レストの休日
朝!
『レストの休日シリーズ』は本編に直接関係がありませんので、読み飛ばして頂いても問題は御座いません。
◇ ◇ ◇
「んん………何しよっかな。」
学校もなく、やることもさして無い暇な休日。
ほしいほしいと思っていても、いざほんとにゲットするとなんか使い道が見当たらない。
「何するのだ?」
布団で寝転がったままの僕にフローラが訪ねてくる。
「うーん。特にやることないかな。」
行くとしたらギルドかな。
「そうか。」
フローラはそこまで興味もなかったようで、ふあーと少しあくびをすると、毛布に潜り込んでいった。
「着替えるか。」
休日にしては早めに起きたから二度寝もいいんだけど、一度起きるとなんか寝付けないんだよね僕。
だからしかたなく活動することにした。
寝間着から普段着へとノソノソ着替えていると、
「ふぃぃ………」
スロもそんな情けない声を出しながら起きてきた。
スリスリとひんやりボディーを僕にこすりつけておはようの挨拶をするスロ。
こいつめ、かわいいじゃないか。
僕は着替え終わったので、スロを抱きかかえてその体をぷにぷにして遊ぶ。
うん、いつもと変わらないこの絶妙な感覚。
「ふぃぇええ………」
スロ自身もぷにられるのは気持ちいいらしく、惚けたような声を上げてぐでーんと広がる。
「ふあぁ……朝ごはん…。」
あくびを噛み殺して、僕は歩き始める。
といっても部屋の中なんで、数メートルだけど。
部屋の真ん中らへんの机に座って、水差しから水をとりゴクリ。
うん、常温で美味しいよ。
「ふぃっ!!」
僕がお水のおかわりを取っていると、スロが膝に乗ってほえた。
「飲みたいの?」
僕は水差しを指さして尋ねる。
「ふぃい!」
元気に答えるスロ。
どうやら、彼はお水をご所望のようだ。
さらっと彼と言ったけど、未だに性別わからないんだよな。
というか、スライムに性別って概念あるのかな。
僕は浮かんできた疑問に頭を使いながら、水差しをスロの方に持ってきて…………止まる。
「うーん。このままだとダメだよな……。」
ぷるるんとしたスロの体に直接お水を注ぐのはなんというか、水がこぼれてしまいそう。
仮にこぼれなくても、いじめてるみたいで嫌だし。
「ふぃい……。」
水ほしいと呟くスロ。
ちょっと待っててね、今考え中だから。
「あぁ、そうだ。」
僕は手鼓を打って頷く。
「ふぃ?」
スロはその様子に首を傾げた。
…………首はないよ。比喩だよ。
「スロ、僕の手を飲んで。」
僕は膝下の彼に右手を差し出して言う。
「ふぃい?」
スロは良いのと僕を見上げてくる。
…………目はないよ。比喩だよ。
「大丈夫。本気で溶かさないでくれたら。」
僕は左手でスロを撫でながら微笑む。
やっぱ、このフニって感触良いよね。
日本でもスライムって人気だけど、やっぱ
「ふぃ!」
スロはえいっと思い切って僕の手を飲み込んだ。
半透明な体越しに僕の肌色の腕が見える。
おぉ、外側から触るのもなかなかだけど内側の感触。これも乙ですな。
更にヒンヤリとしていて、夏には重宝しそうだ。
これが世に知れれば、一家に一匹スライム!とかなっちゃいそうなくらい。
「
朝のまだ未覚醒な脳で適当な詠唱を考えて発する。
ジョボボボとスロの体の中に水が生まれる。
このままだと彼の体が破裂しそうだけど、そこは心配ご無用。
なんかすんごい気持ちよさそうにスロが飲んでいるから、水があふれることはない。
てか、こんな考えるのに一秒もかからない呪文でも、イメージさえしっかりしていれば発動するんだね。
魔法って面白いや。
「ふぁあ……。ご飯にひよ。」
僕は呂律の回らない声で、そう呟いた。
「きのみ〜、き〜のみ〜、のみのみ〜、き〜のみ〜〜!」
謎の木の実の歌を口ずさみながら、僕は朝ごはんの用意をする。
レスト式朝ごはん。用意するのはたったの2つだけ!
森でたくさん取れる謎の木の実。
お水。
以上!皆もやってみてね!
