第13話 魔王ローズド
どれだけ魔法を打ち合ったか分からない。
数日立った気もするが、実は数時間なのかもしれない。
「もういいかの。初めに比べて圧倒的に魔力が研ぎ澄まされ、練度も上がった。私も年甲斐なく興奮してしまったよ。では最後と行こうか、なぁに簡単だ。君の使える魔法で一番強いのは神級魔法の圧縮率マシマシだろう。でも、魔法には限られた者しか行けない更に上の等級。私が言うところの魔級魔法がある。それを君独自に開発してほしい。私は少し休憩するよ。」
魔王はそう言うと結界だけ張って端の方に座り込んだ。
「魔級魔法か。」
僕は試しに魔力を普段の何倍も注ぎ込み、圧縮するを繰り返してみた。
生まれたのはただ魔力の篭もった神級魔法。これじゃだめだ。
「とうすればいいんだろう?」
僕と魔法との格闘が始まった。
◇ ◇ ◇
突然だが、僕は理系だ。
そして、元いた地球は科学力だけ見れば他の異世界の追従を許さない………と信じている。
そんな僕は量子力学や代数学、ユークリッド幾何学、一般物理etc...などなど科学的な知識がある。
sin (α+β) = sinα cos β + cosα sinβ
などなど。
使うかわからないが覚えていた。
これは基本的に物理方式が成り立つこの世界でも有効だと思う。
そして、それを魔法に生かすこともできると思う。
つまり何が言いたいかというと、僕は完全に手詰まりだということ。
あれから色々試したがどうにもうまく行かない。まじむずい。
そこで僕は気づく、スロが起きていることに。
「おおっ!スライムが初の突破者とはこれまたたまげた!」
魔王も腰を上げてスロを称賛する。
でも、スロは喜ぶこともせずただ僕を見ている。
「僕も突破しろってこと………か?」
僕の言葉にスロは大きく跳ねる。
「そうだな。負けてられない!」
僕は考える。
中級魔法と上級魔法の差を。違いを。
どうやって自分は魔法を使っているのかを1から見直す。
詠唱して魔力をつぎ込み、圧縮すると魔法陣が出てくる。
魔法陣、、、魔法陣?
僕は記憶の中の魔法陣を見比べる。
「あっ!」
そして見つける。衝撃の事実を。
「気づいたか。」
僕は魔王の言葉に答えるわけでもなくポツリとただつぶやく。
「違いは………無い?」
「そのとおり。違いはないのだよ中級にも王級にも。魔級にもね。等級なんてのは私達魔法を使う側が勝手に作った単位であってそれに魔法は左右されていない。じゃあ何が違うのか?単純だね。君ならもうわかるでしょう?」
僕は頷く。
「イメージ」
「そうお見事。威力も属性も距離も大きさも何もかも全部私達のイメージさ。実を言うと属性だってわたしたちの作った単位だ。」
魔王はそこまで言うと僕の肩に手を置く。
「どれ、仕上げと行こうか。君は今なら魔級魔法。いや、そのさらに上の魔法でも使えるかもしれない。僭越ながらそんな君の記念すべき初の的となるのはこの私敗北の魔王、ローズド。さぁ、私をめがけて魔法を撃ちなさい。痛いのは嫌だから一発でできれば全属性でお願いね?」
僕は突然のことについていけない。
「どういうこと?」
「言っただろ、君の最終試練の内容。私を殺すことだ。」
なぜか殺される方は清々しい顔して、殺す方は苦虫を噛み潰したような顔をして居る。
「本当にいいのか?僕なんかで?」
魔王は優しく僕に語りかける。
「君でいいんじゃない。君がいいんだよ。芯望 唯一君。私を開放してはくれないか?」
魔王は心底つらそうな顔で言う。
「なっなぜ?その名前を?」
「ふふふ、魔王をなめるんじゃあないぜ。それより、ほら早くしなさい。これが最後なんだから。」
両手を上に上げ僕に無防備に胸を晒す魔王。
「魔王ローズド、本当にありがとう。あなたは僕の中でずっと勝利の魔王です。安らかにお眠りください。」
僕は泣きそうになるのを必死にこらえ魔法を構築する。
