幕間 出会い
Ver.魔王
ダンジョンの管理者として
はっきり言ってここの日々は退屈なんだ。
魔王としての職務も、戦うことも、食べることも出来ない。
なのになぜか死なないし、死ねない。
もはや呪いと言っていいダンジョンの管理者としての役目。
ダンジョンの管理者といってもやることは何一つない。100層まで挑戦者が来たら、試練はしないにしろ顔を合わせることは出来るだろうが、それもなし。
「はぁ。暇すぎて死にそうだな。」
そうつぶやいてみても、虚しいかな。ただ自分の声が響くだけ。
仕方ない。ふて寝してやろうか?
と、眠りにつこうと思ったときだった。
何十年ぶり………というか、私が管理者になってから初めて
数は4。
人間の男と、フェンリルの雌と子供、そしてスライム。
なんとも歪なパーティーだ。
フェンリルというと数も限られてくる。
私の知る限り雌はあいつ一人だった。
同じくフェンリルの雄に随分とご執心な奴だ。
話せるかと期待したし、喉の調子なんかも整えたが、期待外れ。
神獣親子とスライムは眠ってしまった。
「話すのはおあずけか。」
そう思ったが、人間の男は耐えていた。
「ほぅ、お主あれに耐えるか。」
そう言葉が出てしまっていた。
人間もそれが聞こえたのか、警戒を強める。
慌てて私は、
「久しぶりの客人だ、眠った奴らが試練を受ける間、君には特別試験としよう。」
そう言い、辺りを覆う霧を散らす。
私は久しぶりの会話だ、しかも相手は人族ときた。ここは私の魔王としての威厳を見せつけてやろう。
そう思い、ローブのホコリを払い、表情をかたくし、弱めに魔力と威圧を放つ。
「初めまして弱きものよ、我が名はローズド、敗北の魔王だ。」
おお、ビビってるビビってる!!
人族の男が怯んだのを見て私は威圧はそのままに言う。
「まぁまぁそんなに警戒するな、ほれそこに座れ。」
意外にも男は座ってくれた。
しかし、彼はなぜ髪を伸ばしてひらひらの服なんて着ているのだろうか?
私の知る限り、あの格好は女のものだった気がするが………まぁ、流行は変わるのだろう。
そう納得したが、やはり気になってしまうので、少し彼の記憶を拝借しようと魔法を使う。
が、少し加減を間違えて直近の記憶だけでなく彼の記憶の全貌を知ってしまった。
久々に使った上に一気に他人の人生の記憶すべての情報がなだれ込み、頭が痛くなってしまった。
頭痛が痛いというやつだ。
しかし、何というか…………。彼は大変な人生を歩んできたのだな。
今はそれは置いておいて、やっぱり流行は変わっていなかったらしい。よかった。
彼が特殊なだけだった。しかし昔と違い、多種多様な服装があるのだな。まぁ、異世界のものだからこっちのは違うのかもしれんが。
さて。
私は気を切り替えて、男にこのダンジョンの仕組みを話す。余りにもしっかりと聞いてくれるから、私の昔の話なんかもしてしまった。
でも、どうしようか。彼はあれで倒れなかったんだから、試練は合格なのだろうが………あの記憶を見てしまったからには、
それに、彼なら。彼になら私の最後を託してもいいかもしれない。ここで縛られ続けるのにももう飽き飽きだし。
けじめをつけるにはいい機会だろう。
男ーーーー少年に私は新しく作った試練のことを話す。
「さぁ、始めようか。」
私がそう言うが、彼はあまり乗り気ではないらしい。
ーーーーでも、そんなことは構わない。
老人というのは聞き分けが悪いものなのだよ。
私は構えてくれた彼にいつぶりかの剣を振るう。
◇ ◇ ◇
少年と剣、魔法で戦ってみたが、なかなかに強い。
賢者という
でも、こっちに来て短いので実戦が足りない。
私は少年にできる限りの知識を教え、学ばせた。
剣の方は、彼なりに考えがあり自分の力で強くなりたいらしいし、私もそれに共感できたので少し教える程度に留めた。
さぁ、魔法もかなり馴染んできたようだし、最後の関門と言ってもいいあれを教えるか。
魔級魔法について説明したら私は結界だけはり部屋の隅に戻った。
久しぶりに力を使いすぎたのか、腰をやっちゃったみたいだ。
なんというか、、、不甲斐ない。
私はポケーっと少年を眺める。
こめる魔力量を高めたり、質を高めたり色々しているがいまいちうまく行っていない。
◇ ◇ ◇
少年に疲労の色が濃く見えだした頃、スライムが試練を突破した。
私は腰を抑え立ち上がり、
「おおっ!スライムが初の突破者とはこれまたたまげた!」
そう称賛する。
だか、スライムはさほど嬉しそうにせず、少年をなにか言いたげに見つめる。
彼はそれに気づき、自分も突破しろということかと聞くと、スライムは跳ねる。
それを聞いて、再度彼は集中する。