昼の1時半くらいに流れてそうなお料理番組を思い浮かべながら木の実をパクり。
うん、やっぱなんとも言えないこのお味。
僕は好きなんだけどね。
「ふぃい」
スロが膝上であくびをかます。
まだ朝早いし、眠いよね。
「ごちそうさまでした。」
手を合わせて、食後にお水をゴクリ。
常温のお水だねぇ。特筆して言う事も書くこともない。
「何しようか。」
着替えてご飯食べてと、朝のルーティーンを過ごしてしまえばやることが無くなる。
「魔法の訓練でもいいし、ギルド行ってもいいし、図書館行っても本当に何してもいいんだけどな。」
午後にギルド行こうかな。
「ふぅい……」
スロが太陽の光を浴びて気持ちよさそうな声を上げた。
「図書館行こうか。」
それを見てなんとなく、本を読みたいなと思う。
本当に全く関係ないんだけど、読みたくなってしまったものは仕方ない。
「ふぃい!」
スロもぴょこっと跳ねて賛成のようだ。
「じゃあレッツゴー!」
「ふぃぃぇんん!!!!」
僕らは図書館へと向かった。
◇ ◇ ◇
「何読もうかな…。」
図書館なので小声で呟く。
「ふぃ……い……」
フローラとニルはまだ眠そうだったのでお部屋でお留守番中。
ここにいるのは僕とスロだけなんだけど。
「寝ちゃったよ…。」
スロは図書館に入ってすぐにすやすやと寝始めた。
しょうがないなと僕は彼を肩に乗せて本を探し続ける。
「ここは………天文学か。」
奥の方の棚の札を見てつぶやく。
この世界ではどんな感じになってるんだろう。
僕は適当に一番近くの本を引っ張り出してみる。
「『星の形と動き方について』か。」
地球では完璧な円とされていて、そこから楕円ということとか地球が回ってることとかが分かったんだっけ。
僕高校生だったし、そういうことにあまり興味がないタイプだったからな。よく分からないけどそんな感じだった気がする。
僕は面白そうだし気になったので、その本を近くの椅子に座って読んでみることにした。
開くと、あらすじも何もなく『一章、星の名前』から始まる。
結構基礎知識からなのね。
僕はその本を中々に熱中して読んだ。
簡単に言うと、天動説と地動説について。
いろんな説とか学論が書かれていたけど、最後は結局あやふやにされて終わりになっていた。
正直天文学的な学びはなかったけど、他のところでの学びはあった。
この本の中では『メシウ教』というものが良く出てきて、かなりその宗教に配慮したような書き方をされている。
やっぱりこの国では宗教の力が強いみたいだね。
「んー………」
僕はずっと本を読んでいて凝り固まった体を伸ばす。
時計は12時を指している。
昼ごはんでも食べようかな。
僕はそう思って本を戻して、外に出た。
「あっ!」
僕が降り注ぐ日差しに自分の手をかざして血管透けるなと遊んでいると、前からそんな声が聞こえてくる。
「お久しぶりです。」
「お久しぶりです、リリア様。」
そこには、白いワンピースに麦わら帽子をした王女様がいた。
「図書館、よく来るんですか?」
後ろ手に両手を組んで、僕を覗きこむ王女様。
いつもと違ってその長い銀髪を、なんか名前はわからないけど、ふわっとやる結び方で結んでいた。
普段の何もしないのも十分に可愛いけど、結ぶと髪の毛に流れがついてよりキレイさが際立っている。
「まぁたまにですかね。」
一時期は毎日お世話になってましたけど。
……………………特に夜にね。
「そうなんですか。これからどちらに?」
他人の邪魔にならないように、僕らは道の脇にそれて話をする。
「お昼ごはんでも食べようかなぁと。」
僕がそう言うと、
「あら、奇遇ですね!私も今から食べようかと思ってたんです!!」
王女様は満面の笑みで、手に持っていたバケットを差し出す。
「なら、ご一緒にどうです?」
ニコニコとしている彼女を見ていたら、口からそんな言葉が出ていた。
「是非とも!」
気が付かぬうちに出ていた言葉だけど、王女様はとても嬉しそうだし、まぁいっか。
僕がそう自分の中で納得していると、
「あの…………」
王女様がそううつむきながら言う。
「どうしました?」
くいっと僕の服の裾を引き、顔を上げて僕を見上げるような形になると、
