第138話 愚者の独白ー前ー
昔々、はるか昔。それは、勇者の活躍した時代。
勇者パーティーには、賢者と言う者がいた。
彼は大賢者と呼ばれ、聡明でとても優しく、慈悲深い人だったという。
そんな彼のもとには、多くの弟子が集った。
その中に、男……Xもいたらしい。
Xは他の弟子たちとともに、賢者を支えた。
勇者パーティーは順調に歩を進め、ついに最後の決戦。魔王と勇者パーティーのすべてをかけた戦いに差し掛かろうとしていた。
人類の命運を決める戦い。その旅に、弟子たちはついていくことができなかった。
最後は勇者パーティーだけで行くと決めたのだそうだ。
残された弟子たちは大賢者を信じて待っていた。
そして、結果は勝利だった。
人類は、魔王に打ち勝ったのだ。
だけど、それはあまりにもギリギリの勝利だった。
勇者パーティーで生き残ったのは、賢者ただ一人。
友を、仲間を、自らの全てと言えるそれらを失った彼は次第にやつれ、自室にこもるようになった。
弟子たちはそんな彼を支え、側に寄り添った。
そんなある日、大賢者の部屋から光がした。
そして気がついたときには…………
「大賢者様はいなくなり、私たちは、死ななくなっていた」
男、Xはどこか悲しげな顔でつぶやいた。
「死なないというのは、少し不適切かもしれない。剣で刺されれば死ぬからな。言うならばそう、老いなくなっていた。自然的には死ななくなっていたのだ。」
彼はうつむきながら話を続ける。
「ずっと、ずっと信じてきた大賢者様がいなくなって、私は困惑した。どうしたらいいのか分からなかった。けど、彼のことだ、何か意味があるのだと思った。負いなくなった私達は、何かをなせるのだと思った。」
拳を握りしめた彼は、当時を思い出すようにゆっくりと語る。
「けど、その何かがわからなかった。わからないまま、ずっと何もなく生きる日々が続いた。最初は十数人いた弟子たちも、魔物に襲われたり人に殺されたり、長い時間の中で死んでいき、最後には私を含めてたった3人になった。私達はもう疲れていた、永遠の時間は人の身には辛すぎるのだ。」
悲しいような声でつぶやいた彼。
その影には、今までの狂人はいなかった。
穏やかで凛とした、賢者の弟子がそこにはいた。
「そんなある日、残った3人うち一人……Yが言った、賢者様は、自らを復活させるために私達を生かしたのではないかと。私達はそれだと思った。暗闇に、光が刺したような気がしたのだ。」
彼は顔を上げて、遠くを見つめる。
「思い込みたかったのかも……しれないな。目的のない永遠は、光のない暗闇は、あまりにも辛すぎるから。」
その言葉は、他のものに比べてもより一層力が、思いがこもっていた。
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