第121話 精霊剣とはこれ如何に
昨日はそのままお風呂に入って寝た。
ふかふかの布団と広すぎるお部屋のおかげで、ぐっすりと寝れた……と思う。
「朝見ると本当に広いよな」
僕の部屋でこの広さなら、リリア様の方はどれほどなのだろうか。
王族対応だし、色んなもののランクが違うんだろうな。
「さぁて、僕も頑張りますか。」
彼女は彼女の仕事を頑張っている。
僕も僕のやること、やりたいことを頑張ろう!
僕は窓から射し込む朝日を前に、そう思ったのだった。
◇ ◇ ◇
この世界にはダンジョンというものがある。
その出来方や構造の多くは謎に包まれているが、歴史的、魔法的価値が高く、人々に恩恵をもたらしてくれる存在である。
かく言う僕も最初の頃に、ダンジョンに入って最深層まで攻略したことがある。
その時に、フェンリルのフローラ、ニル親子に出会い、元魔王であるローズドとも出会った。
あのダンジョンは魔王が最深層にいる、ちょっと変わったタイプだったし、来る人もほとんどいなかったらしいので、周りに恩恵も何もなかったが。
ここ水の都のダンジョンは、なんでも王国内でも一二を争う有名所らしい。
その理由は難易度が初心者にも玄人にも適しているからや、水の都だとギルドではなく都市が管理してるので税が少ないからとか色々あるが、その最たるものに最深層の噂がある。
未だ攻略されておらず、どのくらいの深さにあるのかも謎の最深層。クリアすればダンジョンそのものを攻略したことになるその層には、とある剣がある。
その剣の名前は、青の精霊剣。
精霊剣とは、その名の通り精霊の力が籠められた剣で、全部で六振りあるとされている。
火、水、風、土、闇、光の各属性ずつだ。
そのうち見つかっているのは、たったの二振り。
一振りは、赤の精霊剣。火の精霊の力の籠ったその剣は、古の英雄が握ったとされ今は半分かけた形で、南方の国で歴史的遺物として保管されているらしい。
そしてもう一振りは、白の精霊剣。光の精霊の力が籠ったそれは、今見つかっている剣の中で唯一完璧な状態で現在も使われている。
またの名を『聖剣』――――
ここのダンジョンにはその三振り目となる、青の精霊剣があるというのだ。
精霊剣の力はまだ不確定なところも多いが、聖剣であれば斬れぬものはないとされ、その全てに圧倒的な強さが宿っているとされている……らしい。
「本当なのかね」
僕は用意された豪華な朝食を食べ終えて、食後のお茶を飲みながらつぶやいた。
眉唾に聞こえるけど、実際に聖剣があるから完全に疑うこともできない。
幸いなことにここにご本人様がいますから、直接聞くことができる。
『そんな大したものじゃないよ。はるか昔、精霊王が皆揃っていたときに、力比べで各々の力を籠めた剣を作っただけ。確か、最終的に優劣はつけられなくて、その後は適当にそこら辺においてあったはずだ。まさか、あんなのが聖剣だとか呼ばれるなんてな。』
精霊王さんはただの昔の楽しい思い出とばかりに語ってくれた。
「えー、当の本人さんそんな感じなの」
軽いノリだが、もし見つけたら億万長者で国すら揺るがすことのできる力とか言われてますよ。
『まぁ力に関しては紛れもない本物だ。だって、我の力の八割くらい籠めたし。』
「それ、大丈夫なんですか?」
精霊王さんの力の八割と言えば相当だ。
そんなものを七振りもポイポイと振りまいては、色々と問題があると思うのだが。
『使いようだな。悪く使えば悪くなるし、良く使えば良くなる。だから、今回お前と回収しようというのではないか。』
精霊王さんが頑張るぞーと笑いながら言った。
「なるほど、そういうことですね。ちなみに、赤と白と青以外は?」
今回回収できるのは青だけ。精霊剣なんていかにも厄介そうなものを集めたいわけでは決してないが、放っておくのもどうかと思うので聞いてみた。
『知らん。ただ、我が感じる限り、赤と黄と黒は潰えたか、もう使えなくなってるだろう。』
赤と黄と黒が使えなくなったということは、残っているのは青と緑と白。
そのうち、白は聖剣としてすでに皇国の管理下にあり、青はここのダンジョンにある。
つまり、残るは緑。風のみということだな。
『多分その緑も近々ご対面することになりそうだが……』
「なんか言った?」
『いいや、なんでもない。ほら、そうと決まればダンジョン行くぞ。安心しろ、魔王のとこよりもムズいからな。』
精霊王さんがなにかボソッと言った気がするが、はぐらかされてしまった。
「それ全然安心できないんですけど」
僕は苦笑しながらお茶を飲み干して、出かける準備を始めた。
◇ ◇ ◇
「ようこそ水の都ギルドへ!!」
僕が身支度を済ませてとりあえずとギルドに来てみれば、学園都市のギルドよりも1.5倍くらいテンションの高い挨拶でお出迎えしてくれる。
周りを見渡しても誰も返事をする様子はないし、日本のスーパーで『いらっしゃいませ』に『あ、どうも』と返すことがないように、これもスルーするべきなのだろう。
「広いな……」
まず、ギルドの中を見渡して声を漏らす。
いつも行ってる学園都市のやつも結構大きいけど、こちらは更に大きい。
三階建てで、一階は完全にギルド。二階がお食事処で、三階がギルドの事務室となっているみたいだ。