膨大な魔力をそれぞれ別の属性にさせそれらを完璧にコントロールし編み込んでいく。
虹色に輝く繊維で出来たのは矢だった。
僕は現れた虹色の矢の後ろにとある魔法をかける。
これは一か八かの魔法であり、成功する可能性はとても低い。なので魔王には伝えない。
同じく魔力で生み出された金色の弓に矢をつがえる。
「穿て、
ビュウウウン
矢は弾かれた力のまま魔王の心臓へと一直線へと進んでいく。
「ありがとう。賢者の宿り木、芯望 唯一よ。」
魔王がそういうのとどちらが先か。
矢がその体に突き刺さった。
断末魔はしなかった。
刺さったというのになんにもなかったかのように静かだ。
刹那、眩いばかりの閃光が走る。
赤色は熱く、
青色は冷たく、
緑色は賢く、
黄色は優しく、
白は周りを包み、
黒はただまっすぐと、
魔王の体が光っていく。
最後に七色が混ざり、混沌になりあまりの眩しさに目をつぶった。
「なっ……」
そして再び目を開けると、そこに魔王はいなかった。
僕は消えた魔王の跡に落ちていたローブと指輪2つとイヤリングを取る。
「魔王さん……いなくなって…」
『おーい』
「僕はあなたを……ずっと…」
『おーい!』
「あなたのことを忘れない……」
『おーい!!』
「あなたの悲願絶対に……」
『おーいってば!!!』
「もう!うるさいな!今感傷に浸って………るんだ……から…?」
僕は拾った赤と青のイヤリングを見つめる。
『いやー、なんか死ななかったんだけど君わかる?』
イヤリングから半透明な体を表した魔王は少し照れ恥ずかしそうに言う。
「魔法はイメージって言うから、魔王が死なないでここから出ていけるようにって思って矢の後ろにつけたけど?」
『それだよそれ!!君のチートのおかげで私は助かったわけだ!実体化はできそうにないけど思念体として話すことなら出来そうだよ!!』
魔王は笑うが、僕は浮かない顔をする。
『どうしたんだい?』
「いやだって、魔王は僕についてくるしかないわけじゃん?それって死んだほうが良かったんじゃないかと思っちゃって。」
魔王は少し黙り込む。
『私は小さな頃、トラウマの時、前魔王に助けられた時から魔王になろうと奮起し、ひたすら鍛錬に生涯を捧げてきた。だから、人の世も、魔の世も知らないのだ。だから、君を通して世界を知ることができるなら、それは私にとって幸せとなるのだよ。君にしたら気持ちがいいものではないかもしれないが、よければ私を連れて行ってくれないだろうか?君の夢へと、君の希望へと。』
「………ぐ……ぐぶっ……ぁぁああ…」
僕はあふれだした涙を止められずにその場にへたり込む。
『何泣いとるんだ?私は迷惑だったのか?』
魔王は心配そうに聞く。
「いや、違くて、なんか今まで色々あって、感情が、上手く、出来なくて………。だから、魔王の親みたいな安心感が、嬉しくて…。」
『そうか。好きなだけ泣けばいい。君は頑張りすぎだ。………いや、それは君のせいじゃない。周りの環境が悪すぎた。王として、民をすべる立場として申し訳ない。』
魔王は透明な体で僕を遠慮気味に抱きしめる。
「っ!」
そこに温かく手触りのいい何かが加わる。
「フローラぁ!」
僕は後ろから抱きしめてくれたフローラに背中越しに声を上げる。
スロも頭に乗って僕をなだめてくれる。
「フローラ、試練突破したんだね!?」
「あぁ、胸糞悪い記憶にけりがつけられて清々して起きてみれば、お主が一人『魔王,魔王』言って泣いているから驚いてしまったよ。」
フローラは"ほら、泣け"と尻尾で僕の肩をゆする。
『フェンリルか、久しいな。お前も彼に惹かれたか?』
「魔王ローズドか。久しいというか暫く見ないうちに薄くなったな?」
「フローラ、魔王が見えるの?」
「あぁ。薄っすらとだがこいつの気味の悪い顔が見えるよ。」
