第119話 出発の朝
「おはよーございます」
「おはよう御座います。」
翌日、一週間だが旅ということで色々なものを収納魔法に詰めてテンション上がり気味の僕は、朝イチでリリア様の部屋に向かった。
彼女はもうすでに起きていて、テキパキと最終準備を進めていた。
「これに乗るんですか?」
寮の前に僕の2倍くらいの大きさもある馬と、それに引かれた荷台がある。
「そうですよ。国から借りてきました。」
リリア様がそう言って、馬のたてがみを撫でる。
「ヒヒーンッ!」
馬は僕を見下して元気いっぱいに吠える。
すごい大きいな。
筋肉もムキムキで、力持ちっぽい。
「遠いですし、正式な特使ということで荷物も多いですしね。」
そう笑ったリリア様は、再び荷物の方に向かっていった。
「こんなに持ってくんだ……」
『少ないほうじゃない?一国の王女様のお出向きとしては。』
僕が荷物の山と、それと格闘するメイドさんたちを見てつぶやくと魔王様が答えてくれた。
「そうなのかな。僕には分からない世界だよ。」
僕も荷物詰めたけど、服と日用品と…………あとは……。
思い出そうとするが、いつまで経ってもその二つ以外出てこない。
僕の場合、服は最悪作れるし。ご飯は木の実、こだわりのあるものもないし、魔法でしまえる。
ということで、手に持つ荷物はカバン一つだけ。
一応怪しまれないように大きめなものの中をパンパンにしているが、中身は本と剣とかの武器。
「少なすぎるかな?」
『いや、旅人とかは本当に身一つで歩くから、普通のほうじゃない。』
僕が尋ねると、魔王様があくび混じりに答えてくれた。
この人、いっつも眠そうだけど、いつ寝てるのだろうか。
『普通に夜とか?朝とか?昼とか?』
魔王様は何食わぬ顔で言う。
それ、ずっとじゃん。
眠っているといえば、水の精霊王さんはいつまでお休みなのだろうか。
一瞬出てきたりはしてるけど、基本契約してからずっと休みっぱなしだ。
『別に、もう動けるけど。』
僕が水の精霊王さんの姿を思い浮かべていると、頭の中に玲瓏な声が響いた。
『ただ、ちょっと寝坊しただけだ。』
精霊王さんもこれまた眠そうな声で、『おはよう』と言う。
「起きてたのなら、言ってほしかったです。」
ずっとあの小さな水晶みたいなのに入ってると思ってたから、たまに話しかけたりなんかしちゃったじゃないか。
……恥ずかしい。
『出る機会もないだろ。安心しろ、声は聞こえていたぞ。それで、今回は水の都のダンジョンに行くんだろ?』
からかうような声で言ったあと、精霊王さんが尋ねてくる。
「……そうです。」
聞こえてたのか……恥ずかしい。
魔王様といい精霊王さんといい、王様にろくなのはいないのかな!
『なら、我の出番ってわけだ。久しぶりに力を使うかね。あと、王への風評被害はやめろ。』
「……?」
確かに“水”の都だし、“水”の精霊王さんだけど、なにか関係があるのかな?
ホームタウン的な感じだったりして?
『まぁ行けばわかる。ほれ、おなごが呼んでるぞ。』
疑問符を浮かべる僕に、彼女は前方を指さしてつぶやく。
「レストさん!!準備できました!!」
そちらを向けば、今まさにリリア様が手を振っているところだった。
「あっ、はい!!」
僕は精霊王さんの話に後ろ髪を引かれつつも、リリア様の方に向かっていった。
あの大きな馬は荷物用で、僕とリリア様が乗り込んだのは別の馬車。
こちらは白い毛並みのとても華麗な馬が引いていて、ザ・貴族って感じの見た目をしている。
『あまりこういうの好みじゃないんですけどね。』
と、リリア様が笑っていた。
まあ、国から借りたのだから仕方ない。
貴族様とかおえらいさん、こういう白の金のハデハデなの好きそうじゃん。
「ベチアまでは半日弱です。今からですと日が暮れる前までにはつけると思います。」
馬車が動き出してすぐに、向かい側に座ったリリア様が言った。
半日か。結構かかるという印象だけど、馬車ということを考えれば普通なのかな。
「あちらに着いたら、領主から接待がありますので、パーティーと合わせたら夜までかかってしまうと思います。申し訳ありませんが、護衛ということでお付き合いください。」
時間はたくさんあるので暇つぶしにか、リリア様が着いてからの話を始めた。
大きな都市の貴族が女王を迎えるともなれば、やはりあちらもかなり手が込んで出迎えるんだろうな。
「いえ、リリア様のためですし。大丈夫ですよ。」
僕は申し訳無さそうにするリリア様に言う。
あまりパーティーとかは好きなタイプじゃないけど、護衛だしリリア様と一緒だし。同じ国内ということで、めったな事件も起こらないだろうしね。
「っ! あ、ありがとうございます……急にはずるいです」
リリア様は頬を染めて、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
……さらっと言ったけど、僕も少し恥ずかしかった。
「初日は護衛ということで形式的にピッタリついていてもらいますけど、翌日からは別々行動です。美しい街と聞きますし、ダンジョンもありますから楽しめると思いますよ。」
「リリア様は自由時間とかないんですか?」
一週間ずっとお仕事というのはあまりにも大変すぎる。
出張とかでも中日はあるのが普通だろうし、少しはお休みとかないのかな。
「最終日は空いてますよ。」
リリア様が少し上を見上げて考えてからつぶやく。
逆を言えばそれまでは休みがないということ。
公務とはいえ、本当にお疲れさまです。
「そうですか。なら、街を見るのは後でいいですかね。」
「どうしてです?」
僕が言うと、彼女は首を傾げて尋ねてきた。
「いや、せっかくならリリア様と回りたいですし。ダンジョンの方に行きますよ。」
僕は笑いながら答えるが、体が少し熱くなるのを感じた。
なんだろう。今まではなんてことなかったのに、最近になってやけに意識してしまうというか、恥ずかしくなってきた……。
「……!! だ、ダンジョンの奥には未だ抜かれていない剣があるとかの噂ですし。頑張ってください。」
彼女も少し照れながら、両手を胸の前で握りしめて応援してくれる。
その後はお互いにお話しながら、長い旅路を辿っていった。
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