エピローグ 金色の後悔
「最初は、ただのいじりだった。中学校から……って言ってもわかんねぇか、昔からやってきたことだったんだ。俺はそうやって人間関係を作ってきた。ただ、それはいけないことだった……。火種に……なってしまうことだった。」
それははじめは小さく。
「高校に行って周りのレベルが上ったことへのストレス。それを徐々にそいつにぶつけるようになって、周りもそれに乗っかって。相手は何も言わなかった…………いや、言ってたのかもしれないな。少なくとも、そいつの顔を一度でもちゃんと見たことはなかった。」
時に償いのようで。
「そうやってどんどんエスカレートして、燃え広がっていって、俺も周りも気づかずに、いじめになった。不思議なことで、当時は微塵も悪いと思わなかったんだ。ほんと、バカみたいだけど。それが普通で、当たり前だった。絶対に、おかしかったのに。」
時に自戒のようで。
「火は燃え続けていたとき、俺らの環境がガラッと変わる事件が起こった。それで、その相手は姿を消した。そして俺は中途半端な力を手にして、燃料を注がれて。さらに増長して燃え盛っていった。」
時に真実のようで。
「炎は燃えてとても熱くて、怖いけど……便利だ。けど、燃え続ければいつか終わりが来る。燃料が切れれば、炎は消え、残るのは灰のみ。」
時に比喩のようで。
「俺もそうだった。周りが愛想を尽かして裏切られて、今度は俺が燃やされる側になった。思えば当然だ。当然のことで、自然の摂理なんだ。」
時に辛苦のようで。
「ただ、一つ。俺には灰以外に残ったものがあった。」
時に喜びのようで。
「ずっと側にいて寄り添ってくれる人がいたんだ。俺はそいつを守ろうと決めた。覚悟を……決めたんだ。」
時に岐点のようで。
「勿論、そんな事を言っても、俺がやった罪は消えないし、やられた相手は許してくれない。許されなくて当然なんだ……。」
時に請願のようで。
「あいつは今何をしているんだろう。俺が言うのも何だけど、幸せに……暮らしているといいな……。」
終わりは願いだった。
「ごめんな。長々語って。てか、そもそも俺は何でいきなりボコられたんだ。」
赤井は喋り終えた晴れやかな顔で、そう笑う。
このまま僕は何も言わずに去って。
心のなかでは許して、仲直りの大団円でハッピーエンドーーーー
ーーーーそんなふうには絶対にさせない
ふざけるなよ。
何分かった気になってるの。
分かるわけがない。
理由のあるいじめと理由なきいじめが同じわけないし。
そもそも、火を着けたのは紛れもなく自分自身なんだから。
それで火傷しようが死のうが、それはただの勝手な自爆だろう。
だから僕は、彼を正面から見つめて。
「自業自得」
そう、吐き捨てるようにつぶやいた。
「は?」
言われた言葉が理解できないと、赤井が間抜けな声を出す。
「ふざけるなよ。そんな綺麗事言うんじゃねえ。てめぇが、何したと思ってんだ。何を……やったと思ってんだ。」
僕は見たくもなかった彼の顔を見つめ、強く言う。
赤井は本当に意味が分からかいという顔で、ただ当事者意識はあるようで、その手は震えていた。
「燃え尽きた?はっ、ざまねぇぜ」
僕は、彼のことなんて知らず、ただ一方的ななんの生産性もない追求を続ける。
「やられていた方は……もっと苦しかった…………んだぞ……」
怒り一辺倒だった声は、そこで途切れた。
もう僕は、ダメかもしれない。
このまま、このまま行ったらもう戻れない。
僕もただの、弱者になってしまう。
このこみ上げる感情。
怒りでも、悲しみでも、喜びでも、痛みでもない。
そのすべてが複雑に絡み合った、簡単には言えないような感情。
それは、今まで溜めて我慢してきた分とても大きくて、僕がどうやっても抑えきれそうにない。
もし、これが赤井の姿を見る前の、純粋な憎悪嫌悪だったら、もっと楽に処理できた。
恨む。憎む。悪む。怨む。
その全てで、自分以外に感情をぶつけることができた。
けど、今のこの気持ちは。
それに、本当に言葉では言えないような感情が混ざっているから、余計にたちが悪い。
「お前は……!!?」
俯いて、なんとか感情と戦っている僕に、何か気づいた赤井が声をかける。
それには、驚きに恐怖が混じっていた。
適当な名前でごまかして、たち去ろうとするが。
2.3歩踏み出したところで、僕の体は勝手に振り返り、口は動いていた。
僕は、いい人になりきることも、悪い人になりきることもできないみたいだ……。
「諦めんなよ」
「っ!!!!」
小さくつぶやいた僕に、赤井が声にもならない声で驚愕する。
「お前はっ!!!?」
そうさっきと全く同じ問を投げた彼に、僕は歩きながら、
「君のことが、世界で一番嫌いな人」
と、それだけ言って立ち去った。
彼は、これからどうするのだろうか。
それは僕には関係のないことだ。
完全に許すことはできないし、今でも彼のことを認めてはいない。
けど……彼の決めた覚悟は、信じようと思う。
ーーーー頑張れよ、最低最悪な赤井咲夜
「っ!!!!」
赤井は、レストの去ったあともただそこに呆然と立ち尽くしていた。
そして、ある時。その拳を見つめて、
「ありがとう。そして……ごめんな……。」
そんな、言う権利すらないと本人には伝えられなかった、謝罪の言葉をつぶやいた。
彼は、今後どうするのか。
それは誰にも分からない。
ただ、本気を出した『勇者』は、強いーーーー
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