第12話 ダンジョン奥の魔王

僕らは気を引き締めて100層の仰々しい扉を開く。


「くっ!」


扉を開けた瞬間僕はさすような光に目を閉じて意識を手放…………さなかった。


しかし、吹き荒れる強風とあたりを覆う紫色の霧に地面に剣を突き立て飛ばされないようにするのが精一杯だった。


「ほぅ、お主あれに耐えるか。」


僕は声が聞こえた方に目を向ける、が何も見えない。


「久しぶりの客人だ、眠った奴らが試練を受ける間、君には特別試験としよう。」


その声とともにより一層強い風が吹き、あたりから霧は消え去り、風も止んだ。


「初めまして弱きものよ、我が名はローズド、敗北の魔王だ。」


圧倒的強者のオーラを放ちながら僕に自己紹介をした高そうなローブを羽織る男。


自分で魔王を名乗っているだけあって隙がない。


「まぁまぁそんなに警戒するな、ほれそこに座れ。」


魔王の他に立っていたのは僕だけだった。皆は地面に伏せて眠ってしまっていた。


「これは?」


「それの説明もしてやるからそこに座れ。茶も出してやる。」


僕は仕方なく魔王の前にある黒い椅子を引いて座る。


「紅茶しかない。」


「あ、ありがとうございます。」


出された紅茶を魔王が飲むのを見て僕も一口飲む。美味しい。


「話すか。」


僕が視線を向けると魔王はそう言って説明を始めた。


「君のお仲間はこのダンジョンの試練に挑んでいる。なぁに死にはしないさ。試練に受からなかったら1階層に飛ぶだけだ。」


「………そうか。よかった。」


「お主は精神力があれらより強かった。このダンジョンの精神干渉に耐えられるんだ、どんな苦痛を与えられて育ってきたのか。」


そこまで言うと魔王はハハッと笑う。


「おぉ、話がそれた。で、100階層もとい最終層はその試練に受かれば達成となる。試練の内容は至極簡単なものだ。」


僕はそこで魔王を見つめる。


「…自身の人生最大のトラウマに打ち勝つこと。」


「なっ……」


僕は息を呑む。自分がもし倒れていたらと思うとゾッとする。を思い出すことになると思うと。


「今までこの試練に耐えられたものは誰ひとりいなかった。そこで、私の話をしよう。老いぼれの世迷い言と思ってもらっても構わん。あれは私がまだ魔王として有名だった頃………」


