第62話 前に進めば前進
「ありがとう……」
マッソの居なくなった部屋で、扉へともう一度感謝の言葉を述べた。
「ふぅー、疲れたぁ」
使っていないが凝った気がする肩を回しながら部屋の奥へと戻る。
「ふぃーー!」
客人がいなくなったのが分かったのか、足にすり寄ってくる青色のプルプル。
「スロ………」
思えば
フローラやスロに当たっても意味のないことなのに。
「よーしよしよしよし」
スロの表面を撫で回す。
程よい弾力とプニプニ感がたまらない。
「ふぃーふぃ!!!!」
スロもご機嫌良好でぴょんぴょん跳ねる。
「お風呂………入ろうか?」
「ふぃっ!!!」
激しく頷くのの代わりに、スロは激しく跳ねる。
どうやらお風呂をご所望のようだ。
今までも自分はもちろん、スロも風呂に入っていたがやはり剣呑な雰囲気は嫌だったのかな?
ちなみに、ニルとフローラは勝手が違うらしく僕が入れないでも、いつもきれいだ。
…………羨ましい。
「しゅっぱーつ!!!」
「ふぃー!」
お風呂道具を持って、部屋を出る。
『治ったかの』
部屋の中から、そんな囁きが聞こえてきたようなこないような気がした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ふぁぁああああ!!!!!」
どうもみなさんこんにちは。
お風呂で奇声を上げる変態こと、レストです。
「いや、やっぱ風呂だよね。さいこーだよ。」
だだっ広い湯船に僕とスロの一人一匹のみ。
だだっ広い浴場自体にも僕とスロの一人一匹のみ。
「かいほーーかーーーーん!!」
今にもお湯の中で泳ぎだしそうなくらいだ。
もちろん、実際には泳がないぞ。
それはマナー的に駄目だからね。
他人が見てなくても、自分が見てる。お天道様が見てるって言うし。
まぁ、今は夜なんですけど。
そんなことはともかく、今はこの天国を楽しもうではないか。
「ふぃーーーー!」
スロもプカプカと浮いて元気そうだ。
温かいお湯に使って溶けたりしないのか疑問ではあるが、ここは魔法ありの異世界だし、気にするだけ無駄だ。
「前を向く…………か。」
誰もいないお風呂の中、僕が呟いたその言葉はすぐに消えていった。
◇ ◇ ◇
「ただいま」
スロを抱えたまま部屋に戻ると……
「おかえり」
……フローラが返事をしてくれる。
決まりきった定型文。
なのに、僕の心はとても暖まった。
「ふぁぁあ…………寝るか。」
普段はここで剣を握るのだが、今日はお休みしよう。
「…………。」
ベッドの前で背伸びしていると、ニルが無言ですり寄ってきた。
「ごめんね………色々と…」
今までもこういう事があったが、軒並み無視していた。
その免罪符にと、僕はいつもより優しくそして激しくニルを撫でる。
黄金の毛が草原のごとく揺れ、柔らかな感触が手に伝わってくる。
「お前…………大っきくなったか?」
ふと、ニルの体に目をやるとどこか成長しているように思える。
今までより一回り………なんなら二回りくらいおおきくなってる。
「子供の成長は、早いもんだねぇ」
それでもまだまだ抱えられるほどの大きさのニルを持ち上げ、そうしみじみ呟くと、
「ぶっ……お前親でもなかろうに。というかまだお前も子供だろ?」
フローラが噴き出した。
「まぁ、その辺は気にしない気にしない。」
僕も笑いながら、手を振りベッドへと入る。
「…!」
「ふぁあ…」
空けておいた壁際にニルとフローラが飛び込む。
「ほらおいで」
「ふぃ!!」
ベッドに登るのに苦戦していたスロを抱き上げ、布団をかぶる。
「おやすみ」
「おやすみじゃ」
「ふぃーー」
「……!」
『おーやすみ』
みんなが立て続けに挨拶をする。
「…………。」
僕は窓越しの月を眺めて、すぐには寝なかった。
「すぅ……」
