第93話 再びの図書館、久々の賢者様

「結局ここに来たね。」


僕は、本の匂いの漂うとある場所で呟いた。


「そうだな。」


フローラが半笑いで言う。


「やっぱり僕らの味方。図書館様だね。」


そう。僕らは今、寮に入る前にもかなりお世話になった図書館にいた。


人が一人に、小型犬くらいのフローラと猫くらいのニル。


本来本を読むための場所を占拠してしまって申し訳無さもあるが、そもそも人が昼にすら来ないので別に良いのではという気持ちもある。


「またしばらくの間、住ませていただきます。」


僕は図書館の本たちに向けて頭を下げた。


寮は魔法を最大限に生かして修復……………というか建て直すから、一週間もかからないって言ってたから、今回はそこまでお世話にならなくても済みそうだ。


「寮が直るまで学校は休みか。」


普通の生徒は地方の実家に戻ったり、宿を借りたりしているらしい。


まぁ貴族平民関係なしに、図書館で寝たいという人は少ないだろう。


僕もお金は持ってるから宿に泊まっても良かったんだけど、一度図書館を体験するとわざわざお金払ってまで………。となるし、何より今はお金を貯めたかった。


「ギルド行ってくる。」


せっかく学校は休みになったし、今が稼ぎ時だ。


僕は膝上に乗っていたスロを置いて、フローラに言う。


「我らも久しぶりに行きたいのだが、だめか?」


フローラがスロの上に飛び乗って言う。


スライムに乗る聖獣。なかなかのレアショットだな。


「全然大丈夫だけど、珍しいね。」


僕は持ち物を確認しながら尋ねた。

いっつもお留守番してたのに。


「別に行きたくなかったわけじゃない。ただそんな大勢で行くほどの敵でもないと思っていたから行かなかっただけだ。」


そう言ったフローラは少し不機嫌そうだった。


「そう。」


僕は彼女の気分が変わるのはいつものことなのでさほど気にせず、持ち物確認を続ける。


「今は稼ぎたいんだろ?なら、人手があったほうが高難易度のクエストを受けられるのじゃないか?」


「…………そうだね。」


僕はすべてを分かったような彼女の声に、そっけなく答えた。


なんでも分かってくれてるのは嬉しいけど、そんなことまで知られてるのは恥ずかしくもある…。


「お久しぶり賢者様。僕のギルドランクって今いくつ?」


本当に久しぶりに賢者様に話しかけた。


脳内でちょくちょく他愛もない質問とか雑談とかはたまにするけど、こうやってわざわざ話しかけるのは本当に久しぶりだ。


『D』


賢者様のかっこいい声で『ディー』と言われると少し面白い。


というか賢者様、棒読みでしたね。

英語とかアルファベットとかわからないんですか?


『…………。』


少しからかうように尋ねたら、賢者様は何も言わなかった。


質問じゃないから答えないのか、はたまた拗ねちゃったのか。


「…………お前仮にも賢者をそんなことに使うなよ。」


僕はフローラのお小言をさらっと受け流して、スロを肩にのせ、外へ向けて歩き始めた。


『君、前賢者様になぞなぞ出してウザがられてなかった?』


僕がスタスタと歩いていると、魔王様が意地の悪い声色でそう言った。


……………べ、別に話し相手いなさすぎて賢者様にかまった結果、質問すら返してもらえなくなったとか、そんなことないんだからね!!





◇ ◇ ◇





道中フローラと魔王のニタニタ攻撃に会いながらも、何事もなくギルドについた。


「ランクはDか。」


僕は依頼が張り出されたボードの前でつぶやく。


Gからちょくちょくゴミ拾いとかをしてFにあがり、ゴブリン退治をこまこまやってEにあがり、そこからちまちまと魔物退治の依頼とか落とし物を探すのとかをやってようやくここまできた。


