第4話 変身!

ブン ブン ブオン


あたりに風を切る音が響く。


僕は目を閉じてゴブリンの剣術を真似、更に向上させようと素振りをしていた。


目の前に強い敵がいると想定し、剣を交わすイメトレだ。


「ふぅ、かなりたったかな?」


僕は空を見る。完全ではないが日が落ちてかなり暗くなっていた。


幸いなことに僕がいたところは少し開けていたので、木の枝を集め、木の葉を置き火を点ける。


火を与えよ優しさで包む着火ティンダー


木の葉から細い枝にそこから太い枝にと炎は大きくなる。


少し離れたところに余った木を置き、念のため更に木を追加する。


「はぁ、疲れた。」


僕は空を見上げる。

太陽の代わりに星が光り、月があった。


地球と変わらない光景に僕は苦笑いする。


立ち上がり、そばの木の太めの枝を切ってまた座る。


表面を剣で削り、中をくり抜く。

かんたんだが、コップだ。


僕はそこに水を出す。


水を与えよ哀しさで包むクリエイトウォーター


久しぶりに飲んだ水は美味しかった。


食欲はまだわかない。


僕は火に手をかざし、自分の下半身を見て苦笑する。


こんな世界に来てまで、セーラー服を着ることになるとはね。


…………そこで僕は思いつく。


見た目を変えようと。


今までのセーラー服や服を変えただけならすぐに日本の奴らにバレてしまう。


顔を変えるのが手っ取り早い方法だが………それは嫌だ。


この顔が原因で虐められたし、苦労も沢山した。

でも、両親愛する人達から貰った体を変えるのは、嫌なのだ。


かと言って、髪型を少し変えても簡単には日本顔を誤魔化せないだろう。


今の僕の髪型は長めの男子とも短めの女子とも取れるショートカット。


女装が引き立つという理由でクソ野郎共赤井達に切ることを禁じられてたのだが。


これを短くするのではなく、逆に背中くらいまで伸ばしてみたらどうだ?


「ふふ………ふはは……ハッハッ!!」


考えると笑いが溢れてしまった。


奴らからすれば僕へのいじめの象徴であり、自分たちが上にいると思える姿、女装。


僕からすれば虐められる原因であり、負の象徴。今まで負しかなかった、強制されてやらされていた姿、女装。


それに女装に今度は振り回されるのではなく、僕が自分から、自分で選んで利用してやるんだ。


悲しいことに僕は女顔だ。そんな僕が髪を腰まで伸ばし女物の服を着る。


そんな僕を見て彼らは何を思う?


たとえ僕の名残が見えたとしても、『自分からやるわけない』とその可能性を完全に捨てるだろう。


異世界人の男の僕からと真反対の現地の女。


最もしたくない姿であり、最もさせられてきた姿。


日本人クラスメイトとのいざこざから離れるのに。そして何より、彼らの手いじめから離れた象徴として、彼らがやらせてきた姿を使って利用してやるのさ!


奴等に一矢報えた気がして、僕は早口に魔法を唱える。


ものを作ろう紡ぎ織りなし生み出せ創造クリエイト


僕はイメージする。白を基調とした服を。


目を開けると、白を基本とし、アクセントに黄色や青をあしらったワンピースがあった。


僕は今着ているセーラー服を脱ぎ、その服を着る。


肌触り良く、僕のサイズにぴったりだ。


見た目を変えよう姿は変わる変身チェンジ


僕は魔法で髪が白色になり背中まで伸ばし、目は水色から黄色の淡いグラデーションの宝石眼にする。


「これで僕とはわかるまい!奴らもまさか気付かないだろ!!ハハハ!」


僕は達成感を心から感じ、意識を手放した。


 ◇ ◇ ◇


「んっ……んんっ。」


目をあける。


昨晩焚いた焚き火はもう消えて炭だけになっていた。


「んっ、、、んんー!」


背伸びをし、軽く体操をする。


服の袖を掴み広げてみる。特に違和感はない。

新しい服だし、自分で作ったから変なところや違和感があるかと思ったが、快適でぐっすりと寝られた。


そこで僕は足元に目を向ける。


「これ………どうするかな?」


そこにあるのは今まで着ていたセーラー服。

日本のものだし売ったらかなりのお金になると思うが、足がついて僕のことがバレそうだし……でも、燃やすのも勿体ない。


と、そこで僕は一つ思いつく。


物をしまえ広き空間収納ストレージ


っ出た!!


僕は頬を緩める。そこに生まれた空間の歪み、それは間違いなく僕の見覚えのあるものだった。


異世界転生系の定番とも言っていい、空間収納。

それを使うことができたのだ!


僕は嬉々として昨日回収したゴブリンの魔石とセーラー服をそこに入れる。


閉じていいと念じるとその空間の歪みは消え失せ、普通のものになった。


さて、今日は何するかな?


剣術はゴブリン達のは粗方修正も体に馴染ませるのも終わったし、新しいのを覚えるには敵と戦わなきゃいけない。


僕的には今日は何とも戦わず、明日から戦闘に入りたい。


………よしっ!決めた。今日は魔法を練習しよう。


【全属性全範囲全魔法術】


なんてチート中のチートみたいなスキル持ってるんだから使わないと損だ!


