリア様の優しい笑いを見るのも久しぶりで、なにか安心してしまった。


「とても、似合ってますよ。きれいです。」


僕はリリア様を見ながら言う。


淡い色を基調としたドレスに見を包んだ今日の彼女は、いつもよりも一段とキレイだった。


「あ、ありがとうございます。レストさんもいつもどおり、カッコいいです。」


リリア様が少し照れながらも褒め返してくれる。


僕はおめかしとかせずにいつもどおりの制服だから、褒めるところなくて気を遣わせてしまったようで申し訳ない。


「じゃあ行きましょうか」


「はい! 楽しみですね!!」


僕が手を出すと、彼女はそれをそっと握ってくれた。


こうして、僕らは水の都のお祭りに行くこととなった。





 ◇ ◇ ◇




「うわー、すごい綺麗……!!」


リリア様が街を見渡しながら言った。


お祭りなので街の至るところで灯りが付き、七色の光に満たされている。それは普通なのだが。


水路の水面に反射した淡い光まで楽しめるのは、水の都だけだろう。


「こうやって見ると、頑張って仕事をしたかいがありますね。」


リリア様は楽しそうに街を行き交う人々を見て、心の底から嬉しそうにつぶやいた。


ここ数日間。リリア様と侯爵様はかなり無理して、諸々の手続きを終えたみたいだ。

その成果……とまではいかないが、誰かのためにやったそのが目の前にいると、感じ方も違うというものだろう。


「キレイだな……」


僕は腰に挿した精霊剣の頭を触りながら、小さくつぶやく。


精霊剣は念じたら出てくるし、念じれば消えるけど、やはり腰に挿していて何かあったら抜くというのが身にしみているので、消さずにずっと出しておいている。


たくさんの光に照らされて、人々が皆笑いながら行き来する。見たこともない食べ物に、嗅いだこともない臭い。そして、僕が元々いないはずだった世界。


こうして見ていると、やはりここが異世界だということを実感する。


僕はあちら日本に戻れるのだろうか。


戻りたい理由なんて一個もないし、戻りたくない理由なら山ほどあるけど。


だからといってこっちの世界に居着くのは、なにか違うような気がする。


僕は……この世界にいてもいいのだろうかと。そんなことを思ってしまう。



「レストさん!! 行きましょう!!!」



グルグルと思考の渦に飲まれていた僕の腕を、彼女が引っ張った。


「リリア様……」


彼女はそれが当然とばかりに僕の手を取って、行きましょうと微笑んでいる。


あぁ、本当に。かなわないな。


僕は小さく笑って、


「はい、行きましょう!」


彼女の隣へと歩いていった。


お祭り。と、一言に言っても色々な種類がある。


日本では地域の商業祭から、伝統的な神様のお祭り。他にも地鎮祭やねぶた祭りなんかもあり、多種多様、様々である。


そして、ここは異世界。


もちろん、お祭りも僕らの知っているものとは一味違う。


基本である、灯りを灯してみんなでワイワイするというのは変わらないが。出ているお店とか、人々の様子が違うのだ。


射的が魔法撃ちになったり、力比べが魔力比べになったりするのはまだわかる。


魔法というこちらにしかない概念を有効に使っているのは素晴らしいだろう。


でも、しかし、But、However……


「見てください!! 電撃すくいがありますよ!!」


なぜ、金魚すくいが電撃すくいになるのだろうか。


はしゃぐリリア様が指差す方を見れば、水の中に小さな魚が泳いでいる。……それと、ピリピリとした電流も。


「お嬢ちゃん、電流すくいやるかい!? ルールは簡単、水の中に渾身の魔法撃ちな!! それで魚がしびれたら一匹につき一点!! 泳いでる電流を倒せたら、二点だよ!!! 十点超えたら素敵なプレゼント!! どうよ!?」


リリア様が近づくと、威勢のいいおじさんがそう言って彼女に金属の棒を持たせた。


「はい、やります!!」


リリア様はそう意気込んで、金属の棒をぎゅっとにぎる。


「よしきた!! その棒はどんな魔法でも雷魔法に変換してくれる優れもんだから、お嬢ちゃんの一番得意な魔法でいいよ!! 回復魔法でも、水魔法でも、闇魔法でも!! あと、中に直接手を入れると死ぬから気をつけな!!」


おじさんが、豪快に笑いながら説明する。


ちょっとまってくれ。色々と渋滞している。


まず、電流って泳ぐの?

電気はとても速くて目に見えないとかじゃないの?


なんかアニメとかで見るようなギザギザにデフォルでされて、ゆっくりと泳いでますけど。


そして、水に手を入れたら死ぬ?

そんな危険なのこれ?


危険な割には、小さなお子様もこぞって参加してるように見えるけど。


ヤバい、なんか目の前の光景が理解できなすぎて頭が痛くなってきた。


『大丈夫?』


魔王が電撃すくいを興味深そうに眺めながら言う。


「うん、あれだよね。異世界だもん。割り切んないと。」


物理法則は共通してたはずなんだけどな……。


「レストさん、行きますよ!」


「あ、はい、頑張ってください」


不意打ちで言われて、僕は驚きながらも応援の言葉をかける。


色々気になるところはあるけど、彼女が楽しそうだし、良いか。


僕はそう割り切って、リリア様を見守るのに集中した。


「地に光射すとき、我らにその御力をお貸し下さい。凖・聖域ファースト・サンクチュアリ!」


リリア様は棒の端を強く握って、魔法を発動させた。


本来ならばこの辺り一帯を包む聖域となったであろう魔法が、すべて棒に流れて雷電に変換されていく。


目には見えないが、その迫力は圧倒的だった。


そして、数秒後には……


「す、スゲェ!! 魚が次々浮いてきてる!」


「あのお姉ちゃんすげぇ!!」


「カッケェ!!」


先程まで泳いでいた魚も、電流も一匹(?)残さずにプカプカと浮いてきたのだった。


す、スッゲェ……。


その光景を前にして、僕は子供たちと同じような感想しか抱けなかった。


本当に、スゴい

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