細いのか小さいのか
「いっつも頑張ってますからね。私からのささやかなご褒美です。」
僕が戸惑ってるうちにリリア様は抱きしめる力を強くする。
「……むはっ…」
それによって彼女の色々なところが押し付けられるし、なんか髪の毛がふわっとなるしでもう………。
とにかくヤバいです。
「レストくん細々ですね。もうちょっと食べないと大きくなれませんよ?」
リリア様は僕の背中を撫で撫でしながら言う。
「そこまで細くはないと思いますけど。」
むず痒いのと恥ずかしいのを堪えながら、僕はそう返答した。
確かに細めかもしれないけどその分背は低いし。
もう少し大きくなったほうがいいかな?
こっちに来て更に痩せた気が…………あっ、木の実ばっか食べてるせいかな?
でもあれお腹に溜まるし、タダだし、僕はあの味結構好きだし。
「ほちょほちょですよー。」
リリア様は僕の服の上から肩やら背中やら脇腹やらを触りまくる。
くすぐったいというかこしょばいというか、でもなんか他人に触られるとマッサージみたいで少し気持ちくはあるな。後ろに回ってぐいっと押してほしい感じ。
「リリア様ももう少し大きくなった方がいいのでは?」
僕はさっきから細々と言われるので、少し反論してみた。
ちょっと躊躇いつつも自分はやられてるんだしと控えめにリリア様の背中を触ってみたけど、やっぱ肉がない。
もう直に骨だ。彼女だって僕に細々と言う権利はないと思うのだけど。
言われたのがマッソとかだったら、あっそうだねもう少し頑張ろうと思っていただろう。
うん、あれは異次元だよ。僕も憧れるもん。
「…………何ですか?嫌味ですか?」
リリア様の顔は見えなくとも、その声だけでジトーっと言う目をしてることが伝わってくる。
「そ、そんな訳では………」
僕はそういう意味で言ったわけじゃないので、そこはしっかりと否定する。
………が、確かにリリア様のものはお世辞にもご立派とは呼べないかなぁと思ってしまったため、言葉の尻に行くに連れて勢いがなくなってしまった。
いやほら、この年齢ならまだまだ希望はあるし、なによりそれの大きさが全てじゃないから……………ね?
「…………小さいとか言わないでくださいね?」
若干………いやかなりの怒気を籠めて警告される。
言えねー、お世辞にもご立派じゃないとか思ってたって言えねー。
言えねー、勝手にこの年齢ならとか大きさが全てじゃないなんてフォローして同情してたなんて言えねー。
「…………はい。」
僕はこくこくと頷くしかなかった。
ほんとうに、ごめんなさい。
ここまで来たら説得力がないかもしれないけど、僕はそこまでそれの大きさは気にならないタイプだ。
大きいなら、へーおっきいなー肩こりそーって思うし、小さいなら、へーおっきくはないなー運動にはそっちのが向いてるよねーって思うだけ。
まぁ大きいものに魅力を感じないといえば嘘になるけど、付き合ったり結婚したりの基準にそれは入らないし、小さくても全然いける。
…………恋なんてしたことない僕が何言ってるんだか。
「やっぱり大きい方がいいんですか?」
王女様が抱擁の力を緩めて、僕と向き合うってお互いの顔が見えるようにしてから言う。
いや、そのお顔が少し怖いのですけど………。
「…………そんなことは…。」
僕は目をそらしながら若干小声で返答した。
いや、別にやましいことなんてないよ?ありませんとも、えぇ………。
「本当ですか?やっぱりボインでバルンが良いんじゃないですか?」
自らの胸に片手を当てて、それを見せつけるように近寄ってくるリリア様。
いや、だから、その………それは……。
「いや、別にそうでも……。」
僕は大きいものが好きなのではないと否定しようとするけれど、どんどんと詰め寄ってくるリリア様に遮られる。
「ふーん」
全く納得してなさげにそう頷いたリリア様は意を決したような顔で、
「…………えいっ。」
僕に抱きついた。
「っ!!!」
それは今までのものとは明らかに違かった。
まず当たっている位置が正面から横、脇腹の方になったことで更にダイレクトにその感触が伝わってくる。
そして当て具合も一切の遠慮がなくなり、より素直にその体温と触り心地が伝わってくる。
「わ、私だってななな、ないわけじゃないんですからね?」
恥ずかしさを隠すように、僕にまくし立てて更に当ててくるリリア様。
……………ヤバいです。
僕は、色々あって女の人は苦手だし、そもそも今までまともな交流がなかったからどう接すればいいかわからないしで、普通の男の子よりもこういったことに鈍感で疎い気がする。
それに、今まで生きて来て触りたいなんて思ったことはなかった。ただ周りが言ってるのを見てそんなにいいのかなとか重そうだなとか思うだけだった。
その感触を体感した今でもそんな進んで触ったりだとか目線がそこに行ったりだとかするとは思わない。
……………だかしかし、これは僕の心や感情気分の問題じゃないのだ。
あぁもうはっきり言おう、最高でしたありがとうございました。
「…………ありがとうございます。」
僕は心の内を素直に話して、未だ抱きしめられて身動きの取れない中、最大限の感謝の表明に頭を下げた。
「はーい。」
リリア様は頬は赤く染めながらも、実に嬉しそうにニコニコと返事をする。
「………………。」
僕はその笑顔を見ながらこの日悟った。
…………世界にはどんなに頑張っても抗えないことだってあるのだと。
「キスとかしたことあります?」
ハグから開放されて町並みをぼーっと見つめていると、リリア様がそう尋ねた。
「食べたことならありますよ?」
僕は少しイジワルに答える。
「…………お口とお口でしたことは?」
最初は何を言われたのかわからずに黙っていたけれど、からかわれたことに気がついたのかリリア様がムスッとしながら聞く。
「ないですね。」
前に回り込まれて目をしっかり合わされてしまったので、今回はちゃんと返答した。
「……………………。」
リリア様はそっぽを向きながら黙り込んでしまった。
なんだろう、あっちから聞いてきたのに。キスしたことがないのがそんなに悪いことなのだろうか?
でも、僕ぐらいの年ならしてなくても普通だと思うんだけど。
「なんでそんなそっぽを向くんですか?」
僕は彼女の横顔にそう問いかける。
「い、イヤソッポムイテナンテナイヨー、アハハヤダナソンナコトナイサナイサ…。」
ギリギリギリとまるでロボットのように段階的にリリア様はこちらを振り返った。
チガウチガウと片手を振りながらも、目は完全に泳いでいる。
「なんで片言?」
僕はジト目で彼女を見つめた。
なんでキスしたことあるないの話題でそんなに慌ててるのだろうか。
「…………いえ、ごちそうさまでした。」
数秒黙り込んだリリア様は、ちょっとだけ頬を染めながらそう呟いた。
「え?あっはい。お、お粗末様でした?」
僕はいきなりのごちそうさまに混乱しながら、とりあえずお粗末様ですと返しておく。
どどど、どういうことなんだろうか?
僕知らぬ間に何かをリリア様にごちそうしたのだろうか。
「…………ちなみに私以外とハグは?」
恥ずかしさの混じったジト目という高度なテクニックを用いながら、リリア様は僕を見つめる。
右肩に手を置かれて、見上げるように上目遣いで言われるとなんかとても照れるんですけれど。
「……………………したことないですよ。」
ちゃんとしたことは……………ね……。
僕は、彼女をリリア様に重ねてしまうのが嫌になって、空を見上げた。
太陽が半分隠れた曇空には、雲が
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