 ◇ ◇ ◇


私、魔王ローズドは人間を侵略………することもなくただただ魔大陸を魔族をより良いものにしようとして魔王として君臨していた。


当時自分から他大陸に攻めることはなかったが魔族同士の争い、こちらが責められた場合に負けたことはなかったので巷では【勝利の魔王】と呼ばれていた。


私は様々な改革を行った。

人間界との取引や商談。武器を使うことや住宅の建方など。


様々な政策で民の生活が豊かになっていくのが嬉しかった。その反面自分の力を試してみたいとも思った。


そんなとき取引をしていた人間の商人からあることを言われた。


『人間の大陸にできたダンジョンを攻略してくれ』と。


魔族からしたらダンジョンなぞ恐るるに足らず。


私はここで人間の役に立っておいてもいいかとすぐに人間の大陸へと乗り込んだ。


ダンジョンは他愛もないものだった。

今では戦わなくなったが私も魔王になった当初は戦ってばかりの戦人だったから。


簡単に100層にたどり着いて私は最後の試練を受けることになった。


あまりの光に目をつむり、目を覚ましたときそこには私がまだ幼かった時の記憶の中だった。


村で妹とともに遊んでいたとき、はぐれ竜が出たのだ。


そして運悪く私達兄弟に目をつけた。


突然現れたドラゴンに妹は泣き出し私は手も足も動かなかった。


妹がドラゴンの爪で上に持ち上げられ、今まさに私に炎をはらむ咆哮しようとしていたとき。


本当ならばそこで当時の魔王がさっそうと現れ私達ともども助けてくれるはずだった。


夢の中では。いや、試練の中では魔王は来なかった。


多分私がそこで妹を助けようと思えるか、理不尽な力に立ち向かえるか。それを試していたのだと思う。


魔王としての力を手に入れた私ならはぐれ竜の一匹位敵ではなかったはずだが………私は動けなかった。


最愛の妹が連れ去られそうになっているのにも関わらず、自分が今まさに死にそうになっているのにも関わらず、指一本も魔力のこれっぽっちも出せなかった。


私はそこで目を覚ました。


目の前には変わらない100層のダンジョン。

私はこのダンジョンに気に入られてしまい、管理者としてここから出ることができなくなった。


 ◇ ◇ ◇


「それからもう何100年経った。未だにダンジョンを攻略したものはいない。こんななのさ。かつて人間から恐れられ、魔族を束ねた勝利の魔王も過去の記憶には勝てない。文字通り敗北の魔王なのだよ。」


魔王の紅茶を持つ手は震えていた。


「お前さんは眠りにつかなかったから本来100層突破しているのだが、私の独断と偏見により特別試練を授けよう。」


僕は魔王の瞳を見つめる。赤い瞳は、どこか苦しそうだった。


「私を殺せ。それが試練だ。」


そう言うと魔王は椅子から立ち上がり、魔力波を放つ。


とてつもない魔力にティーカップは割れ、僕も動けなくなった。


「少年。君の記憶は見させてもらった。君の心情や見た目がおなごな理由も分かったつもりだ。数々の苦痛に耐え、これから大きな壁をはねのけようとする君には強大な力が必要だろう。これはそれへの通過儀礼だ。そして、私から君への我儘伝承でもある。遠慮なんてせず剣を抜け、この敗北の魔王が直々に鍛えてやろう。」


大剣を片手で弄びながら言う魔王に僕は、剣を抜き構える。


「さぁ、始めようか。」


 ◇ ◇ ◇


「強いッ!」


 剣を交えるうちに出てきた言葉がこれだ。

 これしかない。


 力でもスピードでも何もかも魔王のほうが上で完全に押されている上に、こちらの隙きを狙ってついてきていて完全に指導剣だ。


「ほれ、もっと剣を強く握れ!」


 僕は無数に放たれる剣を躱し、剣で対抗し言われた通り剣を握り直す。


「そうそう。良くなった。」


 それだけいうと魔王はまた剣技を放つ。

 僕は勝てるビジョンが浮かばないが、自分が強くなっているのは分かる。


 ◇ ◇ ◇ 


「どれ、一回離れよう。」


 魔王の声で僕は一歩大きく下がる。


「剣はこれで大丈夫だ。合格。初代まではいかんが今の剣聖位にはなったか?もちろんあったこともないがの。」


 ハハッと豪快に笑う魔王。


「次は魔法で来い。」


「はい…。」


 僕はふらふらな足つきで壁際に行き腰につけている剣をすべて置く。


 そしてふと、入り口を見る。


「なっ………」


 そこにはニルが居なかった。


「フェンリルのお嬢ちゃんは脱落か。まぁあれまでよく耐えたな。」


 魔王はそれだけ言うと僕に魔法を放ってくる。


「無詠唱!」


「こんくらい当たり前なのだよ。我魔王ぞ?」


 僕も魔法で相殺し、反撃する。


「ふん!君の魔法から推測するに才能、魔力量、適性は十分だ。私を超えているかもしれぬ。でも問題は《練度》と《応用力》だ。」


 魔王は3つの魔力球を浮かべる。


「例えば、水属性で強い球を作れというと君のように才のあるものは上級や王級などただ闇雲に等級だけを上げる。だが、それじゃあ成長はない。ほれ、」


 僕は投げられた魔力球を受け止め、操作する。


「これは!?」


「そうだ。左は王級、真ん中は中級、右は初級未満。なのに強さは同じだ。では何が違うか?簡単だ、魔力濃度を極限まで高め圧縮したのだ。これをお前のような才のあるものはくだらないと言うかもしれんが、これこそが魔法の真髄、自由度の高い魔法の奥深さなのだよ。」


 魔王は片手で生み出した王級魔法の圧縮した見ただけで分かるをいじりながら言う。


「じゃあ、そこんところを鍛えるため一つ条件をつけよう。私が魔法を打つからそれを見て同じ魔法、同じ等級、同じ圧縮率で返せ。」


「わ、分かりました。」


僕はかんたんに言うそれの難しさにげんなりする。

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