「良ければ私のお気に入りの場所があるので、そこで食べません?」
そう呟いた。
「……喜んで。」
僕は思わず変な声が出そうになるのをこらえて、ゆっくりと返答する。
いや、危なかった。危うくぶふぉっとかぐわぁっとかそんな奇声を上げるところだった。
「行きましょうか!」
王女様は自分が与えた影響を知りもせず、立ち上がって微笑んでいる。
「はい。」
最初に出会ったときにはあんなに憔悴しきって、生きる気力や希望すらも見失ってしまっていた彼女が、僕の言葉一つで笑ってくれるようになったのならば、それは良い事だろう。
僕だけの力で彼女を救えたなんて言わないけれど、一人の少女を助けるきっかけと成れたのならば、僕も生きている意味があるのではないかと。
彼女が楽しそうに歩く姿を見て、僕はそう思いながらその隣に並び歩き始めた。
「ここです。」
図書館から約10分くらい歩いたところで、彼女は立ち止まった。
「うわぁ!すごい綺麗ですね!!」
僕は見えた景色へ素直に感想を述べる。
そこは小高い山のような場所になっていて、街の景色を見渡せた。
「はい。ここから見る街の景色が好きなんです。外に出れるようになったのは最近ですけど、お気に入りなんですよ。」
風に吹かれて乱れる髪の毛を抑えようともせずに、景色を真っ直ぐに見つめながら王女様が呟く。
放射状に広がった銀の髪を見て僕は、
「あれから、大丈夫です?」
そう言っていた。
あれからでは分からないかもしれない。
僕と彼女が共に過ごした時間は短いが、その濃度がとても濃いから、どんなふうに解釈することもできるから。
「はい。お陰様でとても楽しい日々を過ごさせて頂いてます。」
でも、王女様は僕の言いたいことを察してくれたみたいで、こちらへと目線を移してふんわり微笑んでくれた。
「魔王様は…………。」
僕の名前を呼んだあと少しの時間固まった彼女は、
「名前をお聞きしても良いですか?」
首を傾げながらそう尋ねた。
「あぁ、名前。まだ言ってませんでしたね。」
何度も言おうと思ったけど、機会がなくて未だに教えてなかった。
「いつまでも教えてくれないので、嫌われてるんじゃないかと悩んだこともあるんですよ。」
リリア様は口をとがらせて愚痴る。
「すみません、普通に忘れてただけです。僕の名前は…………。」
僕は申し訳なく思いながらも、今回こそは名前教えようとして…………固まった。
「んぅ?」
どうしたんですとリリア様が僕の顔を覗き込んでくる。
話したくないわけじゃない。
教えてあげたいと思っているし、そうするつもりだ。
ただ、どっちを教えればいいのかが分からないのだ。
こっちの名前とあっちの名前、何時も教えてるのはレストの方だけれど、彼女になら………。
あっちを教えるのはリスクを伴うし、はっきり言って普段呼ぶこともないから教える必要も無いかもしれない。
けれど、リリア様には教えて…………知ってもらいたかった。
「その、僕ちょっと事情が複雑で…。名前が2つあるんです。」
僕は悩んだ末でそう切り出した。
「なるほど……?」
結構な時間待っていたはずの王女様はそう言いながらも、頭を捻って分からないと言った顔をしている。
「皆に教えているのは、レスト・ローズド・サタンヴィッチ・ルシファーです。」
フルネームを名乗るのは久しぶりな気がする。
「レストさん?」
僕の長い名前を聞いて、王女様はちゃんとそれを復唱してから、そう尋ねた。
「はい。それで、もう1つ。」
僕はこんな山の上に誰もいないとは思うけれど、どこに耳があるかわからないので、彼女の耳に顔を寄せて、
「
小声で、そう囁いた。
「ぬっ!!」
「上が名字で下が名前です。」
変な声を出した王女様から体を離して、僕は名前の解説をする。
こっちの世界では家名を持ってる人は少なくて、その方式も欧米と同じで、名前が上で名字がしただからね。
「その、レストじゃない方は基本的に呼ばないでもらいたいんです……。」
そこら辺の事情もいつかは王女様含めて、マッソとかヒスイとかフェルン君とかにも言えたらと思うけど、今はまだそうお願いするのみにとどめた。
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