結構暇なときは依頼を受けてたので上がるのは早いってお兄さんが言ってたけど、正直Dの依頼じゃ簡単だし安いんだよね。


最初から三段階も上がったから油断できない程度に依頼のレベルは上がってるけど、僕からすると少し低め。


まぁ悪魔やらドラゴンやらと戦うほうがおかしいし、そんな依頼が頻繁に来ちゃたまったもんじゃないから、これくらいが良いのかもしれないな。


「うーん…………」


さっきから探してるけどなかなか良いのが見当たらない。


わざわざフローラたちも来てくれたから、多少危険でもドカンと稼げるようなのが良いけど、Dランクじゃそんなのない………。


「ん?これは…?」


普通のボードから少し離れたところに小さくある、びっしりと紙が貼ってあるボードの前で立ち止まる。


「お兄ちゃん、それはやめたほうがいいぞ。」


僕がこれは何なのだとボードとにらめっこしていると、いつの間にか横にいた筋肉ムキムキのおじさんが声をかけてきた。


「そうなんですか?」


どうやら親切心で声をかけてくれたみたいだし、ここは先輩を頼ろうということで、僕は尋ね返す。


「高ランクの奴らに回しても成功しなかった、もしくは成功する見込みがないから、ギルドがしかたなく全ランク誰でもいいからやってくれっていう超危険なやつだからな。お前みたいな若いやつは金が欲しくてやりたくなるかもだが、命が大事ならやめといたほうがいいさ。」


おじさんはバンと僕の背中を叩いて、


「真面目にコツコツ努力するのが一番だぞ少年っ!!」


そう言うと豪快に笑って奥の酒場へ消えていった。


「カッコいい………」


『マジで?ムキムキがいいの?』


僕がおじさんの背中を見つめてつぶやくと、すかさず魔王に突っ込まれる。


いや、良くない?


マッソとかあのおじさんとかムキムキなのは男らしいというか、なんか強そうでカッコいいじゃん。


僕もなれるならなってみたいと思うけど。


『見た目はおいておいて、努力が一番とかはカッコよかったかな。』


魔王が少し呆れ気味の声で言う。


いや、ムキムキに何かそんな拒絶する理由ある?

魔王も細かったから実は憧れてるとかかな…。


「努力が一番ね、本当にそのとおりだよ…………まぁ受けるんですけど。」


僕ムキムキおじさんに申し訳なく思いつつも、ボードの中身に目を通し始めた。


『……………ほんと、君のそういうところ嫌いじゃないよ。』


完全に呆れながらも笑って魔王が言った。

僕も自分のこういうところ嫌いじゃないよ。


さてさて、このボードにびっしりとはられている紙たちの一つ一つが激ヤバ依頼なんだよね。


ふふふ、なんか楽しくなってきたよ。


感覚でいうとゲームでクエストを受けるみたいな?

まぁ僕まともにゲームしたことないんですけど…。


それにここは現実だからコンティニューもセーブもできないんだよ。

だから、慎重に選ばないとね。


僕は狭いボードに貼られている紙たちに目を通していく。


北の謎遺跡の調査。

天空のどこかにあるとされている空飛ぶお城の発掘。

地下深く埋まった魔剣の探索。

マグマを泳ぐ謎モンスターの捕獲。


一番上に貼られているのはこんな感じ。


これ、言っちゃ悪いけど全部迷信なのでは?

北とか天空のどこかとか地下深くとか。全部場所自体曖昧だし……。


「うーーん、やっぱりそんな上手くは行かないかな…。」


下の方に隠れてる紙も見てみたけど、全部こんな感じで、本当にあるかどうかも怪しいような依頼ばっかりだった。


僕が大人しくCランクの依頼の方に移ろうとしたとき、


「きゅっ!!」


周りの目を気にしてか小さめの声でスロが鳴いた。


「どうしたの?」


僕も一応小声で聞く。


「きゅう!」


肩から器用に腕を下っていったスロが、ボードのとある紙を刺した。


「何かな…?」


僕は他の紙の下になって隠れてしまっているその上を手に取る。


「えっと……学園都市郊外の山中に出没したウッドモンスターの退治。」


おぉ、これは他のと違ってちゃんと場所が指定されている!


しかもかなり近くじゃん!


僕はウキウキでその以来の報酬額の部分を見て…


「………………。」


黙った。

これは…………。


『見えないね。』


魔王の声が脳内に響く。


「見えぬの。」


フローラの声が現実で響く。


「………賢者様、これなんて書いてある?」


僕は何も悪いことも変なこともしてないはずなのに何故か恥ずかしくなってきて、二人の声を無視して賢者様に逃げた。


…………なんか恥ずかしいんだよ…。


『…………詳細不明』


ちゃんと真面目に解析してくれたのか、数秒黙り込んだ賢者様がポツリとつぶやく。


その声色はどこかバカにしたような、そんなこと私に聞かないでくれるとでも言いたげなものだった。


…………ごめんよ、こればかりは僕が悪いから。


「まっ、まぁ多分高いでしょう。うん。これで行こう。」


僕はちょうど報酬の部分にだけ穴が空いたその依頼書を持って受付に向かう。


『押し切ったね。』


「押し切ったの。」


…………うっうるさいわ!!!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る