体感的にだと昨日使ってたのは初級から高くても上級だ。


選択画面で見た感じだと、初級、中級、上級ときて、王級、星級、神級となるらしい。


できれば上級を完璧に、星級くらいまでは触れてみたい。


「まぁ、魔力切れが起きたらどうしようもないんだが。」


アニメとかだと使うとどんどん魔力量が増えるってのがあったんだが。


だいたい幼少期じゃないとそのチートは発生しないんだよな。


そう思いながら僕は立ち上がり、今いる開けた場所の端まで歩く。


そしてそこから反対の端を見る。


「まずは中級から………やってみっか!!えっと…………風を紡ぎ泣いて矢を重ね恨んで折を成す叫ぶ風の刃ウィンドカッター


僕が空へ向け放った魔法は空気を切り裂き進み、少し経って発散した。


「これは問題ないっと。次は上級か。」


昨日使ってたのは主に中級だったから、明らかに上級の攻撃魔法を使うのは初めてだ。


ちなみにこの中級、上級というのは思い浮かべると賢者さんが星の数ほどある魔法から選んでくれる。


まじ、賢者様々だ!


僕は手を空へ向けて構える。


風を重ねる。高く高く、薄く薄く風は起こり、怒る風の怒りウィンドアンガー


さっきよりも大きくて速い風の刃が空へと向かう。


これも少し経てば発散するが風を切る音が違かった。


僕は更に構える。


「………水の怒りウォーターアンガー。」

「………火の怒りファイアアンガー。」

「………土の怒りアースアンガー。」


それぞれ左手、右手、頭上に現れた魔法は3色で入り混じり空へと消えて行く。


「更にっ!」


「……光の怒りライトアンガー。」

「……闇の怒りダークアンガー。」


初めての属性だったがうまくいった。


まばゆい光の玉と漆黒の玉が混ざって空へと伸びる。


「全適性はいけるか。」


僕はほっと胸をなでおろす。


もしもこれでどれかが使えないとかなると色々面倒くさい。


それに、適正で威力は変わらないと思うからこれからは各級につき1回しか魔法を撃たなくてすむ。


つまり、魔力温存ができる。


「そうと決まれば!!!」


僕は大きな声で唱える。


冷淡な水はすべてを濡らし、優しさは仇となり、すべてを泣かせる賢さは弱点となる水の王ウォーターズキング


ドンッという衝撃で僕の体がのけぞる。


手から離れた水は勢いを増し、周りの木々を巻き込み、空へとあがく。


その威力は上級以下の魔法と比べ物にはならない。


僕は1メートルほど大きくなった森の空間を見て思う。


「これが………王級魔法術、魔法の王!」


 ◇ ◇ ◇


今僕は攻撃魔法をやめ、探索魔法を作れないか模索している。


探索魔法とは、よくわからないがイメージだと魔力が周囲に広がって、敵や味方などを区別できるとかいう感じの魔法だ。


賢者に聞いてもそんな魔法は知らないというので、なら作ってやろうと思ったのだ。


今やってるのは魔力を僅かに周囲に飛ばし、その跳ね返りのほんの少しの違いにより、相手の種類を、読み取るというものだ。


これは僕一人ではできなく、賢者様の力が不可欠となる。


この方法のメリットでもデメリットでもあるのがは、知らないものだと味方か敵かわからないが、一度見つければその違いがわかるというところだ。


「帰ってくればいいんだけど………」


僕はさっき放った魔力の跳ね返りを待っている。


……………キタッ!!


跳ね返ってきた魔力の波動から、賢者様がこのあたりの地形やそこにいる動物などを僕に知らせてくれる。


これがどのくらいまで飛んでいるかわからないが、この近くに魔物はいないそうだ。


 ◇ ◇ ◇ 


「710.711.712.713.714.715……ここまでか。」


僕は目の前の大きな木に手を触れる。


この木はさっき僕が探知した中で一番端っこの木だ。


僕の歩幅を70cmとして、715歩。つまり約500m。


これが僕が探知できた最大領域。


「まぁ本気を出せばこの3倍位はいけるんだけど…。」


僕はその木の上に登り、周りを見渡す。


「なにもない………か。」


そこから見えたのは何もないが有るというか何と言うか、見渡す限りの木。たまに現れる開けた場所と川。それ以外は呆れるほどの木。


将来的にはこの森から出たいが………。


「それは強くなってからだよな。」


現状僕は魔法ではかなり強いと思う。

だが、この力は僕の努力によるものではなく、与えられた力チートによるものだ。


それに、この世界には僕より強い人がもっといるだろう。


その圧倒的な力を前にして、日本にいたときと同じように、屈してしまってはなんの意味もない。


僕はこの世界で誰の言いなりにもならず、僕の好きなように自分勝手に生きていきたいのだ。


「その為にも………強くならないと!」


その目標を掲げ、僕は木から飛び降りて広場に向けて走る。


「剣をふろう!!」


その後、僕は剣を振った。

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