幕間 その後の先生。
Sideテイチ先生
☆ ☆ ☆
俺はレストの雄姿を最後の最後まで見届けた後、目尻に浮かぶ涙を拭いながら、ゆっくりと歩き出した。
「スゴかったなぁ!!」
「ヤベーよ!!」
「Aランク超えじゃん!パネェ!!」
周りから男どもの声が聞こえてくる。
俺はその声に嬉しくなりながら、職場へと戻った。
◇ ◇ ◇
「終わりました。」
俺はかなりの重さの木箱を地面に置き、腰を叩きながら一応に声をかける。
「おぉ、じゃあそっちのお願い………。」
俺のことを労うことも見向きもせずに、スッと部屋の隅の次なる仕事という名の荷物を指す上司。
教え子の成長で涙してよし仕事をやろうと戻ってきてから、両手で抱えられる程の大きさの木箱を倉庫から事務所、事務所から倉庫へと運ぶ仕事をしているんだけども。
これなんなん?
百歩譲って事務所から倉庫へ運ぶだけならわかるけど、事務所から倉庫に運んでその流れで倉庫から別の荷物を事務所に運び帰るのになんの意味が?
まぁ、仕事なんでやりますけど……。
俺は指された木箱に手を掛けて、ため息を吐きながら歩き出した。
◇ ◇ ◇
「あの、俺一応教師なんすけど?」
流石に10往復目に差し掛かったところで、抗議の声を上げた。
意味わからん木箱を20個も運ぶとかいうのは、教師の仕事じゃないんじゃ?
てか、もう業務時間終わりでは?
残業代出ますかこれ?
「私もだよ。でもしかたなくない?今はこれしか仕事ないんだもん。火は消えたしみんな落ち着いてきたから、明日には授業再開できるってさ。」
上司が、手元の仕事表みたいなのをペラペラしながら言う。
そしてその後、ふーとおでこの汗を片手で撫でて暑いなーと胸元をパタパタ………。
…………俺男なんだけど……その…見ちゃいますぜ?
「それはわかるんですけど、こんな雑務したくないんすよ。てか、時間外業務なんですけど?」
俺はその2つのお胸を見ないようにしながら、悪態をつく。
「私もだよ。そんなにやりたくないなら、他のとこ行くか?」
胸のボタンを2つも開けた上司が、こっちに向く。
いや見えてる…………谷がぁ谷が………。
「いけるんすか?」
このままだと俺の体力的にも精神的にも死にかけるので、行けることなら他のところに行きたい。
できるなら、紙の書類をペラペラしてはんこを押すだけの仕事とか。
「おうよ!怪我人の治療に市民の暴動の抑制。燃えた建物のガレキ撤去、寮を直すための計画会議。あぁ、あとは関係各局への連絡と謝罪、今後の計画文書の作成なんかもあるぞ!!どうだ!?よりどりみどりだぞ!!?」
書類の束を胸の下に抱えて、そのプルンプルンをバルンバルンしながら俺に詰め寄る上司。
いや、来るなくるなクルナ!!!!
もうその狂気的なお胸を見せつけないで!!爆裂魔法もびっくりの破壊力だからぁ!!
「…………あっちのやつやってきます。」
俺はありがとうございますと上司を心のなかで拝みながら、部屋の隅の荷物に手をかけた。
「はーい。」
クソっ!見せてる方は呑気でいいよな!!!
少しは気にしやがれ!!あと、ごちそうさま!!
「んとに、あれはズルいって……。」
あいつとは学生時代との付き合いだ。
上司というのは役職上の話で、実際にはさほど立場も変わらなければ遠慮とかもない。
まぁ、昔っから尊敬してるし…………多少の恋心はあるけど。
「ちっとは気にしろよな。あんなバルンバルン持ってんだから。」
好きな人が胸見せつけてくるのは、信頼されてる証でもあり、男として意識されてない証でもあるから、喜んでいいのか泣いていいのかわからん。
まぁ、それ以前に見せないで頂きたいんですけども。
「あ、テイチ先生!」
俺がぶつくさとあの女に文句を言いながら、学園の廊下を歩いていると、声がかけられた。
「おぉ、リリア。どうしたんだ?」
振り返ると汗をかきながらとても不安そうな顔をしているリリアがいた。
一応こいつはこの国の第三王女で、しかも最近その存在が明かされたとかいうワケあり娘なんだけど………。
「いや、お見かけしたので声をかけただけです。」
そう言いつつ、俺のもとに駆け寄ってくるリリア。
こいつのクラスを担当したこともなければ直接的な付き合いなんてすれ違う程度しかないのだけど、何故か懐かれてる。
今までは不思議でならなかったけど、あの戦いを見たらレスト繋がりなのかなと納得した。
「そうか…………あいつはどうだ?」
俺は彼女の顔に普段とは違う憂いがあるのを見つけて、そう話しかけた。
多分このことを聞いてほしくて、リリアは俺に声をかけたんだろう。
こういった相談とかにのるのも先生としての役目だしな。
「眠ってます。お医者さんが言うにはただの魔力不足らしいです。」
渡り廊下の端によって足をブラつきながら、リリアが呟いた。
「そうか。びっくりしたぞ。」
「ん?」
俺の返した言葉にリリアが意味がわからないといった声を上げる。
「あいつとお前が仲いいなんてな。」
もうすでに復興を始めた学生寮や他の街並みを眺める。
ほんと、人間ってすごいよな。1日も立たずに建物を建てられるんだから。
「…………仲……良いんですかね。」
リリアは俺と同じところを見つめているようで、違うものを見ていた。
その瞳はとても不安そうでいて、その答えを俺を通して奴へと直接問いてるようであった。
「…………分からん。」
俺はつくづく青春ってのはめんどくせぇなと空を仰ぎながら、ぶっきらぼうに言い放つ。
「……………。」
それを聞いてリリアは下にうつむいて黙ってしまった。
「けど、少なからずあいつにとってお前は、普通のやつとは違うんじゃないか。」
落ち込む彼女に俺は、そんなただの感想を伝えた。
理論?理屈?相手の気持ち?考え?
知ったことかそんなもん。
困ったときは、素直に感じたことを脳なんて通さずに伝えてみればいいんだ。
案外考えに考え抜いた相手を傷つけない一言より、そっちのが心に来るってもんさ。
「……ですかね。」
リリアは両の手をいじりながら呟いた。
「おう…。」
そう呟き返したとき、バッといきなり立ち上がったリリアが俺の方を見て、
「呼び止めてしまってすみません。お仕事頑張ってください。」
スッと頭を下げて走り始めた。
その背中にはまだまだ迷いがあったが、最初のような不安定さはなくなっていた。
「はいよ」
俺は大声で彼女の背中を押すように叫んだあと
「…………時間外労働だけどな。」
そう軽口を添えた。
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