何より、木で作られた円形のホールが吹き抜けになっている様は壮観だ。
入ってすぐの円形のホールには受付と依頼所のあるボードとかのみで、ホールから伸びた通路の先に詳細な施設がある。
『オシャレだね』
魔王もテンション高めに言う。
本当にオシャレかつ美しいが、同時に木のぬくもりとかも感じられる。素晴らしい建物だ。
例えるなら、京都のコーヒーショップとかパーケーキ屋さんとか。伝統的でいて、最先端というやつだ。
「お客様、如何なさいましたか?」
僕が吹き抜けを見上げて惚れ惚れしていると、女の職員の人に声をかけられた。
「いえ、とても綺麗だなと思いまして。」
彼女はギルドの制服に身を包んで、常に背筋を伸ばして微笑みを浮かべているような模範的なお姉さんだった。
「こちらはギルド水の都支部が開設してからずっと使われております。コンセプトは生きる建物でして、軽い傷などは勝手に修復されるという不思議な建物です。なんでも、形も日々移ろい行き、全く同じ日は二度とないのだとか。」
お姉さんは僕と一緒にホールを見回しながら、微笑みは絶やさずに解説をしてくれる。
「そうなんですね」
なるほど。生きる建物と言うコンセプトが、ここ異世界なら現実になってしまうのか。
とても素晴らしくもあり、そして同時に少し怖くもあるな。
「お客様はどういったご要件で?」
「ダンジョンに潜りたいなと。」
お姉さんに聞かれて、僕は素直に答える。
ギルドはまだ朝だというのに絶え間なく人が行き来していて、とても活気があった。
「まぁ! そうだったんですね!! 宜しければ、お手続きの方担当させて頂きます。」
「お願いします。」
初めての知らない土地でおっかなびっくりだったので、頼れるお姉さんがついてくれれば心強い。
「ではあちらのカウンターへ」
僕はお姉さんに連れられ、ホール端の受付まで足を進めた。
「冒険者カードの方、お持ちですか?」
受付に座れば、お姉さんがにこやかに聞いてくれる。
「はい持ってます。」
僕は懐から取り出すようにして、収納魔法で冒険者カードを取りだす。
「お預かりします。ダンジョンの方の説明だけさせて頂きますね。」
お姉さんはそう言うと、カードを魔道具にかざした。
「ダンジョンについてはご存知かと思いますので、水の都のダンジョンのルールなどについてです。何層あるかもどのくらい広いのかもまだ分かっていないので、奥に行く際はくれぐれもご注意ください。現在の最高記録は86層となっております。100層を超えた場合段違いに難しくなるかと予想されますので、ご注意ください。では、詳しいルールの説明に入りますね。持ち物は基本何でもありですが、大きな爆発をさせるような魔道具ですとかはお辞めください。あとは、爆発魔法などもダンジョン崩壊の恐れがあるのでご遠慮を。もしダンジョン内でトラブルがありましても、中での喧嘩などはお辞めください。地上に上がってからご自由にどうぞ。基本は先に行っている方優先ですので、道などですれ違う際はお気をつけください。ダンジョンは水の都が管理してますので、入る際には後ほどお渡しする管理カードを持って行ってくださいね。そして、ダンジョンに入る際と出る際には何層まで行けたかをご報告下さい。以上になりますが、なにかご質問はございますか?」
お姉さんはもう何度もする説明なのか、とてもスムーズに噛まずにダンジョンの説明を終える。
「分かりました、ありがとうございます。」
口頭説明なので全部は分かってないけど、まぁ要するに常識的範囲内で頑張ってなって話しだろう。
「では、こちらがお客様の冒険者カードと、管理カードになります。もし失くされた場合発行にお金がかかりますのでご注意を。あっ、あと10層ごとに『セーブポイント』と呼ばれるものがありまして、そちらにカードをかざすと次からはその階層から始めることができます。もしカードを失くされたらそちらも1層からとなってしまいますのでご注意を。」
お姉さんはカードを渡しながらも説明を絶やさない。
なるほど。セーブポイントなんて便利なものがあるのか。
元々ダンジョンにあったのか、人が作ったのかは謎だがとても有り難い装置だよね。
というか、思ったのだけど転移魔法で最深層までひとっ飛びとかできないのかな?
流石にピューンって感じには行かないのか?
潜るときにはぜひ試してみよう。
「では、本当にお気をつけて下さい。……ここだけの話なんですけど、」
どこか悲しげな顔でつぶやいたお姉さんは、周りを見渡してからカウンターから乗り出し、僕の耳に口を近づけると。
「ダンジョンの中で、不可解に冒険者が死亡するケースが増えているのです。冒険者同士の争いかと思うかもしれませんが、状況的にそれもあり得ないんです……。」
そう言った。
「なので、本当にお気をつけてください。」
椅子に座り直したお姉さんは、悲しげな顔から先程までのスマイルに戻すと、軽く頭を下げた。
「色々と有難うございます。気をつけますね。」
僕も頭を下げて、椅子から立ち上がった。
「またのお越しをお待ちしております。」
そんな元気な声聞きながら、僕はギルドを出た。
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