第55話 分析
力は道具だ。人を守ると同時に人を傷つける。その道具を使って何をするかは、その人次第だよ…………か。
散歩後風呂に入った僕は、自室のベットに寝そべりながら考える。
「力は道具……」
口に出してみると、彼の言いたいことが少し分かったような気がした。
ちょっとこの胸のモヤモヤについて、ひいてはこの世界に来てからのことを整理してみようか。
まず、現時点での仲間というか、僕に友好的な人を挙げてみよう。
魔王、フローラ、ニル、スロは完全に味方、身内だ。
次に、マッソ、ヒスイ、フェルン君は友達。
後信頼できるのは、賢者様とか水の精霊王さんとかかな?
ギリギリで言えば、シモさんとかテイチ先生とかか。
元クラスメイトの奴らはまぁ、言うまでもなく敵だな。
次に僕のステータス的な物について。
魔法の強さがS〜特A級。
剣の強さがA〜特B級。
総合でS〜SS。
強さはダンジョン出たあたりのなので、少し上がってるだろう。
その他特殊能力とかで、魔王、水の精霊王の契約者かな?
それらを思い出したあとに、今までの足跡を辿っていく。
突然異世界に転移して、圧倒的な
そして、それを使いダンジョンを攻略し、そこで魔王となり、神獣の主となる。
その後なんやかんやあって学園に入学し、マッソ、ヒスイ、フェルンと仲良くなる。
入学すぐの合宿で事件に巻き込まれ、色々あった後水の精霊王さんと契約する。
ちなみにその精霊王さんは今は力を使いすぎたのか小さな水晶でおねんね中。
事件解決後、少しだけほんの少しだけ自分が特別で、他人から認められてると思うが、ターシャ先生からそれを否定される。
それによって精神状態が不安定になり、今こうして引きこもり生活をしていると。
我ながら結構客観的に分析できていると思う。
ここから今の胸のモヤモヤについて深掘りするとしよう。
元々日本で自分は駄目なやつだ、最底辺だと思っていた僕。
それが異世界に来て自分も普通の人間、もしかしたらそれ以上なのではと思う。
しかし、それは幻想で実はチートというものを与えられれば誰でもできる、というか誰でも通る所謂テンプレというものをなぞっていただけなのだと知る。
そこで、自分が自分である理由や存在価値、僕でなければできなかったことについて考え出し、沼にハマった。
チートを使いたくないという理由で魔法を封印し、一週間以上剣を振り続ける。
なるほどなるほど、こうしてみるとなんか変な事を変なふうに考えてるなとか思ってしまう。
…………まぁだからといってこのモヤモヤが消えることはないのだが。
でも、王子様ことエドワードさんの言っていた『力は道具。人を守ると同時に人を傷つける。その道具を使って何をするかは、その人次第。』
というので、何かパズルの1ピースが埋まった気がする。
でも、でもまだ何か足りない。
あともう少しピースが足りない。
ふと思い出したが、前にテイチ先生が漢になるために実力、夢と並ぶくらい大切なものがあるって言ってたよな。
あれ、何なんだろうか?
「まぁ、今は剣を振り続けるか。」
またドロドロとした思考の穴に入っていきそうだったから、頭を横に振り、立ち上がって剣を取る。
「ふっ!!」
ゆっくりとしていてそれでいて速い。そんな剣を目指して降る。
一週間無心で振り続けてるかいあって、空斬、光斬のさらに上にもう少しで行けそうな気がする。
「……………。」
僕はエドワードさんとは違い素振りのときにそこまで大きな声をあげない。
実戦中は無意識に出てしまっているかもだけど。
「……………。」
部屋に響くのは、剣が空を切るビュンという音と時計のコチコチという音。そして時折、フローラやスロが動く音が聞こえるのみだ。
◇ ◇ ◇
「……………。」
剣を振り続けていると、とある疑問が生まれてきた。
僕の職業は賢者だ。
職業が賢者というのはつまり、僕自身が賢者ということ。
たくさんの知識があったり、とても賢かったり、魔法に飛び抜けた才があるとかそう云うの。
なのに、僕の場合は自分が賢者なのではなくて、賢者様こと質問すると頭の中で答えてくれる渋い声のおじさん…………おじいさんかな?
まぁとにかく、僕の中に賢者様という別の存在がいるのだ。
例えば、精霊王の数と名前を質問すると、頭の中に『4種類。水のニンフ、地のピグミー。火のサラマンダー、風のシルフ。』というダンディーな声が響くと共に、網膜上に同じことが文字で表示される。
これ絶対僕が賢者ではないよね?
他の転生者たち、元クラスメイトたちもそうなのかな?
勇者だったら、頭の中に剣の持ち方とか振り方とか訓練方法を教えてくれる存在が居るとか?
…………不思議だ。
この世界には
「これから、どうなるかな……どうしようかな…………」
僕が小さく呟いた声は剣の音にかき消されて、誰の耳に届くことも無かった。
◇ ◇ ◇
すこし前に起こった学園都市の火事騒ぎ。
街では放火の線で捜査が進められているが、その犯人が捕まることも怪しげな人物が浮かぶこともなかった。
『ふふふ、ハハハハハ』
その犯人はすでに学園都市から遠く離れた国で笑っていた。
ゲームで言う中ボスの彼に届くにはまだ舞台が温まっていない。
精神面でも肉体面でもまだ未熟な主人公。
出会ってはいるが、その関係はまだまだ初期なヒロイン。
信頼しきれない友に、近いが遠い過去の敵。
意識しきれないライバルに、出会ってもいないお助けキャラ達。
そして、手に入れていない伝説の武器。
そんなものでは裏ボス、ラスボスはおろか、
まだまだレストの旅は始まったばかりであり、彼の求める落ち着いた暮らしはとても遠いのである。
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