第115話 男はつぶやき、話して、叫ぶ
レストの武道会での戦いなんて、世界からすれば微々たること。
今までレストの関わってきた事件。
水の精霊王のものも、キュオスティのものも、その全てに不可解な点があった。
まるで、誰かが糸で操っているかのような……違和感が。
女教師がつぶやいていた、『X様』。
キュオスティをおかしくさせた『謎の男』。
その二人がもし、同一人物だとすれば……。
「さぁて、」
男はまだ、あの美しい街にいた。
相変わらずの、ウェイターの格好で丘に立ち、美しき街を見下ろしながら、彼は嗤う。
「準備は完璧だねぇ」
周りに誰もいないのに、彼はまるでそこに誰かがいるかのように話しかけた。
『………ト……………ニ………ガ………』
するとどうだろうか。何もないはずの空中から、ノイズ混じりの声が帰ってきた。
「りょーかい。てか、アタシぃ、組織って言ってもあんたとトップのあいつしか知らないんだよねぇ。」
『…………ガ……ク……ゼ…………ニ……』
「あははは、まあ知ってどうにかなるもんじゃないか。私達は、求めるものはみんな同じ。あの方だもんね。」
会話を続ける男は、惚れ惚れするような恍惚とした笑顔でつぶやく。
「てか、私のやってきたの結構大変だったのに全部撃退されてんだけど、アンタ何か知らない?」
『……カ……………ギ…………』
「えー。じゃあ何、どっちの事件もたまたま通りすがりの英雄さんが解決してくれちゃったってこと?それなんか変じゃない?」
『…………ハ…………スル…………』
「はいはい。分かったよ。今回は準備バッチリだし、私が直々に見守ってるからね。そう簡単には防がせないよ。じゃ、バイバイ」
男は一方的に相手との通信を切って、空を見上げる。
「ふふふ、待っててね王女殿下ぁ。私達が、君のこと有効利用してあげるからぁ。」
男は、実に楽しげた表情で衝撃的な言葉言い放つ。
「あぁ、あの方はどこにいらっしゃるのか……!!あなた様を愛し続けて、もはや数えられないくらいです!!!!あぁ!神よぉ!!賢者様よぉ!!!我らにサチアレェェええ!!!」
男が背中を人間ならありえないくらいの角度まで、反らせながら叫ぶと、
「バイトリーダー!!もう手一杯です!!!」
後ろから駆けつけた紺色エプロンの少女に声をかけられた。
「ごめんね!すぐ戻る!!」
狂人はなぜか、この街で普通に働いて、しかもちゃっかり昇進しているようだ。
「ニ番テーブル様お会計でぇーす!!」
オーナーがいないときにはフロアを仕切るようになった男によって、またしても賢者と王女は、難解な事件に巻き込まれていくのであった。
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