第63話 悩むフェルン
「どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ………」
すっかり太陽がいなくなった暗い空の下、僕は腕を組んでくるくると回る。
どうしよと呟きながら同じところを何周するという、端から見たらとんでもな変態行為をしているのはわかっているが、考えるのに必要なのだ。
「よし!思い切っていってみよう!!」
僕は考えてても仕方ないと、頬を叩いて立ち上がる。
「敵は二階に有り!!!」
寮の受付の人に変な目で見られたけど、気にしない気にしない。
「この部屋だよね?」
階段を登ってすぐ見えてきたレストの部屋の前で僕は言う。
「ここまで来たけど、どうすれば?中にはマッソがいるし……」
彼が出てくるまで待つか?
でも、ここで待つのは…………
『ふんぬぅ!!!!!』
「へっ?」
突然部屋の中から聞こえていた奇声に、僕も変な声を出す。
「何してる……」
『ふにゅぅうう!!!』
僕のつぶやきはさらなる奇声で遮られた。
「…………本当に何やってるの?」
まさか、夕方に男が二人きりの密室。何も起きないわけなく…………ってやつ?
二人はそういう関係だったの?
いや、まて。
万が一そうでも『ふんにゅう!!!』なんて声出すかな?
明らかに力んでたし…………。
僕の思考が煮詰まってきたその時。
『はぁぁあああああ!!!』
「っ!!!!」
また部屋の中から大きな声が聞こえた。
「戦いでもしてるのかな?」
二人は常識人…………だと思うから、室内で戦うなんてしないと思うけど…。
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから…。」
僕は気になりすぎて部屋の壁に耳をつける。
「そ…………がと……ね……ろいろ……。」
「…や……んのこれき……気に…んな!!!腕相撲……からや……みたか……し!!」
声が小さくて断片的にしか聞こえない。
拾えた単語は腕相撲のみ。
でも、その1単語でさっきまでの奇声は説明がつく。
二人で腕相撲をしていて、力んだだからあんな声が出たんだ。
「でも、なんで腕相撲?」
僕は首を傾げる。
二人は真面目な話をしてたんじゃ………。
「まぁ、マッソだしな。」
レストはともかく、マッソだもんな。
話の途中で筋肉にシフトチェンジしたんだろう。
僕は一人納得し、再び壁に耳をつける。
「……こちら……ごめんね。変な相談……ちゃっ…。」
「謝らなく………い。お……魂……も、ソウルメイト……?」
今度は二人の声が近づいてきたので、そこそこ聞こえた。
レストが変な相談?について謝罪して、マッソがそれをソウルメイト?だからオッケイって感じに受け止めたみたい。
ソウルメイト…………魂の友達?
二人が何かしらを経て、魂の友達になったって感じかな?
彼らの話の内容を大まかに捉えた僕は、ふーと息を吐いた。
◇ ◇ ◇
「っ!!お前何してんだ!!?」
「あっ、マッソ。」
暫く部屋の前で座っていると、ようやくマッソが出てきた。
「話し終わったんだ。」
「まぁな!!で、何してんだ!?」
マッソが部屋の扉をささっと閉じる。
一応隠れてる感じの僕に配慮してくれたみたいだ。
「そんなに僕のことが気になるの?」
僕は少しからかうように言う。
「いや、お前が気になるんではなく、お前の行動が気になってるんだ!!」
…………マッソには僕の技が通用しないみたい。
彼、クソ真っ直ぐだからちゃんと答えてくれている。
「レストと話そうと思って。だから、マッソとレストが話し終わるのを待ってたって感じ。」
「あぁ、そういうことか!!じゃあ頑張れよ!!」
マッソは理解したと深く頷いて、そのまま去っていった。
「何を応援してるんだか……。」
意図はわからないが、悪い気はしなかった。
「レスト、やっほー…………」
僕は元気に声を上げ、扉を開こうとしたが…………やめた。
中から深いため息が聞こえたのだ。
『疲れたぁ』
耳を澄ますと、そんな声が聞こえる。
「疲れてる…………よね。」
理由は不明だがあの事件の後すぐ帰り、そのまま部屋に引き籠もっていた彼が、僕らと会った上で複数人と二人切りで話したんだ。
そりゃあ疲労もたまるだろう。
「僕も話したかったんだけどなぁーー。」
中から聞こえてくるレストのペットと戯れる声に、その空気を壊すことはできないなと思った僕はそう呟く。
彼の身から強く発せられる精霊のオーラ。特に水の精霊について聞きたかったし、他にも彼の心とかについても話したかった。
「本当に世話のかかる友達だなぁ。」
僕はしょうがないと切り替え、せめてお土産だけでもおいておこうと、手を開く。
「彼に精霊のご加護を。」
半分おまじないみたいなものだが、精霊たちが守ってくれるというご加護。
エルフの僕に対してその効果は絶大だが、人である彼に有効かは知らない。
まぁ、本当にお土産程度のものだ。
彼も気づかないと思うし、良いだろう。
「るん、るるん、るんるん、るん、るるんる~ん♪」
僕はスキップを踏みながら階段を降りる。
会うことはできなかったが、まぁ良しとしようか。
僕の代わりに二人が話してくれただろうしね。
僕はご機嫌で家路をたどるのだった。
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