魔王は心底心外そうに言う。
『おっとひどいじゃないか?私のマスコットキャラクター顔負けの善人フェイスを捕まえて気味が悪いだなんて!』
「ハハッ!たわけ」
楽しそうに話す二人。
「二人は知り合いなの?」
「まぁ、魔王と神獣だ。会ってしまうのは仕方あるまい。」
『腐れ縁ってやつだな。』
「『「ハハハ」』」
それからしばらく僕たちは笑いあった。
◇ ◇ ◇
「そういえば、この指輪とローブとかは何?」
僕は落ち着いたところで魔王に聞く。
『あぁ、試練の前に行っただろこれは
僕は魔王が指名制というのに驚くが、ファンタジーだし、世襲制よりは良いのかと思う。
『そのローブは魔王の象徴、宝石が付いている方の指輪は魔王の証明。何もついていない方の指輪は【魔王爵】の象徴だよ。』
「ええっと?魔王爵とは?」
僕は聞き慣れない単語に首を傾げる。
「長くなるが言うと、魔王爵とは私が現役だった時に友好関係にあった人間の国、ヤフリオ王国の爵位の一つだ。位としては王族の次に偉い公爵に準じる。税を収める必要はなく、土地は魔大陸にあるから王国内には持たない。よって領民もいない。魔大陸の方は私が消えたあとどこかの誰かが統治してくれているだろう。ようするに、公爵に並ぶ権力だけが手に入るというなんとも便利な位だ。ちなみにヤフリオ王国には私の時には5つの公爵家があるので魔王爵はかなり上位となる。」
最後に"まぁ、今でも王国が覚えていれば"と付け加えて魔王は説明をやめた。
『おい、魔王継承について話さないのか?』
フローラが魔王に言う。
魔王継承?
「あぁ、そうだった!!忘れてたよ!」
"ちょっと手を貸して"と言われたので僕は素直に右手を出す。
『えー、第864代魔王ローズド・ヒル・サタンヴィッチ・ルシファーの名において、彼の者……』
そこで魔王が小さい声で僕に聞く。
『唯一君、君こっちの名前決めてる?』
「いや、それと言って決めてないです。性別もどうしようか決まってないとこなんです。」
今は目くらましとして女の子の見た目だが街に出るとなるとボロが出るだろうし、なにより僕の心が持たない。
『そっか………。フローラ、おい!』
「なんだ?……ゴニョゴニョ」
『おぉ!ゴニョゴニョ』
魔王はフローラと小さな声でゴニョゴニョ話して、ゴホンともう一度声を張り上げる。
『第864代魔王ローズド・ヒル・サタンヴィッチ・ルシファーの名において、彼の者にレストの名と第865代魔王位を与える。
なお、レストはこれからレスト・ローズド・サタンヴィッチ・ルシファーを名乗ること。
また、ロズ歴107年の盟約によりヤフリオ王国において魔王爵を名乗り、レスト・ローズド・サタンヴィッチ・ルシファー魔王爵とすることを認める。』
この声に応じるようにして宝石のある方の指輪が光る。
僕は分からないがそれらしく魔王のもとに跪く。
「相変わらず長ったらしいな。」
『仕方がないだろう?名前・前魔王名・初代魔王名・初代熾堕天使名を名乗れってことなんだから』
僕が一連のことの意味がわからずあたふたしているとあぁ、と言って魔王が説明してくれる。
『さっきので君は晴れて魔王になったわけだ。そして君の名前はレスト・ローズド・サタンヴィッチ・ルシファー。長いから普段はレストと名乗るといいよ。そいで、君はこのダンジョンの周り一帯を統べているであろう大国ヤフリオ王国の2代目魔王爵でもある。いや、ただの平民から一気に大昇進だね!!魔族からは魔王として慕われ、人間からも公爵家と同等の敬意を受けるわけだ!』
その説明を聞いた僕は頭をかきむしり叫ぶ。
「ぜんぜんふつうじゃねぇぇーーー!!
さようなら僕の平穏な異世界ライフ、そしてこんにちは面倒くさい異世界ライフ!!!」
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