第133話 ー市井の混乱ー

「じゃあ、また後で!」


そう言っていなくなった少年を、二人は見上げた。


「さてと、久しぶりに頑張るかなぁ」


「まさか魔王と共闘することになるとはな」


「アハハ、私もまさか精霊王。それも水の精霊王様とご一緒するとは思ってもいませんでしたよ。あと、魔王はもう引退してるんで。」


二人はお互いに楽しげに笑いながら、コキコキと首やら腕やらを鳴らす。


精霊王と、魔王。


本来なら交わることのないであろう二人が、今こうして人間のために戦おうとしているのは、ひとえにあの少年のおかげせいだろう。


「我……私は、あっちにいく」


精霊王は街の北側を、


「なら、私はこっちで」


魔王は南側を指さして言いあう。


そしてお互いに背を向けると、


「「じゃあっ!!!」」


そう、まるで競い合うように飛び出した。




………

……




「た、助けてくれ……!!!」

「どうなってるんだ、なんで街に魔物が!!」

「押さないで!! 妻とはぐれてしまったんだ!!!」

「お前、押すんじゃねぇよ!! おい、俺が先だ!!!」


街では、人々が我先にと逃げ出し、混乱の渦が巻き起こっていた。


突然の爆発に、現れた魔物。


冒険者や衛兵の活躍と、強い魔物が何故か消し飛ばされるという幸運により、幸いなことに死者はまだゼロ人であった。


しかし、怪我人は多数あり。

重症者も何名かいるそうだ。


持ちこたえていた冒険者、衛兵もジリジリと後退を始めて負け始めていた。


まさに絶体絶命。


そんなときだった。彼、彼女が、現れたのは。




 ◇ ◇ ◇



「あらら〜、これまた派手にやってんねぇ」


そんなつぶやきとともに、街の南側に閃光が走る。


「ッ!! なんだ!!?」

「敵襲かっ!!?」

「顔を伏せろっ!!」


驚いてとっさに目を閉じた彼らが、目を開いてみたのは。


「う、嘘だろ……」

「魔物が……死んでる……」

「誰だ……だれがっ!!?」

「神だ……神の御力だ……!!!」


焦げた地面と、倒れている魔物たちだった。


「「「うぉぉぉぉおお!!! 神よぉ!!!」」」


そう、神に祈りを捧げ始めた彼らの上空では、


『私は神なんて、無責任なやつじゃないんだけどな』


そんなつぶやきが溢されたそうだ。




 ◇ ◇ ◇




「どうしますか、隊長!!?」

「どうするもこうするも、応援を待つしか!!」

「無理ですよ!! もう十分もしないで負けます!!」

「それならっ!! 少しでも長く持ちこたえるんだ!!」


南で人々が歓喜の声をあげているその頃。

水の都の北側では、血で血を洗う争いの真っ最中だった。


こちらは強い敵はそこまでいないが、量が凄まじく、戦いは泥沼化していた。


「クソぉっ!!! こんなところで、負けてたまるかァァァあああっ!!!!」


隊長と呼ばれていた男が、四方を魔物に囲まれて、絶望の雄叫びを上げる。


「神よ、神よお助けをっ!!!!」


振り払って進もうとするが、その先にも魔物。

これ以上無理かと思われた、その時。


『なら私は助けなくていいかな……ってね』


長年の友達にかけるような軽い感じに、誰かがつぶやいた。


『よいしょ』


そして、そんなつぶやきの後、あたり一帯に風が吹き抜けた。


「ッ!! なんだっ!!?」

「あ、雨っ!!?」

「飛ばされるなっ!!!」


いきなり吹き荒れた嵐に、混乱しつつも男たちは目をつむる。


そして、次に目を開けたときには…………。


「た、倒れてる……!!?」

「どういうことだ!!?」

「全員が、一体残らず倒れているだと!!?」

「か、神の嵐だ……!!!」


『うん、まぁまぁかな。あと、神じゃなくてだよって。』


うぉぉおお!! と歓喜の雄叫びをあげる彼らを見て、王は小さく微笑んで、他のどこかに飛んでいった。




こうして、水の都は危機から脱出した。


死んでしまった人も少なからずおり、街の一部は壊されてしまっているが。


それでも、いきなり魔物の群れに襲われたにしては、上々すぎる結果だ。



さて、市井での混乱は醒めた。


あとは、君が長い長い夢から醒めるだけだ。



モーニングコールはきっと、君が慕ったあの人と同じ肩書を持つ、彼がしてくれるから。




「あとは、任せたよ〜」


「さぁて、お手並み拝見といこうかな。賢者様」



魔王と精霊王が見守る中。


賢者と、かつての賢者を求め続ける者は、交差する――――







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