第78話 少年の願い
Sideレスト
◇ ◇ ◇
「何か、願いはありませんか。」
少し状況を整理しよう。
まず僕は、上空で
そして、目覚めたら王女様の膝にいた。
うん。意味がわからない。
空から落ちてきて何で生きてるも謎だし、なぜ膝枕なのかも謎だ。
だが、それ以上に謎なのは僕の体だ。
ボロボロだったはずの服は、何か白と青のゴッツイきれいな物になってるし、傷も治っている。
そして何より、血が足りている。
体の回復までは治癒魔法があるしまだ分かるのだが、血液が戻っていておまけに疲労感まで取れているとなると最早、ここが夢なんかじゃないかと疑ってしまう。
「願いは、ありませんか。」
現実逃避していた僕を引き戻すように、王女様の言葉が響く。
問の意味は分からないが、『願い』………か。
ーーーー無いです
僕はそう言おうとしたのだが、口から出た言葉はそれと全く異なっていた。
「…褒めて……………………欲しい……です。」
それが何で出たのかは自分でもわからない。
僕が心の何処かで思っていたのかもしれないし、唯のその場の思いつきなのかもしれない。
王女様は少しの間言葉を咀嚼してから、酷く優しい笑みを浮かべた。
彼女は僕と同い年くらいのはずなのに何故だろうか、その笑みを見た瞬間。
泣きたくなるほど、安心した。
「ヤバい!!!あいつ降りてくるぞ!!」
「おい魔法隊!!撃てぇ!!!!」
「騎士共もなんとかしろよ!!!」
「貴方達が何とかしてください!!!」
「はぁ!!?俺らお前たちと違って国から金もらってねぇんだぞ!!!?一緒にすんな!!?」
「わ、私達だって安月給ですよ!!!!」
周りはうるさいのに、僕は彼女から目を離せない。
これはもはや、一種の魔法か何かだ。
「私はあの汚く狭い小屋で日々を絶望のみを抱えながら生きていました。」
王女様はゆっくりと語り始めた。
「暗く先の見えない小屋で、私はなにをすればいいのか。楽しみも悲しみも、希望も絶望も全て分からない。ただ、暗くて寂しかったんです。」
彼女は穏やかな口調で、僕へまるで御伽噺を語りかけるかのように話しかける。
「初めは寂しさに対抗して空笑いをしたりもしました。けど、そんな偽りの笑みじゃ心は満たされないし……ただひたすらに寂しくなりました。」
そうつぶやいた彼女は、笑っているのか泣いているのか。その表情は僕には見えなかったが、その声は内容と相反して、透き通るようにただただ…………優しかった。
「寂しさはやがて怖さに変わりました。全てが怖い。今見てる景色がもうすでに壊れ始めたものじゃないのか、笑いかけるメイドも私を憎んでいるのではないか。この目を再び開けたら、死んでいるのではないか。そんな空が落ちてくることを憂うような、意味のない杞憂ばかりをしていました。」
彼女は優しく僕の頭を撫でながら、自分ごとではないように話した。
僕には彼女の言いたいことが痛いほどに分かって、
「誰かに話せたら楽だったのかもしれません。けど、そんな余裕は私にも、周りにもなかった。ずっと怖さに震えていれば疲れてきます。そして私は思ったんです。」
物語も終盤なのか。澄んだ声でリリア様は言う。
「死のうと。終わりに飛び込めば、終焉を怖がることはないから。ご飯を経ち、水も微かにしか飲まず、睡眠すら忘れました。そうすれば、死ねるだろうと。苦しさは続くけど、強烈な痛みに襲われることはないだろうと。」
話している彼女が一番辛いはずなのに、王女様は握られた僕の手を包み、ゆっくりと開いてくれた。
「でも、私は死にませんでした。貴方様が来てくれたのです。他の誰でもない貴方が、私の髪を乾かして下さりました。始めてです。何年と生きてきて、私を、王女でも何でもない私自身を心配して、助けて下さったのは。」
僕の手に自らの手を重ねて、王女様は語り続ける。
「そんな貴方の名前すら、私は知りません。ただ、唯一知っていることがあります…………それは、」
「それは…………」
間が大きすぎて、聞き返してしまった僕を王女様は、慈愛に満ちた眼差しで見つめ、
「それは、貴方が誰よりも強いということです。」
そう、言った。
あれ………何だろう、目から……
「大丈夫です。貴方なら何にだって出来ます。頑張らなくてもいいです。唯生きて下さい。信じて下さい。」
涙が………
「貴方は私にとって…………唯一の英雄ですから。」
王女様は僕の頭をゆっくりと、一度だけ撫でた。
「ギィイイイイイイヤアアアアアアァァアアアアグゥウウウアアアアア!!!!!」
それと同時に
「ヤバい!!!もうそこだぞ!!!」
「アイツ、王女様狙ってないか!!?」
「おい、坊主、王女様逃げろ!!!」
冒険者達の叫び声も聞こえた。
「王女様ぁっ!!!!」
そんな一際強い声に合わせて、あの強そうな騎士さんが庇おうとしてくる。
しかし、残念なことにそれはあの化物の前には意味を成さない。
「ギィイイイイイイウウウゥゥウウウ!!」
再びドラゴンの叫び声が響く。
「いってらっしゃい」
優しく押し出された僕は青く滲む視界の中、真っ青な空へと飛び出した。
「いや、英雄ではなく…………魔王……でしたかね…」
王女様の告白はそこまでは聞こえたが、
「グギャィィイイイイヤァァアアアアアアアアアアアアアアアアア」
その先は
でも、きっと、多分『愛しています』と、そう言っていたのではないかと。
そうであればいいなと、僕は思うのだ。
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