「ふぃーー…」
「…………」
3人(匹)はもう寝たみたい。
『寝れないの?』
僕が寝返りを打っていると、魔王が話しかけてきた。
「まぁね……」
暫しの沈黙中、外で鳥がなく声のみが響く。
『君は、良い友を持ったね。』
「そう………だね…」
魔王の言う通り、本当に、いい友達を持った。
日本と比べるのは違うかもしれないが、僕の人生で出会った人の中で群を抜いて彼らは優しい人だ。
勿論、フローラや魔王もそうなのだが。
「この世界の人は…………みんな優しいのかな?」
こうも会う人会う人がみな優しいと、この世界、この国の国民性なのかと思ってしまう。
『そういうわけでもないさ……。世界には悪い人だって山ほどいる。戦争だって続いているし、奴隷だってまだある。…………まだどこも平和じゃないのさ。』
魔王の僕のどこか遠い声に僕は、そうだねと呟いて、再び寝返りを打った。
体勢を変えたことにより感じる、久しぶりの暖かさに僕はすぐ眠りについた。
◇ ◇ ◇
sideーーーー
◇ ◇ ◇
「どうしようかな……。」
僕はレストの寮の前で考えていた。
カーカー
鳥のなく声につられ、空を見上げる。
「もう夕方だし………。」
空はもうすでに真っ赤っ赤だし、帰ろうかな……。
今、ヒスイがレストと話をしている。
レストを訪ねる前から何か決心したような顔をしていたので、僕達は彼女たちを二人きりにしたのだが…………。
「二人共どうしてるかなぁ?」
寮の外の階段に腰を下ろし、空を見上げながらつぶやく。
ヒスイはあの事件の主な被害者だし、レストもあの事件もろに関わってるからな。それ関係でなにか話をしてるのかな。
「うーー、僕はどうしようか?」
マッソが次は俺が話すと部屋の扉の外に陣取っていたから、僕に順番が回ってくる頃には夜になってるだろうな。
僕のすぐ近くをせっせっと歩いていくアリに問を投げかけるも、彼らはガン無視してやはりせっせっと荷物を運び続ける。
「ひどいなぁ……」
僕がアリさんの態度にいじけて空を仰いだ時、
「あぁーーーーー!!!!」
何かが声にならないような叫び声を上げながら、僕の上を飛んでいった。
「なにあれ?」
僕は体をしならせて起き上がり、その物体が飛んでいった方を見つめる。
「って、ヒスイ!!」
見えたのは奥の角をものすごい速さで曲がっていくヒスイ。
「…………レストなにか、やらかしたかな?」
僕は彼がふたりきりを良いことにヒスイになにかしたのかと想像するが…………彼に似合わなすぎた。
「レストは女の子に興味なさそーだもんね。」
自慢じゃないけど僕は結構モテる。
エルフ特有の優れた容姿と、自分ではあまり気に入っていない小ささで女の子に人気なのだ。
それと、マッソもモテる。
彼の高身長と肉体美が人気なのだ。
マッソ顔は、顔はかっこいいし。
性格は………………まぁ筋肉だけど。
ヒスイもモテる。
彼女魔法一筋なくせして、初対面の人とか公の場では騎士みたいな性格だから、女子に人気なんだよ。
まぁ、深く付き合っていけば、やはり魔法の専門家的な一面もうかがえるけどね。
じゃあレストはというと、そういった浮ついた話を全くと言っていいほど聞かない。
確かに彼は髪の毛を伸ばしているから、表情が見えづらいし、暗そうに見える。
けど、僕から言わせれば彼は原石だ。
オシャレに気を使って色々なテクをマスターすれば、絶対に輝く。
それこそ、王子様とかに並ぶレベルまでは行くと思う。
まぁ、彼自身が目立つの嫌そうだし、そんな機会は訪れないかもだけど。
「どーーしよーー」
彼とふたりきりで話すのか、話さないのか。
その選択は、僕には難しそうだ。
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