「あっ!」
少し経つと大きな声で叫んだので、私は言う。
「気づいたか。」
すると、彼は確信を持ってこう呟く。
「違いは………無い?」
うん。合格点だ。
それから私は魔法について、仕組みとイメージが大事ということを教えてあげると、彼はしっかりと理解してくれた。
ーーーーさて。ここまでかな。
私が仕上げに、殺してくれと告げると彼は苦しい顔をして、歯を食いしばる。対して私は何故か清々しく、晴れ渡るような気分だった。
少年は少し考えたあと、
「本当にいいのか?僕なんかで?」
こう、私を見つめる。
ーーーー私が出来ることはした。
私は彼に優しく、心から告げる。
「君でいいんじゃない。君がいいんだよ。芯望 唯一君。私を開放してはくれないか?」
最後の言葉は言うつもりが無かったが、勝手に出てしまった。
私は心の何処かでこのダンジョンの縛りから早く開放されたいと願っていたのだろう。
魔王ともあろうものが、情けない。
ーーーー君にすべてを託そう。
「なっなぜ?その名前を?」
「ふふふ、魔王をなめるんじゃあないぜ。それより、ほら早くしなさい。これが最後なんだから。」
私は本心を誤魔化すようにそう言って両手を上げる。
「魔王ローズド、本当にありがとう。あなたは僕の中でずっと勝利の魔王です。安らかにお眠りください。」
少年は泣きそうなのを隠すこともせずそう言って魔法を発動させる。
ーーーー君ならできる。出来るじゃないか。
彼の練り上げる魔法はとてもキレイで、幻想的で、なにやりも優しかった。
彼は作った黄金の矢になにかの魔法を施していたが、多分運気上昇とかそんなのだろう。
ふと、顔を上げると少年は目尻に涙を浮かべた。
ーーーー他人なんてどうでもいいと言いながらも、他人を思い、泣くことが出来るじゃないか。
少年は同じく黄金の弓を作り、そこに矢をつがえる。
ーーーー他人を信じないと言いながらも、他人を信じ、手を差し伸べることが出来るじゃないか。
弓矢を私に向けてから、一度目を逸らし涙を拭うと、少年は私をじっくりと見つめて、ぽつりと嘆くように言う。
ーーーー他人を見捨てると言いながらも、他人を助け、
「穿て、
ビュウウウン
矢が私を目掛け飛んでくる。
これから死ぬというのに、何故か『綺麗』。それしか思えなかった。
「ありがとう。賢者の宿り木、芯望 唯一よ。」
遺言のように呟いた言葉は彼に届いたのだろうか?
そんな風に思った瞬間、視界が光で埋め尽くされる。
◇ ◇ ◇
Ver.フローラ
不甲斐ない。
その一言だった。
長い間待ち望んだ子供が産まれ、我はその身を守る方法を教えるため、ダンジョンへ連れて行った。
神獣の子供というのはとても狙われやすい。
人は希少価値が高いので狙い、魔物たちは将来大きくなって自分たちを殺すのを防ぐため、幼いうちに殺しておこうと、狙う。
そんな娘を守るのが親の努めなのだが、やはり自分の身を自分で守れなきゃ、魔獣………はたまた神獣としては生きていけない。
だから、生まれてまだ何十時間も立たないうちにダンジョンへと連れてきたのだが………。
不甲斐なく、狼共に娘を攫われてしまった。
攫っていった奴らはもう巣へ戻っただろう。
まだ殺されていないか?生きているか?辛い思いはしていないか?痛くないか?
そんな風に思っても、我は目の前の狼どもを倒して娘のもとへ駆け寄ることが出来ない。
倒したら、遠吠えで知らせられることが目に見えている。
その時点で、娘を殺された時点で我の負けなのだ。
こんな時に、奴がいればと思う。
死んだと分かっていてもやっぱり、辛くなると思いだしてしまう、あの傷が入った顔を。
でもこの場面で、この絶望的な場面で我を助けに来る奴はもうこの世にいない。
ビン!
我の探知に一人の人間とスライムが引っかかった。
普通なら人間とスライムになど縋らないし、縋ってもこの狼共を倒せないだろう。
でも、ここはダンジョンの中だ。ここまでこれたということは実力があるのだろう。
そして何よりも、人間からは知っている気配がした。
いつも冷静で、強がりで意地っ張りで、負けず嫌いな彼の気配だ。
私が初めて話した人間でもある彼。もうとっくの昔に死んだと思っていたが、この人間からはそれに近い気配を感じる。
藁にもすがる思いとはこのことか。
いや、今回は彼の気配がしたというポイントがあるから、藁ではないのか?
そんなことを思いながら我は念話を飛ばす。
『お主、そこの
結果、この人間に助けを求めたのは………………大正解だった。
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